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第47話 魔王軍、上陸

 警報の鳴り響く中、イグニスたちは立ち上がり、周囲を見渡す。近くのベンチに座っていた人々は警報を聞くや否や一目散に駆けだし、近くの広場や遊歩道にいた人々も蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。


「魔王軍だと……?」


「とにかく僕らは応戦しないと」


「でも、ネージュさんたちはどうしましょう?」


 マッキナの問いかけに、イグニスはすかさず答える。


「俺がネージュたちの元へ向かう。リヴィエルとマッキナは、先に魔王軍の所へ向かってくれ」


「分かった。ネージュたちを頼んだよ」


 リヴィエルの返事を背にして駆け出そうとするイグニスに、マッキナが声を掛ける。


「イグニスさん、無理だけはしないでくださいね」


 イグニスの精神状態を案じての言葉だろう。イグニスは彼女の気遣いに感謝しつつ、強く頷く。


「ああ、分かっている。お前たちも、自分の身を第一に戦ってくれ」


 そう言ってイグニスは二人の元を後にし、ネージュの元へと急いだ。

 

 所は変わり、アエルシティ最外周の道路。そこには、魔王軍を待ち構えるガーディアンに混じって、アヴォリオ率いる鉄牙団の姿があった。


 彼らの見据える先には、鱗のような装飾に覆われた巨大な飛行艇が雲をかき分け迫ってきていた。飛行艇の前面には牙を剥く爬虫類の顔があしらわれており、その姿はさながら、丸々と太った竜のようであった。


 敵を目の前にして、アヴォリオは団員達に向かって叫んだ。


「お前ら! アエルシティでの初陣だ! 特訓の成果を敵に存分見せつけてやれ!」


「「「「うおおおおおおーーーーッ!!!!」」」」


 団員達は各々の武器を掲げ、闘志みなぎる雄叫びを上げる。テラシティでの特訓を経て、彼らは一段と逞しくなったようだ。相変わらず外見の柄は悪いものの、その目には正規のガーディアンにも引けを取らないまっすぐな闘気が溢れていた。


 いよいよ接近してきた巨大飛行艇がその口を開く。途端、無数の小型飛行艇が飛び出し、アエルシティ最外周へと軍勢となって襲来した。


 アヴォリオたち鉄牙団や周囲のガーディアンが武器を手に身構えていると、魔族側から拡声器を通した声が響き渡った。それは冷徹な女性の声であった。


「我は魔王軍竜人族の首領、ベルムだ。用件を手短に話そう。我らの目的は、この街に潜む危険因子、魔王様への反逆を企てる愚かな人間共を始末することだ! そのためならば我らはこの街を蹂躙し、人々を皆殺しとすることも辞さない!」


「危険……因子……」


 アヴォリオの額を冷や汗が伝う。彼が思い当たる人物と言えば一人しかいない。イグニスだ。この魔族たちはイグニスの存在を嗅ぎつけ、彼を亡き者にしようとしているのだ。それだけではない。そのために無関係な市民をも傷つけようとしている。何が何でも、この魔族を止めなければならない。アヴォリオはグローブの中で強く拳を握りしめた。


「皆殺しだと! ふざけるな!」


「俺たちゃ魔王討伐だなんて聞いてないぞ!」


「さっさと帰りやがれ!」


 ガーディアンたちが怒号を飛ばすと、ベルムの声は続ける。


「ならば今すぐ見つけて差し出せ、魔王様への反逆を企てる愚か者を。奴は銀髪に赤い目をした少女の姿をしている。そして、自らがかの四大勇者の一人、イグニスであると戯言をのたまっているのだ。奴はかつての四大勇者の子孫を集め、魔王様に挑むなどと抜かしている。この者とその仲間を差し出せば、貴様らと市民の命は見逃してやろう!」


 ベルムの語るあまりに突拍子もない人物に、ガーディアンたちは一様に困惑している。だが一方、鉄牙団の面々は背筋が凍り付くような思いをしていた。


「どうしますアニキ……。奴が言ってるのって絶対イグニスさんたちっすよ……」


「ああ、分かってる。奴らにイグニスさんを渡すわけにはいかねえ」


 しかし……とアヴォリオは考える。ベルムの要求の通りにガーディアンがイグニスたちの捜索を始めれば、当然彼らの命は危ない。だからといって要求を呑まずに開戦すれば、市民や街に被害が及ぶことは必至だ。


 アヴォリオが考えあぐねていたその時、彼の近くに立っていた若いガーディアンが、魔族達の前に進み出て堂々と叫んだ。


「何を言う! 我々ガーディアンが、多数の市民を守る代わりに少数の人命を易々と差し出すなどあるものか!要求は呑めない! 貴様らには帰ってもらう!」


 アヴォリオは心の中で、よくぞ言った、と名も知らぬガーディアンを賞賛した。何を弱腰になっていたのだろうか。恐れる必要などない。イグニスたちの身柄は渡さず、市民に被害が及ぶ前にこの魔族達を退ければよいのだ。


「そうだそうだ!」


「竜人だけに、シッポ巻いて帰れってな!」


 他のガーディアンたちも口々に賛同の意を表し、場の空気が一体となる。


 彼らの怒声を聞き、ベルムはしばしの間沈黙する。そして静かに口を開き、刃のような口調で言い放った。


「……よろしい。ならば武力行使だ。危険因子の愚者諸共、貴様らには死んでもらおう。皆の者、かかれ!」


 彼女の声を合図に、小型飛行艇のハッチが開き、魔族達が次々とアエルシティへ飛び降りる。重々しい音と共に着地した彼らは、人間に近い容姿ながらも、側頭部から生えた鋭い角、口の端から飛び出す牙と、鱗に覆われた太い尻尾を持っていた。さらに、頬の一部や、筋骨隆々とした腕の肘から先も鱗に覆われている。鋭い鉤爪が生えた大きな手で、槍や鉈といった武器を握りしめ、トカゲのようにぎょろりとした不気味な眼で人間たちを睨みつけている。


 いかにも獰猛そうな魔族の姿を前に、アヴォリオは一瞬たじろぐ。だがすぐに闘志を漲らせ、グローブを構え敵を睨みつける。彼は決意を固める。どんな相手であっても、ここで負けるわけにはいかない。イグニスたちを、アエルシティの市民全員を守り抜かねばならないのだ。それがかつて、過ちを犯した自分が今できる最大限の贖罪だ。


 アヴォリオは鉄牙団の仲間達に向かって叫ぶ。


「行くぞお前ら! この街の人らを誰一人として傷つけさせるな!」


「「「「うおおおおおおおおーーーーーーッ!!!!」」」」


 鉄牙団やガーディアン、そして半人半竜の魔族たちは一斉に武器を振り上げ、敵へと襲いかかる。


 ここに、アエルシティの存亡をかけた激戦が始まった。

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