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三章 コーヒーの香り

事の始まりは3か月前。俺はとある豪華客船、クルーズ船の清掃員だったんだ。その日は客室のベットメイキングを終えて、昼休みに行こうと船の甲板を通ったら黒くて裾の長いマントを着た人影を見た。俺は怖くてただ茫然と立っていることしかできなかった。するとその人影は俺に気が付いたのか振り返った瞬間自分の目と鼻の先まで近づいていた。動けない。動いたら何をされるかわからない。死神。そう呼ぶしかない、顔も手ですら骨だった。

 死神は明の顔に近づき見ていた。明をただ見ていたそしてゆっくり離れた。

 

 「おれその後の記憶が無いんです。気づいたら病院で目を覚まして……。テレビつけたら乗っていたクルーズ船が火事にあって爆発したって。生き残ったのは俺を合わせて三人だけで、その日からさっき話した死神みたいな骸骨の幽霊?が見えるんです!」

 

 明は思いの丈を全部話した。信じてもらえるか分からない、でも今ここで見てきた事をありのまま話さなければ信じてもらえない。藁にも縋る想いで此処に来たのだから。

 「……なるほど、それで君はどうしたい?」

 「え?それは……もちろん助けてください!」

 「本当にそれでいいんだね?」

 「…………はい」

 明は何故こんな質問をされているのか分からなかった。でも今はあの死神に殺されたくない、毎晩深夜になると現れてじっと立っているだけ。再就職した職場でも現れて困っていた。次第にそいつは俺の腕や足を掴んで邪魔をして最終的に仕事を辞めた。精神科や心療内科にも行ったけれど、何も問題はないと言われ途方に暮れていた。駄目元で警察署に行ったがあまり相手にされず帰ろうとした所で夕済探偵事務所を紹介された。

 「わかった。その問題解決しよう」

 「ありがとうございます!」

 「ただ先に謝っておくね。ごめん!」

 「へ?」

 彼女も重い溜息をついた。明は二人を見てただ困惑するしかなかった。

 「?」



 「桜、当時の資料はある?」

 「できています。事件の内容をお話ししますね」

 匡人は眼鏡をかけて明が先程話していた内容の要点を書きだしていた。そして助手の桜に明の事件の資料を昨晩から集めさせていた。

 「3か月前。1月末に起きたクルーズ船沈没事故、乗員乗客合わせて127名が死亡した事件です。事故の原因はエンジントラブルによる操縦不能の沈没事故になっています」

 「乗客は全員助からなっかた?」

 「残念ながら、船員が全員昏睡して一般のお客さんは何もできず溺死しました」

 「そうか……船員全員が昏睡……」

 「はい。遺体を回収した船員全員から睡眠薬の成分が出ています。逆に乗客の方々からは何も出てきませんでした」

 「そしてこのクルーズ船は一度港に緊急停泊しています。その時乗客3名が体調不良で下船しています」

 「……この時降りた人が怪しいね。3人の内1人は明君だから、他2人が誰か分かる?」

 「少し待ってください」

 「了解。コーヒーでもいれてくるか」

 匡人は二階のキッチンに向かおうとしたが、明に呼び止められた。

 「匡人さん!俺も何かできることあります?」

 匡人は明の顔を見て気づいた。この子は誰かがなにかしていると自分も何かしていないと落ち着かない性格なのだろう。

 「明君!」

 「は、はい!?」

 「コーヒーの淹れ方教えるから手伝って?」

 匡人は軽く笑って二階へ行ってしまった。コーヒーの淹れ方?事件の捜査の手伝いじゃ無くて?頭に疑問を抱えながら桜さんを見たが、物凄い速さでパソコンと戦っていたのを見て、話しかけるのを躊躇い声をかけずに匡人の後を追った。



 この事務所は3階建てになっていて、一階は事務所兼匡人さんの部屋、二階がキッチン、風呂場、トイレ、ダイニングになっている。そして三階が桜さんの部屋と空き部屋がある。ちなみ空き部屋は桜さんの部屋と向かい合うようになっている、何故か匡人さんに案内されている。

 「で、ここがね……」

 「ちょっと待ってください!」

 「ん?どうしたの?」

 「コーヒー淹れるじゃなかったんですか?」

 そう俺が質問したら、匡人さんの目が一瞬泳いで本題に入った。

 「あー、ごめん。ごめんコーヒー淹れに行こうか」

 「…………」

 明の思考が止まり、失礼ながらもこう思ってしまった。

 俺はこの人に依頼して本当に大丈夫だろうか?間違ったのでは?

 


 「そうそうゆっくりお湯を淹れて、のを書く様に注いでね」

 「結構……難しいですね……そういえばインスタントは飲まないんですか?」

 明は疑問に思う。今はインスタントでも美味しいコーヒーもある。コーヒーメーカーでさえあるのに何故、こんなに手間をかけているのか分からない。

 「うん……そうだね、今は沢山の飲み方があるね。……ここではね、この淹れてる時間と香りが精神安定剤になっているんだ」

 「誰のですか?」

 「……その内分かるよ」

 匡人さんがこの時言ったことは、後になって俺は理解した。ただ今は淹れ方について教えてもらっている。

 一時間かけて淹れて明は真剣なってしまい気疲れして、事務所に持って行った時にはくたくたになっていた。

 「……すみません。腕が筋肉痛になってしまって」

 「あはは、凄く真剣にやってたからね無理しなくていいよ。桜、持ってきたよ……」

 「…………」

 「……桜?」

 桜の目は虚ろで光がなかった。匡人が声をかけてはっとしたように気が付いた。

 「先生!乗員名簿送ってもらったやつ、ここに置いていきますね!」

 桜は慌てて事務所を出て行った、ちゃんとコーヒーも持って。

 明は筋肉痛の腕を揉みながらソファーに座っていた。彼女がいきなり大きな音を立てて出て行ってしまい驚いていた。

 「……」

 匡人は静かに置いてある資料を手に取って内容を確認した、そして目を細めた。どうして彼女が慌てて出ていった理由が、資料に書いてあった。

 「ど、どうかしたんですか?」

 「……ごめんね。今は話せないんだ」

 匡人は悲しい表情で笑って見せた。これ以上聞けない雰囲気で俺はそうですか。と答えて、さっき淹れたコーヒーを飲んだ。少し冷えて苦かった。

 さすがに今日は桜さんの具合が良くないとの事で、話し合いはお開きになった。明日また再開すると匡人さんが片づけを始めた、俺は事件が解決するまでここに泊まっていいといわれて、言葉に甘えて泊めてもらうことにした。

 桜さんはあれ以来部屋から出てこなかった。匡人さんが夕食を部屋に置いていたが、食べたかは分からなかった。





 桜は部屋に籠ってからは暫く何もせずベットに体育座りして、テーブルに置いたコーヒーをずっと見ていた、自分の腕を握る手に力がはいる。

 

   外のことなんて知らなくていい、お前には関係のないことだ。


 「……はい。わかりました……次のテストに……いきます……」

 部屋には月明かりが差し込んで、綺麗な青紫の夕日が桜の部屋を照らし続けていた。

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