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第45話 人間、そしてオートマタ

 リヴィエルは、月明かりが差し込むプリュイの屋敷の中を、何の気なしに歩いていた。真夜中に目を覚ました後、どうも眠れなくなってしまったのだ。


 彼が廊下を歩いていると、とある部屋のドアが開けっぱなしになっていることに気付いた。歩みを止めて部屋を覗いてみると、マッキナが窓際の椅子に腰掛け、外を眺めながら物憂げな表情を浮かべていた。リヴィエルはそっと部屋の中に入りながら、彼女に声を掛ける。


「どうしたんだいマッキナ。こんな時間に起きてるなんて、珍しいじゃないか」


 その声に気づいたマッキナがゆっくりと顔を向ける。月光の照らし出すその表情に、普段のような明るさは感じられなかった。


「リヴィエルさん。何だか今日は寝付けないんです」


「そうか、僕もだよ。でも、君は眠らなくて大丈夫なのか?」


 マッキナと向かい合う椅子に腰掛けながらリヴィエルが問うと、彼女は頷いた。


「はい、オートマタの睡眠はあくまで内部の自動点検のためのものですから、少しくらい眠らなくても問題ありません」


「そうか」


 リヴィエルがそう言って外に視線を移そうとすると、マッキナが切り出した。


「あの、リヴィエルさん」


「うん?」


「ネージュさん、本当の妹さんに会えて本当に嬉しそうでしたね」


「そうだね。ネージュは子どもの頃から家族に会えずずっと1人で生きてきたんだ。嬉しいのは当たり前だよ」


「リヴィエルさんにも、本当のご家族がいるんですか?」


「ああ、もちろん。でも、僕の両親は2人とももういないけどね」


「そうですか……。きっと、イグニスさんにもご家族がいたんですよね」


「そうだね。彼が元いた時代には両親がいたはずだよ。それに、彼にはお姉さんもいたそうだ」


 リヴィエルは、前にイグニスが言っていたことを思い出しながら語った。すると彼は、マッキナが俯いて何か考え込んでいることに気づいた。


「マッキナ、どうかしたのか?」


「いえ、私にはそういった家族がいないな……と思って」


「君にはデレガートさんたちがいるじゃないか」


「はい……。デレガートさんたちが私を作ってくれた人なのは事実です。でも、それはきっと皆さんの家族とは違いますよね……」


「マッキナ……」


 彼女の言葉に、リヴィエルはどう声を掛けるべきか考えあぐねてしまう。彼女が感じている疎外感の正体が、何となく分かったような気がしたからだ。マッキナは続ける。


「私、何だかとても変な気持ちなんです。テラシティを出て、皆さんと一緒にいられて嬉しいはずなのに、何だか自分だけ皆さんとは全然違う気がして……」


 そして少しの間考え込んだ後、マッキナはこう問いかけた。


「私が人間じゃなくて、オートマタだからでしょうか」


 やはり、とリヴィエルは思った。マッキナの姿や振る舞いは、人間そのものだ。とはいえ、その出自や、家族に関する知識などは、どうしても人間とは溝がある。睡眠の目的の違いにも見られるように、身体の作りだって人間とは全く異なるのだ。いくら対等な仲間とはいえ、マッキナがそのような違いに敏感になるのはやむを得ないことだろう。


 だが、だからこそ、リヴィエルは伝えたかった。


「マッキナ、そんなこと気にしなくていいんだよ。君がオートマタかどうかなんて関係ない。僕らは仲間なんだから。少しくらい違うところがあっても、それは取るに足りないことだよ」


 リヴィエルが本心からの言葉を伝えると、マッキナはかすかな微笑みを浮かべた。


「リヴィエルさん……。そう言ってもらえると嬉しいです」


 だが、マッキナはすぐに元の暗い表情へと戻ってしまった。彼女は窓の外の夜空へと視線を向ける。静寂の中、彼女の首から微かに聞こえた機械の駆動音が、リヴィエルの耳に残響して離れなかった。

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