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第43話 真意、そして願い

 それはまるでアエルがこちらに語りかけているような一文だった。イグニスは困惑し、冷や汗の伝うような感覚を覚える。「ささやかな計画」とは一体何なのだ……? イグニスはすかさず先を読み進める。


『胸騒ぎがするんだ。魔王城に攻める前夜だというのに情けないが、僕らはどうも魔王に勝てない予感がする。もちろん明日、僕は魔王に勝てるよう全力を尽くすつもりでいる。明日の戦いには、僕らだけじゃない、全ての人々の命運がかかっているんだから。


 僕はもしかしたら、戦いの途中で仲間に残酷な判断を下すかもしれない。それこそ、戦いを続けられなくなった仲間を見捨てることもあるかもしれない。僕たちは仲間だが、それ以前に四大勇者でもある。魔王を倒し、人々を魔族から救うことを何よりも優先しなければならないんだ。もしそうなったら、僕はいくら恨まれたっていい。それぐらいの覚悟はできている。


 でもイグニス、君は僕らよりも遙かに大きな可能性を持っている。僕は君に風変わりなペンダントを渡したね。独力で解析して何とか分かったが、あれには暗黒魔法の中でも特に希少な魔法、憑依魔法の力が込められている。身に付けた者が命を落とすと、その魂を吸収し水晶玉の中に保存する。そして何かの拍子に保存された魂が解き放たれたとき、その魂を近くにある新たな身体へと導き憑依させるのだ。つまりそれを持っていれば、もし僕らが魔王に敗れても、蘇ってまた魔王と戦うことができるわけだ。


 イグニス、言うまでもないが君は僕の一番の友人だ。そして憧れの人物でもあった。君の魔法技術は僕よりいつも一歩秀でていて、僕は君の背中を追うことしかできなかった。それに君のそのまっすぐな人となり。勇者として、誰よりも強い使命感と情熱を抱いていた。そして、貴族出身のアクア、田舎の出身のテラ、平民の僕、全員に分け隔てなく接してくれた。


 君は人の姿や生まれ育ちなどに惑わされず、その人自身の真の姿を捉えることができる人物だ。そのたぐいまれな能力と人間性なら、たとえ一度倒れたとしても必ず、人々のために戦い続けてくれると僕は信じている。だから君に、そのペンダントを託したんだよ。


 イグニス、この文章を読んでいる君は、僕のせいで孤独で惨めな思いをしているかもしれない。僕のことを無責任だと言って恨んでいるかもしれない。そうだとしたら本当にすまない。どんな罵倒でもぶつけておくれ。


 だがこれだけは分かってほしい。この僕の行動は、全て君を信頼してのことなんだ。君が僕のことをどう思おうと、僕が君を敬愛する気持ちは変わらないよ。だからどうか、僕らの亡き後も、人々のために魔王と戦ってほしい。そして君のまっすぐな心で、人々を希望溢れる平穏な世界へと導いておくれ。僕は君を信じているよ。


君の友人 アエル』


 読み終えた後、イグニスはしばらくの間呆然と立っていた。手帳を握りしめる両手が小刻みに震える。


「アエル……」


 イグニスはやっと、親友の名を口にした。彼に対するさまざまな感情が心中を渦巻き、入り乱れ、身動きをとることさえ叶わない。不意に脚から力が抜け、イグニスはその場にへたり込む。ベルタンが心配そうに歩み寄るが、それに構う心の余裕もない。


 イグニスが自分の機械の両眼から涙が流れないのをこれほど悔やんだことはなかった。

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