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後輩シリーズ

りーさるうぇぽん後輩

作者: ニコ

あまりのスランプの中、自分の限界に挑戦しようと二時間で書いた代物です。

いつものコニ・タンとは違う感じとなっておりますので、色々とご注意を。


文章が酷いのは仕様です。むしろこういうハイスピードな感じに慣れようと思って書いた節があります。

 後輩が怖い。

 あぁいや、別に見た目は何てことない。可愛い可愛い女の子だ。ちっちゃくて元気で、髪は短くて、何だか健康的。ぶっちゃけ好み。

 でも、後輩が怖い。


「先輩♪」


「いきなり背後に回るのはやめてくれるかな葉山ちゃん」


 高校の後輩である葉山は、いつも背後に現れる。何の前触れも無く、どこでもだ。例えそこが学校のオレの教室であろうと、コンビニであろうと、俺の家であろうと、トイレの中でもだ。ケツ拭いてる時に出てきたのはびびった、心臓止まるかと思った。

 しかして今日はそんな危ない状況ではなく、ただ学校の帰り道だ。葉山はいつもいつもオレと一緒に帰るのだ、家がどこかなんて知らないけど。

 

「先ぱぁい、どうしていっつも私を置いて帰っちゃうんですか? 寂しくて寂しくて女の情念な演歌歌いますよ?」


「歌わないで怖いから。大体、オレってば葉山ちゃんの教室知らないし」


「1-Cですよー。まったく、私の教室も知らないとは酷い限りです」


 そんな調子で、いつも葉山はオレの後ろにピッタリついてくるのだ。

 始まりは、一ヶ月前に遡る。


『カレーパンより好きです! 付き合って下さい!』


 そんな、ありとあらゆるやる気を削ぐような告白を受けたのは、屋上でだった。何でカレーパンなんだ、何でオレは茶色い物体と比べられなきゃいかんのだ。

 初対面で、初めて聞いた台詞がそれだ。いくら何でも不快になるってなもんだろう。即・断らせて頂きましたとも。しかし、しかしだ。この女はそれほど甘くなかった。


『つ、つまりはお友達から始めようって奴ですね! 分かりました、お友だらせて頂きます!』


 そして僕がコイツの友達になったり、友達という言葉が動詞になったり、激動の一分間だった。


「先輩先輩、回想に浸ってないで、もっと私とお話しましょうよ」


「なんで回想していたか分からないし、何でお前と話さなければいけないか分からない」


 あくびしながら答える。眠ぃ、深夜にコイツが家に来たから(というか背後に立ってたから)あんまり寝てないんだ今日は。ていうか一日葉山漬けだ、死ねる。

 振り返って葉山を見てみると、目を潤ましてヨヨヨと泣き崩れる振りをしていた。何だろうコイツ、どういうリアクションをしてほしいんだろう。ていうかリアクションしてもらえるとでも思っているのだろう思いあがんなバーカバーカ。

 一通り心の中で鬱憤晴らししてから、前だけ見据え立ち去る。さぁて、コンビニで漫画立ち読みしよう。




「何で声をかけてくれないんですか!」


 ビックリした。思わず手に取っていた週間少年跳躍を落としかける。危ない危ない、汚して買い取りとかになったら、オレの財布がスリムになってしまう。財布おまえはそのままが一番可愛いよ。

 というわけで、またもや後ろに葉山が居た。コンビニの立ち読み中、ずっと背後に立たれていたと思うと怖すぎる。


「まぁ、私はドMであるからしてあの程度の放置プレイはむしろ快感ともいえますが……」


 二重の意味で怖すぎる。

 いやんいやんと体をくねらせている葉山を無視して、コンビニを一通り回ってみる。でもあんまり買えないのさ、財布かのじょを心労のあまり痩せ細らせるわけにはいかないのさ。

