三者面談 ~異世界に行かせたい母親と現実を進める先生~
「真佐さん、お入りください」
「失礼します」
ガラガラ……ピシャン!
三者面談がはじまった。
いつもとは違い、ピリピリムードの桑波先生。
顔が引きつり気味の母親。案外リラックスしているぼく。
中学3年の三者面談となれば、進路志望が話のメインとなる。
さっそく、先生が先日提出した進路志望表を出しながら話をはじめた。
「えー、第一志望『異世界転移』とありますが、私の知る限り、そんな学校は無かったかと思います。もしかして異世界県立転移高校というものでも存在するのでしょうか?」
先生は、かなり困った顔をしている。ラノベのジャンルにも疎いようだ。
「これは、母の意見でありまして、第二志望もそうなります」
「第二志望は『異世界転生』ですね……」
先生の頭から???が噴出しているように見える。
「そうざます! 異世界にいってワンチャン賭ける、これしか無いざます!」
母は、成金風のどオタクだ。一応、転移が先であることが、母としての優しさなのかもしれない。転生は死んじゃうからね……
「別の世界にいって、そこでやり直すという事でしょうか? 真佐くんは成績に問題は無く、かなり選べる学校の幅は広いのですが……」
そう、自分で言うのもなんだが、ぼくは頭は悪くない。一応、中の上といった位だ。
第三志望には、ちゃんとした学校を記載してある。
「現実は全くもって駄目ダメざます! こんな世界にいては、夢も希望も無いざます!」
これはどうしたものかと困惑する先生。かたや、幼いころから英才教育ならぬ、どオタク教育を受け続けたぼくにとっては、日常の風景でしかない。
「そ、それでは……仮に……仮に異世界にいったとして、どのようになってほしいのですか?」
「まずは勇者ね! 魔王を倒してハーレム三昧を味わってほしいざます! もちろん、チート能力で無双するのはテンプレざます!」
若干、食い気味できた母。ラノベ用語が多く、先生の頭の?が倍増したようだ。
「真、真佐くんはどうしたいと思いますか?」
「そうですね……勇者もいいですが、田舎で静かに暮らしていたら、いつのまにか魔王との闘いに巻き込まれる、そういう展開も捨てがたいですね」
「……いや、そうじゃなくて、現実の話を……」
「まあ! なんて素敵な考え! 今晩はお赤飯を炊くざます!」
話の収集がつく様子がなく、困っているかと思われた先生の顔が、ふと真面目なものへと変わったのをぼくは見逃さなかった。
「真佐くん、お母さま。異世界は大変ですよ。生活も何もかもが変わってしまうのですから」
「あら、先生その言い方、どんな苦労かご存じなんでざぁますか?」
「私は、他の世界からこちらにやってきました。あなたのいう、異世界転移というヤツですね……その証拠に、魔法を御覧に入れましょう……」
ピカッッッ!!! 全ての見えるものが真っ白になり、意識が遠のいていく感じがした……
◆◆◆
今、ぼくはちゃんとした高校に通っている。
第三志望に書いていた高校だ。母は三者面談の記憶が無くなっているが、どオタクなのは変わりない。
ぼくの記憶はそのままで、先生にもたまに会いに行ったりする仲だ。
先生曰くこの世界も、別の世界から見たら『異世界』。
そう思えば、意外とこの世界も悪くないかと思える今日この頃だ……