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閑話*ギルベルトside

 ソフィアが書斎を退出したので、仕事机に戻る。

 山積みになっている決裁待ちの書類に目を通し始めると、執事のセドリックが溜息をついた。



「お嬢様のあのご様子……、可哀想でございました。」



 セドリックの言葉にギルベルトはぴたりと動きを止めた。



「まさか、あんなにショックを受けるとは思っていなかったな、悪いことをした……」



 ソフィアが顔を真っ青にして倒れかけ、ソファでぐったりしていた様子を思い出すと、机に突っ伏して大声で叫んだ。



「嫌われてないかな~~~~~~~~?!?!?!」



 ギルベルトは娘を溺愛してた。

 そう、この不興を買えば王国にいられなくなるとまで言わしめるウェルズリー公爵家の当主はただただ娘を溺愛していた。



 息子たちに対しても同じように愛情を持っているつもりだが、次男出産時に医者から3人目は難しいだろうと言われていたところに授かった娘である。



 溺愛まっしぐらであった。



「ソフィアは私が何を課しても期待以上の成果を出してしまうし、今回の事で失敗したという経験を積ませて、年相応に悔しがったりしてほしかっただけなのにショックを与えすぎてしまった~~~~!!!!!」



 ギルベルトは机に突っ伏したまま、わぁわぁと喋っている。

 


 ちなみに、「何を課しても期待以上の成果を出してしまう」については、『暇つぶしの手習い』のことだったりする。



 ソフィアは何をやらせても嫌な顔をしなかったため、ギルベルトはあれこれ講師をつけてみた。

 ピアノ、美術、刺繍、お菓子作り、フラワーアレンジメント……


 教えれば教えただけ成長するソフィアを見ていると、教育者として父として「もっと」という思いがわいた。


 コネを使って様々な分野の講師を招いては指導させたところ、どの講師も口を揃えて「お嬢様には才能がおありのようです。」と言うのであった。



 ソフィアの中身のマリは器用貧乏というやつで、「やってやれぬことはないだろう」というスタンスで何事もある程度こなすが、飽きて続かないという性格をしていた。

 今回は優秀な講師がついて教えてくれる上に、定期的に部屋に訪問されるものだから手習いを続けることができ、その器用さで5歳にしてはありえないクオリティの作品をいくつも生み出したというわけであった。


 

 もちろんそんな事情を一切知らない周りから見れば、ソフィアが才能の塊に見えたことは仕方のないことである。



「……確かに、お嬢様は幼い頃からなんというか……、子供らしからぬ部分がございましたな。」

「そうなんだよ~~~!!!同年代の子がわがまま言って親を困らせている時に、ソフィアは大人しく手習いばかりしているし文句も言わなかった……。しかもどれも上手くこなしてしまうし……。勉強なんかは期待以上の結果を出してくれた……、あそこまで何もかもを完璧にされると逆に不安になってきて……」



 ギルベルトは何でもかんでもこなしてしまう愛娘に失敗や挫折といった経験を多少与えたかった。

 過保護に育った貴族の子らが、学園で失敗した際に立ち直るのに多大な時間を要するところを何度も見てきたからこそ思ったことである。

 

 その為、今回の入学不可の通知は「うまくいかなかった経験」と「立ち直る経験」を得る機会ではないかと考えて、先程のように緊張感のある場を作ったわけだが……


結果ソフィアが倒れるほどのショックを与えてしまい、ギルベルトは猛省していた。



「……もっと別の方法もあるはずなのに……私というやつは~~~~~!!!!」



 ギルベルトは未だ突っ伏したまま喚いている。

 さすがに付き合うのが面倒になってきたセドリックは先日の茶会の様子を思い出すと、


「……先日、旦那様がアデル様のお茶会用にコネで取り寄せたパウンドケーキですが、お嬢様が大変気に入っていらっしゃいましたよ。他の味も食べてみたいとか。」

「よし、じゃあ全種類用意してソフィアに届けてくれ。……これがオーナーへの手紙。……こっちがソフィアへのメッセージカード。では、最優先で動いてくれ。仕事関係はこちらでどうとでもする。」



 ギルベルトはすっと起き上がると手早く手紙をしたため、セドリックに渡す。

 それを丁寧に受け取ったセドリックは、「御意」と短く返事をしてそのまま書斎を退出した。



 その店のオーナーが貴族であり、ギルベルトが少し世話をした卒業生なのでこれもまたコネである。

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