第53話 マッキナ、救出
「リヴィエルさんッ!」
マッキナが叫ぶ。リヴィエルは体中の痛みに顔を歪めつつも、間髪入れず次の斬撃を繰り出す。立て続けにマッキナの両脚の拘束を切断!
「はああああああああッ!!!!」
最後にリヴィエルは強く足を踏み込んで飛び上がり、マッキナの首に絡みつく触手を両断した!
「ば、馬鹿にゃあッ!!」
瞬く間にマッキナの拘束を破られ、セピアは驚愕の表情を隠すことができない。
解放されて宙から倒れ込むマッキナを抱き留め、リヴィエルは着地した。
「ありがとう……リヴィエルさん……。私……」
「大丈夫だ。必ず助けると言っただろう?」
身体の各所から血を流し、息も切れて満身創痍ではあるが、彼はマッキナを救い出すことに成功したのだ。
一方、セピアは切られた触手をわなわなと震わせて、悔しさと憎しみのこもった叫びを発する。
「にゃああああああああッ!! ふざけるにゃあッ! 嬲り殺しとかもう関係ないにゃ! 今すぐに殺してやるにゃあッ!!」
セピアの声と共に、リヴィエルとマッキナの周囲に無数の波紋が浮かび上がる。これまでとは比べものにならないほどの数だ。リヴィエルは悔しさに歯を食いしばる。もう彼にはこの攻撃を防ぎきるだけの力は残されていない。ようやくマッキナを助け出したというのに、ここで二人揃って死ぬというのか……。
リヴィエルが死を覚悟したその時!
突如として、彼ら三人を取り囲む水の膜が、轟音と共に大きく震動した!
「な、一体なんだにゃ!?」
これにはセピアも困惑して四方を見渡す。不意に、リヴィエルに抱えられていたマッキナが叫ぶ!
「『念動雷槍』!!」
「にゃがああッ!?」
唐突に放たれた金属の槍がセピアの身体を直撃! 封じられていたマッキナの魔法は、セピアの触手から解放されたことで元に戻っていたのだ。セピアが攻撃を食らった途端、リヴィエルとマッキナの周囲に浮かんでいた波紋が一挙に消滅する。
「今です!」
「ああ!」
リヴィエルは最後の力を振り絞って飛び上がる。その手に特大の水流を巻き起こし、巨大な氷柱を生み出す。そしてそれを、倒れ込んだセピアの腹目がけて振り下ろす!
「『氷柱刺突・磔』!」
「にゃがああああああああッ!!!!」
氷柱に貫かれて青い血を噴出し、地面に磔となるセピア。その瞬間、周囲を覆っていた水膜が消滅した。
ぼやけていた風景が元通りとなると、そこにはイグニス、ネージュ、アヴォリオたち鉄牙団の姿があった。彼らは二人の姿を目にするや否や急いで駆け寄る。
「リヴィエル、マッキナ、無事か!」
「リヴィエル、酷い怪我じゃない! 早く手当が必要だわ」
「俺ら鉄牙団に任せろ。おいお前ら! 救急箱持ってこい!」
鉄牙団の面々が満身創痍のリヴィエルを抱きかかえ、すぐに手当を始める。手当を受けながらリヴィエルが口を開く。
「イグニス、ネージュ、無事だったんだね」
「ええ。途中魔族に襲われたけど、フラムのおかげで何とかプリュイたちをシェルターに送れたわ」
「アヴォリオさんたちは?」
リヴィエルが尋ねると、アヴォリオが街路の突き当たりを指差しながら答えた。
「あっちの道路で戦っていたが、ガーディアンの助けもあって何とか敵は蹴散らせた。今もガーディアンらが残りの魔族を掃討しているところだ」
「さっき水膜を揺らして助けてくれたのは皆さんだったんですね」
マッキナが言うと、イグニスが頷く。
「ああ。一斉に攻撃すれば破れるのではないかと思ってな。結局上手くいかなかったが……」
「でも、奴の隙を作ってくれたおかげで助かったよ。ありがとう」
リヴィエルがセピアの方に視線を向けながら感謝を伝える。磔になったセピアを眺め、ネージュが言う。
「それにしても、まさかあのセピアが本当に生きているなんてね……」
彼女はいつの日か見た夢を思い出していた。あの冗談のような内容の夢が、このような形で実現してしまうとは……とネージュは少し自己嫌悪に陥った。
「ん? 本当に?」
リヴィエルが怪訝そうに聞き返すと、ネージュは慌てて首を振った。
「あ、いや、何でもないわよ」
その時、セピアが身体を震わせながらか細い声を発したのを、イグニスたちは確かに聞き取った。
「助……け……誰か……助けて……にゃ……」
イグニスたちは一斉にセピアの方を注視して身構える。しぶとく生き残ってきた彼女のことだ。まだ卑劣な策を残しているのかもしれない。イグニスたちの間に緊迫した空気が漂う。
だがその時であった。突如として上方から、鋭い女性の声が響き渡った。
「フン。所詮は劣等種の軟体族か。自らを最強などと豪語しておきながらこのザマとは、全く惨めとしか言いようがないな」
「何者だ!」
イグニスは声のする方へと叫ぶ。そこには、竜人族の小型飛行艇が浮かんでいた。それらは警戒するイグニスたちの前へと静かに着陸する。
その中から姿を現した竜人は、他の竜人よりも一際大きな角を持ち、深紅の軍服に身を包んだ長身の女性だった。顔立ちは若いが、その眼は刃のように鋭く、並の人間なら目を合わせただけで身がすくんでしまいそうだ。
彼女は黄金色の長髪をなびかせながら、つかつかとイグニスたちの前に歩み出た。そして、彼らに冷徹な視線を降り注ぎながら堂々と言い放った。
「ようやく現れたな、イグニスを名乗る愚かな小娘よ。我は魔王軍竜人族の長、ベルムだ」




