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第51話 セピア、再戦

 目の前に現れた魔族を凝視し、リヴィエルは驚愕を隠せずにいる。


「馬鹿な! 貴様はすでに死んだはずでは……」


「にゃははは! おまえのその表情、最っ高だにゃ!」


 リヴィエルのその様子に、セピアは愉悦を隠せずにいる。マッキナがリヴィエルに問いかける。


「リヴィエルさん、この魔族は一体……」


「僕がイグニスとネージュに初めて会った時、僕の命を狙いに来た因縁の魔族だよ。とことん卑劣な性格だから油断しない方がいい。だが、あの時倒したはずだというのに、何故……」


「おまえ、あれであたいを倒せたと思ってたのかにゃ? にゃはは! とんだ甘ちゃんだにゃ! あたいは仮死状態を使ってただけなのににゃ。あの後アクアシティの魔族研究所とかいうとこの奴らを皆殺しにして、おまえらをずっと探してたんだにゃ。こうしてまた会えて嬉しいにゃ。たくさん嬲って殺してやるにゃ!」


「み、皆殺しだと……」


 セピアの口から平然と放たれる極悪非道な行いに、リヴィエルは拳を震わせ怒りを隠せずにいる。だが、その様子はセピアを喜ばせることにしかならない。セピアは鋭い歯をむき出しにして笑いながら続ける。


「にゃは! お前らにいいことを教えてやるにゃ。今あそこで戦ってる魔王軍竜人族の奴ら、あたいが呼び寄せたんだにゃ! あいつら、血気盛んな奴らばっかりだから、魔王討伐を企てる人間がこの街にいるって教えたら、喜んで手柄を取りに来たんだにゃ。あいつらはおまえらを殺すためなら、この街を破壊して市民ごと皆殺しにするのも躊躇しないにゃ。にゃはは! おまえらがここにいるせいで、この街の人間みんな死ぬんだにゃ! にゃはははははははは!!」


「貴様……貴様……!!」


「そんな……信じられません……」


 セピアの言葉に二人は顔面蒼白になる。そんな二人をセピアはさらに挑発する。


「まあリヴィエル、おまえにはあたいが直々に手を下してやるにゃ。そっちの女の子は彼女さんかにゃ? 良かったにゃ! 二人仲良くあの世行きにしてやるにゃ!」


「彼女さん……?」


「マッキナ、今は気にしなくていい」


 セピアの言葉にいまいちピンとこないマッキナを、リヴィエルが冷静に諭す。気を取り直し、彼はセピアに言い放つ。


「とにかく、マッキナを馬鹿にするな! マッキナは優秀な魔法使いだ。貴様などに敗れるはずがない! 今度こそ貴様の罪の数々を清算してもらう!」


「にゃはは! それはどうかにゃ? それじゃあ始めるにゃ。『水膜結界』だにゃ!」


 セピアの声と共に、対峙する三人の周囲の風景が水中のようにぼやける。これでリヴィエルとマッキナが外部に救援を求めることはできなくなった。


 その様子を見届けつつも、マッキナはすぐさま攻撃の態勢に入る。


「リヴィエルさん、行きましょう! 金属魔法発動。『念動雷槍』!」


「待てマッキナ! 奴に遠距離攻撃は……」


 だがリヴィエルが慌てて制止したときにはすでに、マッキナは空中に展開した金属の槍をセピアめがけ発射していた。セピアは当然避けようともしない。


「馬鹿だにゃ! 『波紋転移』だにゃ!」


 セピアの正面の空間に現れた波紋が、迫る槍を飲み込む。それと同時、マッキナの頭上に波紋が現れ、転移された槍が姿を現す!


「危ない!」


「えっ……!?」


 咄嗟にマッキナを突き飛ばし倒れ込むリヴィエル。その脚を落下する槍が掠め、地面に突き刺さる。切り裂かれたリヴィエルの裾に、みるみるうちに血が滲む。


「リヴィエルさん……」


「心配するな。とにかく、奴に遠距離攻撃は悪手でしかない。近距離で応戦だ」


「は、はい!」


 二人が立ち上がると、その周囲には無数の波紋が現れ、彼らを取り囲んでいた。


「来るぞマッキナ! 『氷結剣』!」


「『念動回転刃』!」


 リヴィエルは魔法で生み出した氷の剣を手にし、マッキナは金属の槍を円盤状の刃に成形し直す。その次の瞬間、硬化したセピアの触手が波紋から飛び出し襲いかかる!


「にゃははは! 串刺しになって死ぬんだにゃああああ!!」


 殺意を込めて放たれる触手の槍を、リヴィエルとマッキナは目にも止まらぬ速さで切り落としていく。


 リヴィエルは前回セピアと戦った時のことを思い出す。あの時は周囲に生徒たちがいて、そのうちの一人がセピアの注意を引いてくれたおかげで状況を打開することができた。だが今ここにはリヴィエルとマッキナしかいない。セピアは二人を攻撃することだけに集中できるのだ。状況は前回よりも不利であるといえる。


「このままでは私たち……」


「ああ、分かってる。だが……」


「あの、私に考えがあります。少しの間、敵を挑発して気を引いていてくれますか?」


「……? わ、分かった」


 マッキナの唐突な提案に、意図が読めないながらもリヴィエルは頷く。氷の剣を振り回しながら、彼はセピアに向かって言い放つ。


「貴様、前回から何一つ戦い方が変わっていないな。そんなことで僕たちを倒せると思っているのか?」


「にゃは! やせ我慢だにゃ。おまえら、もうだいぶ辛そうだにゃ」


「それはどうかな。こっちには手数ってものがあるんだよ。触手で刺すしか能のない貴様とは違ってな!」


「な、何を言うにゃ! おまえこそ避ける以外何もできてないくせに! これでどうにゃ!」


 セピアはリヴィエルへの攻撃を一段と強める。だがその時、タイミングを見計らっていたマッキナが叫ぶ!


「『念動雷槍』!」


「にゃがあッ!?」


 突如、金属の槍が背後からセピアの胴体を貫く。リヴィエルが注意を引きつけている間、マッキナは槍の一本をセピアの背後に忍ばせ突き刺したのだ。自分の周囲を襲う触手に注意を向けつつ、同時に敵に攻撃するという極めて高等な技術だ。


セピアは悶え、触手での攻撃が中断する。その隙を突き、リヴィエルがセピアへと肉薄する。


「『流氷回転斬』!」


「にゃああああッ!!」


 リヴィエルの斬撃がセピアの身体を正面から襲う。彼女は青い血液を噴出しながら、後方へと吹き飛ばされる。


「堪忍しろセピア。貴様はこれで終わりだ」


 青い血液を吐きながら倒れ込むセピアに、リヴィエルは氷の剣を振り下ろそうとする。


「にゃがッ……。にゃああ……にゃは……にゃはははははははは!!!!」


 だが、突如として高笑いを始めるセピア。その殺意と狂気に染まった表情にリヴィエルは戦慄し、思わずその手を止めてしまう。


「リヴィエル、何一つ成長してないのはおまえの方だにゃ。にゃはははは!!」


「貴様、何を……」


「リヴィエル……さ……」


 その時、不意に背後から聞こえたか細い声にリヴィエルは青ざめる。


「マッキナ……!!」


 振り返ると、マッキナが手足と首を触手に絡め取られ、空中に拘束されていた。

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