彼らは帝国第3特務戦隊
この人達の里帰りはすごく難しいと思う。
「フ~ンフフフッフフ~ン♪」
ダンナルク帝国軍第3特務戦隊、それは帝国が誇る4つの精鋭部隊の1つ。その本部の整備室にて、赤毛にゴーグルを被せて金色の瞳の若い男は青い戦闘制服のズボンに薄シャツ1枚というラフな格好で、軍歌を鼻歌で歌いつつニヤニヤしながら古代遺産の整備をしていた。強面の彼がニヤニヤするの絵面は気持ち悪い。
彼が整備する形状は狙撃銃、現在の魔導工学では再現不能な技術がちらほら使われているし、説明書もなければ使い方を知っている者も誰もいない。それでもなんとなくでも理解し修理しているのは、彼が今までに多くの古代遺産に触れてきた経験と、微妙に流した魔力により大まかな仕組みを把握したからだろう。
「ヨッシャ!終了!」
後は地上で試射を済ますだけである。そこで大概失敗するのはお約束だったりするのだが、彼だけはそれに気が付いていない。傍迷惑な。
ピンポンパンポン♪
高い音の放送の通知音が流れる。彼は嫌な予感がした。
『帝国兵の行き倒れを発見した。帝都への移動を一時取り止め、これより回収する』
これが嫌な予感なわけか。しかし何処の部署のじゃ、帝国内部で倒れる情けのう軍人がおるんは?心の中で悪態をつきつつも、次を予測して青い戦闘制服を着る。
『カギリ、飛行速度ではお前が最速だ。早く帰りたいなら迎えに行け』
「毎度毎度えーかげんにせーや!」
予測通りだが叫ばずにはいられない。それでも命令を遂行するのがカギリという男である。命令を聞かない軍人は最悪死刑なので、彼でなくとも当然だが。
たまには他のが行かんかとブーたれながらも頭に乗せてあったゴーグルを掛け、内窓を開けて外窓の手前に立つ。そして内窓を閉めてから外側の窓を開けて頭から飛び降りる。なお、開かれた窓は自動で閉まった。
飛び降りた先は雲。魔力で最低限のシールドを張りながら頭の先から雲を突っ切り、何処までも続くと錯覚しそうな広い砂漠の上空に出る。
何処におるんか?要救助者がなかなか見つからない。というよりも、雲の上から要救助者の帝国兵をどうすりゃ識別できるんか?そう思いながらも砂の海から人を探す。
高度をどんどん下げるも見つからない。そろそろ減速しないと危ないと思った段階でようやく見つける。カギリは汚れだらけの白い帝国の軍服を見つけた。髪は水色ロング、おそらく女性。ここでようやく浮遊魔法で減速しつつ、空気抵抗を用いてコースを修正しながら女性の元へ向かう。
「あ……」
ヤバい、このままじゃと減速が間に合わんで地面に激突じゃ。
魔力の節約のし過ぎであり、結果として減速がギリギリになってしまうか遅れてしまうのが何時もの事である。まあそんなチキンレース失敗を繰り返すから最速なのだが、これでも帝国の切り札部隊の1つ3特戦、その中でエースと呼ばれる隊を代表する1人である。そんなミスをしてもエースである。
「ふんが⁉」
前方に回転し気合いで両足で地面に立ち、
「ぬおーー!!!」
そこから全身で転げながら墜落の衝撃を逃がしていく。少し骨にヒビが入ったかもしれないが、回復魔法で回復する。そして何事もなく要救助者の元で立ち上がる。涙目になってるが、エースです。
要救助者はまだ若いが女性としては色々と大柄だ。白い戦闘制服なので新兵、それも汚れてかなり黒くなっている。
「3特戦じゃ。意識はあるんか?」
そう言ういながら肩を揺するが返事はない。ただの屍のようだと思うにも、大きな胸が上下しているので違う。カギリは効率一点張りで色気も何も無く肩に担ぎ、魔法を用いて空へ飛ぶ。空気の盾と慣性制御により移動によるダメージを軽減しつつ、全速力で雲の上へと向かう。
そして雲を突き抜けた彼の目の前に現れたのは、雪の様に真っ白な飛行艦だ。
機械の翼、鋼のドラゴン。そんな二つ名で呼ばれる帝国が誇る第3特務隊の移動する本部、スノーウィング。全長1kmの超巨大古代兵器だ。
カギリは看板へ降り立つと既に準備されていた担架へ乗っけて医療のスペシャリストに任せた。
そして彼は整備室で別の古代の武器の整備作業に戻った。担当外とはいえ、薄情過ぎませんかね?
四半日後、行き倒れていた彼女がある程度元気になったというので、カギリは彼女の元へ隊長と共に儀礼用の制服で向かった。
「第3特務隊隊長、ヤーク・ニワールである!」
ドアを開けるとドヤ顔の甲高い声で自己紹介をする青い制服の上に白衣を纏った女性。まだ若いがキリリとした意思の強そうな翠色の瞳に短く揃えられた薄い金髪。これが第3特務戦隊の隊長。カギリが突っ込む。
「え張ってもこまいからはでこうならんよ」
「お前、少しは上司を敬え」
無理じゃ、こまいけぇ。そこらの学童の方がでこうないか?
口には出さないが目は雄弁に語っていた。
「えっと、ここは3特戦の本部なんでしょうか?」
行き倒れてた彼女が訪ねる。
「そーじゃが?」
「カギリは方言を直せ」
隊長が指導する。文字だけならそうでもないが、イントネーションも相まって慣れないと怖い人に見える。そして顔も相まって怖さが倍増する。
「君の言うとおり、ここは第3特務隊本部、スノーウィングの診療所だ」
聞くと彼女はウルウルと泣き出した。
(なぁ、私は何か変な事を言ったか?)
(わからん)
オロオロしながら目で会話する二人を他所に、彼女は1枚の紙を取り出した。
「命令書?発令は6ヶ月前?いったい何の……」
隊長はピンときてヤバいと思いながら冷や汗をかいた。
「そーいゃ急な任務が続いとってぶちえらかったけぇ……」
カギリにもわかった。此方も此方で冷や汗をかいていた。
『ニーナ・ハーフウィング
第3特務隊での勤務を命ずる』
命令書に書かれてたのは、それと6ヶ月前の日付である。なお、3特戦はその日付の寸前に急ぎの任務があり新入りを待たずにスノーウィングは出発。ニーナは追いかけても間に合わないのでそこに向かわずその次の予定地に向かったが、3特戦の予定が変更。何時までも来ないので帝都に確認したら、前日まで帝都にいたが新たな任務を受けて出発しそれを追いかけたり先回りしたり……
そんないたちごっこを繰り返していたら、何時の間にか6ヶ月が経過して新入りの事は忘れ去られていた。まあそれは泣いても仕方がない。
因みにその間無給。厳密には給料が第3特務隊経由で出るので払われない。それは倒れても仕方がない。
(すまんカギリ、今回のボーナス査定を1番上から1つ下げさせてくれ。代わりにこの娘のを上げるから)
(えぇよ。流石に不憫じゃ)
どうすればできるのか、目だけで会話をする二人だった。
現代で例えると、パラシュート開くの遅ければそれだけ早く地面に到達できるから安全な高さより低い高さで開いているようなもん。魔法による回復ありきでも、流石にやらない。
因みに、駆逐艦が色んなところに行って、なかなか着隊できなかった軍人は史実でもいました。