【第0話】プロローグ
「ソフィア先生、こことは違う世界の記憶をお持ちなのではないですか?」
目の前の少女はふわりと笑いながら、とんでもないことを口にした。
少女の顔は16歳らしい幼さがありながらも、既に隙が無い美しさ。普段の彼女は、柔らかく穏やかな雰囲気なのに、今はまるきり年齢にそぐわないピンと張りつめた圧を私に向けて発している。
一方、ソフィア先生こと私はといえば、なぜバレてしまったのかと内心冷や汗がダラダラ。動揺しているのを表に出さないよう笑顔を張り付けるので精一杯。彼女のような余裕はなく、どうにかこの場を切り抜けねばと頭をフル回転させていた。
「どういう意味かしら……?」
私が精一杯のとぼけたふりで聞き返すと、少女は驚いた顔をした。
「まぁ、先生ったら!そんなナリをしておいて白々しいですよ!」
(あれ?!なんかちょっと口悪くない?!)
思わず心の中でつっこんでしまった。
その一瞬の間をついて、少女はマシンガンのように話し始めた。
次々と繰り出されるこの世界にないはずの単語に、私は唖然とした。
この時点で分かったことは、彼女が私と同じ境遇かもしれないということだけ。
彼女のこの行動の意図が読めない。
止まらぬ喋りにやられて、ぼーっとしてしまっていると、少女がひとしきり喋り終わったタイミングで、パンっと手をたたいた。
「さて、そういうわけで、洗いざらい喋ってくださいな!」
色々と言い終えてすっきりしたといった顔の少女は、にんまりと笑った。
「……」
「……そうですわね、じゃあ前の世界でのお名前と年齢から伺いましょうか。」
言葉を探して黙っていた私に、少女は優し気な物言いでそう言った。
(これはもう、誤魔化せないな……)
私は小さくため息をついてから話始めた。
「小竹真理……死んだときは28歳……」
「そう、マリさん!どうやって死んだのかしら?」
「……首を絞められて」
「まぁ……それは苦しかったでしょうね……」
少女は心底同情しているというような顔をしていた。
「よかったら死ぬ前のことから話してくださる……?そのあと、こちらの世界……この〈Make Smart PRINCE〉の世界に来た時のことを話してもらえると……、時間はありますわ。ゆっくりお話し聞かせてくださいな。」
少女は軽く微笑んで、私が話すのを待っている。
死んだ時のことを話すのは気が引ける。
覚悟を決めるのに少し時間はかかったが、私はぽつりぽつりと話し始めた。
「私が、死んだ時は……」
私は20年前のあの日を思い出していた……