 というわけで菓子パンを一つだけ持ってレジへと向かう。


「何で無視するんですかぁ!」


「うぉう!」


 今度は声を上げて驚いてしまった。何でカウンターの向こう側に店員の格好して存在しているんですかマイ後輩。

 コイツはあれか、忍者の末裔か何かか。


「まぁ、私はドMであるからして多少の放置プレイはむしろご褒美ですらありますが……」


 わー聞きたくない聞きたくなーい。

 とりあえずレジはきちんとしてくれたので、会計を済ましておく。


「スマイル0円ですよ、お客様♪」


 満面の笑みを向けられた。畜生、顔は可愛いのになんでこんな常識外れなんだ。そしてなんでマックなんだ。

 お釣りの時は手を添えられて、「温めますか? 温めませんか? それともわ・た・し?」などという謎の戯言と聞き流し、店の外へ。あれー、何だろうこの開放感。

 久しぶりに重みが無くなった心のままに、足取りは自然に軽くなる。らんららららんとスキップだってやっちゃうぜ。

 しかしその平穏を打ち破るかのように、耳を掠めて矢が飛んできた。ていうか何なんだろうね、コンクリにばっちり刺さる矢って何で出来てるんだろうね。しかも予想通りといえば予想通りな事に、紙が括ってある矢文だしね。

 流石にこれは無視できない、開いて読む。


『何でまたまたオールスルーなんですかぁ!?』


 うわーお、やっぱり葉山だ。あいつ本当に忍者か、または化物だ。


『まぁ、ドMである私にとっては何にも変えがたい至高の一時であるとさえ言えますが(はぁと』


 読みたくない読みたくなーい。

 ぐしゃぐしゃに紙を丸めて公園のゴミ箱にホールインワン。ちなみに矢のほうはどう対処していいか分からないから放置。

 と、いつの間にか公園だ。家とコンビニの中間地点である。よぅし、ここで菓子パン食おう。

 ベンチに座り、公園で遊ぶ数少ない子供達を見つめながらたそがれるこの時間、プライスレス。オレの手の中のカレーパン、150円。

 いやぁ、しかしまったりのんびりだなぁ。子供は可愛いし。ちょこまか動いてる姿を見ると混ざりたくなったりすらしてしまうぜ。行くぜお兄ちゃんが怪獣だがおー、てな具合に。


「いくぞお姉ちゃんが怪獣だがおー!」

「あ、また来た姉ちゃんだー!」「姉ちゃん遊んでー!」「わーいわーい!」「ねえちゃー」


 前言撤回だ、全力撤回だ。既に公園の中心に降臨なさっておられる葉山(私服)を見れば色々遠慮もしたくなってくる。

 今さらここを動くわけにもいかないので座ったまま葉山の様子を観察してみる。向こうはオレの事に気付いているだろうが、幸い声をかける気は無いらしい。ただただ人語を忘れたかのようにがおがお言ってるだけだ。

 

「行くぞ大怪獣ピタエンテゴラス! とりゃー!」

「うわー!」


 葉山が子供に蹴られていた、至福の表情で。まさか小さな子供まで守備範囲内とは恐るべきドMよ。


「おねえちゃーん、お団子ー」

「わぁ美味しいー」


 葉山が泥団子を食べていた、至福の表情で。まさか女の子まで守備範囲内――というかちょっと待てそれは何かマゾヒストとは関係ない気がするぞ。葉山はどこまで進化するんだ。

 そんなこんなで、体中靴跡だらけで口の周りに泥をつけているという脅威のドン引き女子高生誕生秘話を目撃してしまった訳だが、丁度その時カレーパン食べ終わった。もうちょっと早く食べ終わりたかった。

 とりあえずこれ以上見ていては色々な価値観とか崩壊の危機な予感がするのでベンチから立ち上がる。


「行くぞピタエンテゴラス! 正義のてっついー!」

「ぎゃー! ……って、あ」


 葉山の間の抜けた声、という意外なものが聞こえたのでそちらに目を向けてみると、ゴムボールが跳ね返っている所だった。どうやら、子供の内の一人が葉山に投げつけたらしい。

