1、旅立ちと黒魔女
「もうお前は終わりだ!! 王女様にかけた呪いを解くんだ!!」
俺は最強の黒魔女といわれる魔女に、剣を向けた!
「……降参します」
「……へ?」
―1ヶ月前―
「クーガよ、村のために黒魔女を倒しに行ってくれ!」
突然、村長にそう言われた。
「え? なんで俺が?」
自分でいうのもなんだが、俺は弱い!
最弱モンスターのスライムすら、倒すのに苦労するほどだ。
「この村は、国に見捨てられてしまった。魔物が襲って来ても、兵が助けに来てくれることもないだろう。だから黒魔女を倒して、王女様にかけられた呪いを解き、国王に恩を売ろうと思ってな」
この村は、国の東の外れにある。
険しい山々に覆われ、大陸の行き止まりのような最果ての村に、訪れる者はほとんどいない。
その為、役立たずの村と言われていた。
「恩を売りたいのは分かったけど、なんで俺が行かなきゃならないんだ?」
「お前が死んでも、悲しむ者など1人も居ないからだ」
いや、誰か悲しめよ!!
俺はこの村で生まれたわけじゃない。
10歳の時、森で倒れてた俺を、この村に住んでいた家族のいないじいちゃんが見つけてくれた。俺はそれまでの記憶が全くなくて、帰る場所も名前も思い出せない俺を、じいちゃんが引き取って育ててくれた。クーガという名は、じいちゃんが付けてくれた。育ててくれたじいちゃんはもう死んじゃったから、俺が死んでも誰も悲しまない。
それに俺は、この村で厄介者扱いされている。
確かに、何をやってもダメだけど、黒魔女なんか倒せるわけないのに行かせるのは、ただ厄介払いしたいだけだろ。しかも、死ぬの確定な!
「お前が居ても、この村の役には立たないのだから、一度くらいはこの村の為に何かしようとは思わないか?」
思わねーよ。
じいちゃんには良くしてもらったけど、コイツらには何かしてもらった事はない。むしろ、嫌がらせされる毎日だった。
俺の目は、なぜか左右の色が違う。髪は黒で、左目は青、右目は赤。不気味に思われるのは、仕方がないのかもしれない。だけど散々嫌がらせしといて、今度は厄介払い。
なんでこんな奴らのために、俺が死にに行かなきゃなんねーんだ!?
そうは思っても、行かなきゃ追い出されるだけだろう。このまま、ただ追い出されるなんて癪だから……
「分かった。黒魔女を倒しに行く」
これが俺の旅の始まり。
村人達は厄介払い出来ると喜び、ほんの少しだけ金をくれた。本当にほんの少しだ。
隣町の宿屋に、一泊したら使い切ってしまった。
じいちゃんが残してくれた金で、一番安い剣を買った。これ斬れんのか? ってくらい錆びている。
まあ、ないよりはマシだろう。
スライムを倒したと言ったが、実は倒していない。食い物で手懐け、言葉は通じなくても今では大の仲良しだ!
そのスライム(プリンと名付けた)に、モンスターが出ない道を案内してもらい、なぜか運だけは良かった俺は、迷いの森で迷うこともなく、黒魔女の住処へと辿り着いたのだった。
―そして今―
なんということでしょう。
運だけでここまで辿り着いた最弱の俺に、なぜか黒魔女は降参しました。
もしかして、俺って最強なんじゃね?
なんて、勘違い出来るほどの力は俺にはない!
じゃあなんで、黒魔女は降参したんだろう?
………………考えるのは後にしよう!
とりあえず、当初の目的だった、王女様の呪いを解いてもらおう。
「じゃあさ、王女様の呪いをチャチャッと解いちゃってよ」
「それは、出来ません」
はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!??
「君さ、降参したよね? なんで解けないわけ?」
意味わかんねーし。
まさか、降参したと見せかけて、不意打ちする気か!?
「王女様に呪いをかけたのは、私の母です。母は昨年、亡くなってしまったので、私には呪いの解き方が分からないのです」
「……じゃあ、俺がここに来た意味は!?
王女様はずっと、呪いがかかったまんまなの!?」
ここまで来て、そんなオチってある?
そもそも、探してた黒魔女じゃなかったって事じゃねーか。
「王女様に、会わせていただけますか? もしかしたら、呪いを解く方法が見つかるかもしれません」
マジ!? コイツ、結構良い奴なのか!?
真っ黒なフードを被っていて、全く顔は見えんが……
ただなあ、呪いをかけた黒魔女じゃないにしても、黒魔女を王城に連れて行くのかあ。
そんな事して、俺、王様に殺されないかな?
そうだ! いい物がある!
ガサゴソガサゴソ……
「これをつけろ」
俺は黒魔女に、鉄で出来た首輪のような物を放り投げた。
「これは?」
「知らないのか? 奴隷契約の首輪だ」
本当はここに来るために、獣人の奴隷を仲間にしようと奴隷商人の店まで行ったけど、金がなかったから首輪しか買えなかった。
「奴隷……ですか?」
「別に、奴隷としてこき使おうと思ってるわけじゃないから安心しろ。ただ、黒魔女のお前をそのまま王女様に、会わせるわけにはいかないだけだ。呪いが解けたら、外してやる」
「そうですか、分かりました」
黒魔女はフードを取り、首輪を付けた。
な、な、な、何だこの美しさは!?
銀色の髪に真っ白い肌、赤い目が宝石みたいだ。
魔女ってこんなに美しいものなのか!?
首輪は光を放ち、すぐに消え去った。
(奴隷契約の首輪は、主人と奴隷の契約が済むと見えなくなる。もしも主人に逆らったり、逃げようとしたりすると強烈な電流が流れ、激痛で数分間、体が動かなくなる)
「私はあなたを、なんとお呼びすれば良いのですか?」
「俺の名は、クーガだ。君は?」
「クーガ様。私はセリシアと申します」
こうして俺は、最強と謳われる黒魔女を奴隷……いや、仲間にした。