第49話 危機、そして挟撃
プリュイの車椅子を押すベルタンと、その周囲を警戒しながら走るネージュは、シェルターのある第一区画へと入っていた。第一区画は魔族の上陸した場所から遠く、すでに避難は完了しているのか、街路は閑散としている。
「ネージュ様、シェルターまでもう少しでございます」
「遠かったけど、もう安心ね。プリュイ、もう大丈夫よ」
「うん、お姉ちゃんありがとう」
ここまで来ればもう魔族に襲われる心配はない。プリュイとベルタンを送り届け、自分も早く魔族との戦いに加勢しなくては。ネージュがそう思っていたその時!
「見つけたぞ!」
突如として上方から鋭い男の声が聞こえ、ネージュたちは驚いて足を止める。次の瞬間、彼女らの前後に一つずつ影が降り立ち、瞬く間に行く手を塞がれてしまった。
すっくと立ち上がった二つの影の正体は、黒ずくめの装束を身に纏った、細身で長身の竜人族の男たちであった。手には短刀を携え、顔を覆う面頬から覗く鋭利な眼光でネージュたちを見据えている。
「あんたたち、この街を襲いにきた魔族ね。一体何の用? 私たちはガーディアンでもない一般市民なのよ」
ネージュが言うと、竜人の男が見下したような口調で言い放つ。
「一般市民? だとすれば貴様の腰に提げたその鞘は一体何だ? とぼけないでもらいたい」
「くッ……。わ、私はとにかく、この二人は関係ないでしょう? 戦いたいというのなら私が相手をするわ。この二人のことは見逃してちょうだい」
ネージュが懇願するが、もう一人の竜人が首を振りながら口を開く。
「残念だがそうはいかない。我々はすでに情報を手にしているのだ。貴様らがかの四大勇者、アエルの子孫であるという情報をな。そして貴様らは、自らが四大勇者イグニスであると宣い、魔王様に挑もうなどと企てる少女に手を貸している。この愚かな少女と、その仲間たる貴様らを抹殺することこそが我々の目的なのだ」
「そ、そんな……」
「お姉ちゃん……」
怯えた表情で見つめるプリュイに、ネージュは優しい声をかける。
「大丈夫よプリュイ。あなたのことは私が守るわ」
ネージュは再び顔を上げ、街路の前後を挟む竜人を交互に見やる。プリュイを元気づけたはいいものの、プリュイとベルタンを守りながら二人の敵と単身で戦うのは、現実的に極めて困難だ。
ネージュは歯がみする。こんな時、イグニスがいてくれたら……。だがこの数日間、自分はプリュイにつきっきりになるあまり、イグニスを冷たく突き放してしまったのだ。今の自分の隣にイグニスがいないのは、他ならない自分自身の行動のせいだ……!
「では我々の望み通り、貴様らの命は頂くとしよう」
「覚悟するがいい。行くぞ!」
二人の竜人が短刀を構え、足を踏み込む。刀の柄を掴むネージュの額を冷や汗が伝い、プリュイとベルタンは思わず目を瞑る。……だがその時!
「そこまでだ!」
唐突に建物の屋根から飛び降りてきた第三の影が、プリュイとベルタンの前に着地し、竜人の前に立ち塞がる。
「な、何奴!」
面食らい、思わず動きを止める竜人たち。現れた影の正体とは他でもない!
「フラム!」
「イグニスさん!」
「イグニス様!」
耐熱グローブをはめた両手に火炎をまとわりつかせたイグニスだった。
「話は聞かせてもらった。俺の仲間であるネージュも、そのかけがえのない家族であるプリュイも、彼女に忠実なベルタンも、誰一人として傷つけさせるわけにはいかない!」
「フラム……」
イグニスの頼もしい言葉にネージュは心を打たれる。そして、イグニスがプリュイと自分を恨んでいるのではないか、などと思っていたことが途端に申し訳なくなってくる。イグニスは自分たちのことを想い、こうして危機に駆けつけてくれたのだ。
「フン、姿を現してくれるとは好都合。自らがイグニスであるなどと妄言を垂れる少女とは貴様のことだな」
「丁度良い。貴様らをまとめて始末してくれよう!」
態勢を立て直し再び短刀を構える竜人たちを前に、イグニスは果敢に言い放つ。
「妄言だと思うのなら勝手に思っているがいい。戦ううちに真実であると分かるだろう。ネージュ、行くぞ!」