 そこまでなら良かった。

 問題だったのは、ゴムボールが車道に向かっていた事。そして、子供がそれを追っていった事。


「いくら何でもベタ過ぎだろ……!」


 呟きながら、しかし足は言葉の前から動き出している。大丈夫、届く。手は届く。走れオレ。負けるなオレ。頑張れオレ。

 果たして、この右手は少年の襟首をきちんと掴みとった。「あぁこんなに軽いんだな」と、多少的外れな感想とともに後ろに投げる。多分大丈夫だろう、化物じみた力があるわけじゃないから普通に。

 しかし車は急に止まれない、人も急には止まれない。ちなみに車の方に止まる意思がないからなおさら駄目だったり。つまりは出会い頭衝突人身事故青年一名死亡っていうわけで。

 あぁくそ、格好良く人生終わってしまった。まだキスもしていないシャイボーイだというのに。


「……なんで無視するんですか、私を頼って下さいよ」


 ありえなかった。いやもうなんていうか、ありえなさ過ぎた。今までだったら背後に回られたりしても、まだマシだった。だが今回はこの目で見てしまった。

 葉山だ。葉山が何の前触れも無くいきなり目の前に現れ、片手にゴムボールを持ちながら、真正面からオレを支えていた。オレに追突するはずだった車のサイドミラーが脇腹に食い込んでいて、超痛そうだ。

 車の運転手は怒鳴る事も忘れて首を傾げ、そのまま去っていった。

 いや、というか、なんだったんだ、あれ。いくら何でも目の前に現れるなんて、人間業じゃないだろう。


「うぅ、痛いですねぇ……いくらドMの私でも、顔すら分からない無機物にやられたあっては苦痛も感じます」


 脇腹をさすりながら顔をしかめる葉山。それで済むんだ、ありえねぇ。


「……お前は忍者か」


 思わず口を突いて言葉が出た。葉山は案の定、首をかしげる。


「え、今さら気付いたんですか?」


 ……首をかしげた理由は。どうやらオレの思っていたのとは真逆の理由によるらしい。ていうか忍者ってなんだ、ここは現代日本だぞ。

 もう痛みはどうでもいいようで、葉山は首を傾げた体勢から普通の状態に復帰した。そして、不気味な笑みを浮かべた。


「あ、そうだ先輩。私ってば先輩の命を救ったわけでして、そうなったらお礼とか貰えるんじゃないかなぁと」


「えぇー、そこは助けとくだけの方がオレの好感度が上がりますよ?」


「いえいえ、確か落し物を拾ったら一割貰えるんでしたっけ。それと同じ理屈で……えぇ、先輩の体を一割なんて欲張りませんから! さぁ、やっちゃいましょう!」


「いや、おま、ちょ、待て――!」


 ファーストキスは泥の味がした。




「おはようございます、先輩!」


「いきなり背後に現れないでくれるかな葉山ちゃん」


 後日、葉山ちゃんはいつも通り登校中に背後に出現した。忍者スゲー。


「さてさて先輩! 私たちは誓いのキッスをしたわけですが! 接吻口付けですが!」


「誓いの、はいらねーよ」


 いつも通りに受け流し、葉山を無視していく。あぁくそ、毎度ながらに面倒臭い。


「先輩先輩せーんぱーい! 無視しないで下さいよ、忍法影縫い決めちゃいますよー?」


 ……オレだって、無視したくないって気持ちは心の片隅にあるさ。

 ちっちゃくてぴょこぴょこ動き回って、こいつの事はぶっちゃけ可愛いと思う。だから、まともに会話してしまったら絶対に好きになってしまうと思う。

 だからつまり、無視の理由はたった一つだ。


「あぁ、放置しないで下さいよ先輩! 朝から私を興奮させて、あなたに何の得があるんでしょうか!」


 あんな変態を恋人にするのは癪すぎるだろう、まともに考えて。





短編ラブコメを書くごとに変態度が上がっている気がします。明日はどっちだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませて頂きました。 なんだか自然と、のだめカンタービレのようなキャラクターを想像していました。 面白かったです。
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