2、幻のスライム
「すげぇ!!」
セリシアに案内された場所に行くと、黄金や宝石、伝説の武器や防具、そして金貨が山のようにあった。
黒魔女はこんなに財宝ため込んで、どうするつもりだったんだ!?
「全て、母が残してくれたものです。
ずっとここにいた私には、必要のないものです。好きなだけ使ってください」
「ずっとここにいた?
セリシアは、この森から出た事がないのか?」
「ありません。魔女が人間と呼べるかは分かりませんが、母以外の人間と話したのは、クーガ様が初めてです」
もしかして、俺よりも辛い人生だったんじゃ?
「セリシアは、ここから出ようと思った事はなかったのか?」
「ありましたよ。でも、そんな事をしたら、母に何をされるか……」
親子なのに、母親を恐れていたのかな?
「でもさ、お母さんが亡くなった後なら、ここから出てく事も出来たんじゃ?」
「その頃には、森から出る事が怖くなっていたのです」
やっぱりこの子は、悪い黒魔女なんかじゃない。
よし! 決めた!
「ここに居なきゃいけない理由がないなら、俺の仲間になってよ。王女様の呪いが解けたら、一緒に旅をしよう!」
「いいの……ですか? 私は、皆が忌み嫌う黒魔女です。そんな私を、仲間にしてくれるのですか?」
忌み嫌う黒魔女か。
母親にそう言われて来たんだろうな。
「俺さ、村で最弱なんだよね。村では嫌われて、厄介者扱いされて来た。こんな俺の仲間に、なってくれる?」
「はい! もちろんです!!」
セリシアは、吸い込まれそうな真っ赤な瞳に涙を浮かべながら、元気よく答えた。
「あ、一つだけ条件がある。俺達は仲間なんだから、その堅苦しい言葉使いやめてくんないかな?」
「……分かった。クーガ、これからよろしくね」
俺達は、金貨や宝石を持てるだけ持って、王城へと出発した。
ぴょんぴょんぴょんぴょん……
「あの……クーガ?」
ぴょんぴょんぴょんぴょん……
「何?」
ぴょんぴょんぴょんぴょん……
「さっきから、何かが後ろからついて来てるけど……?」
ぴょんぴょんぴょんぴょん……
「何かって、もしかしてプリンの事?」
ぴょんぴょんぴょんぴょん……
「プリン? 知り合いなの?」
ぴょんぴょん……ピタ……
俺は後ろを振り返り、プリンを見た…………
………………………………………………誰!!?
後ろからついて来てたのは、確かにプリンだったはず。スライム特有の足音も聞こえてたし。だけど、俺の目に映ってるのは、小さな女の子だ。…………迷子か?
いやいやいやいや、ここは黒魔女の森だぞ!? 運が良いだけの俺は、たまたま迷いの森を抜けられたけど、こんなにちっちゃい女の子が1人でここに辿り着く事は不可能じゃねーか?
「えっと、その、君は誰かなあ?」
とにかく相手はちっちゃい女の子だ。とびっきりの笑顔で、出来るだけ優しく話しかけた。
「クーガ、変な顔」
ガーーーッン!! 俺のとびっきりの笑顔が、変な顔だとーーーーッッ!!
……ん? 今、俺の名前呼んだ??
「なんでお前が、俺の名前知ってるんだ?
なんて聞いては見たものの、何となく分かってしまった。この森には、セリシアしかいなかった。と、いうことはだ……この子は、俺と一緒にここへ来た事になる。
そう、この子はプリンだ!!!」
「クーガ、心の声ダダ漏れ」
スライムにツッコまれたー!
それにしても、この子がプリンだとすると、なんで人間の女の子の姿をしてるんだ?
「お前、プリンだよな? なんで人間の姿をしてるんだ?」
プリンはにっこり笑った。
「クーガが女を連れて出て来たって事は、女好きなんだろ? だから、ボクは人間になる事にした」
うんうん、言ってる意味が分からん。そして、口なわりーな!
「色々ツッコミたい所だけど、お前、メスだったのか!?」
「「………………」」
え、なんで2人共無言!?
一番大事な事だと思ったんだけど……
「スライムに性別はない。ボクはクーガの為に、この姿になった。感謝しろ」
随分と上から目線だな、このスライムは。
「ありがとう……じゃなくて!
つまりだ、プリンは俺が女好きだと思ったから、女の子の姿になってやったぞ……って事か?」
女好きってのも酷いな。プリンは外で待たせてたから、事情は知らないんだな。
「そうだ。両手に花だぞ、嬉しいだろ」
両手に花って、スライムのくせに物知りだな。まあ、人の姿で居てくれた方が、これから一緒に旅するにはいいか……って、あれ?
「お前、一緒についてくる気なのか? 」
魔物が出ない道を教えてもらうつもりだっただけで、この先一緒にとは言ってなかった。というより、俺はここで黒魔女に殺されると思ってたからその先の事を考えてなかった。
「クーガと一緒に行く。ボクは、クーガと誓約を結んでる」
誓約? そんなん、何時結んだんだ?
俺が不思議そうな顔をしていると、ずっと黙っていたセリシアが話し出した。
「あの、もしかして、スライムに餌付けした? 特殊なスライムに餌をあげると、誓約を結んでくれることがあると本で読んだ事があるの」
特殊なスライムって、なんの事だ?
プリンはどこからどう見ても、普通のスライムだったと思うけど……
「ボクは特殊。100億万匹に1匹しか生まれない、幻のスライム」
幻のスライムって事は……
「もしかして、すげー強いとか!?」
「弱い」
「はあ!?」
「ボクは、誓約を結んだ相手の強さに比例する力を得る事が出来る。でも、クーガ弱い。だから、ボクも弱い」
……俺が希少なスライムをダメにしてるのかー!! たけどさ、そんなん知らねーし。
俺だって、弱く生まれたかったわけじゃない。強くなろうと、努力だってした。それでも弱いのは、俺のせいなのか!?
「プリン、こんな弱い俺でもついて来てくれるのか?」
「当たり前。だから、ボクはここに居る」
こうして、幻のスライムと呼ばれるプリンが仲間になった。見た目は10歳くらいの瞳の色が薄い緑色、髪の長い赤毛の女の子だ。なんで髪が赤いのかと聞いたら、『可愛いから』と言った。色は自由に変えられるらしい。