第41話 姉妹、そして謝罪
「お、お姉ちゃん……?わ、私が?」
「うん。私、ずっとお姉ちゃんに会えるのを楽しみにしてたんだよ」
プリュイの思いがけない言葉に、ネージュは呆然とするばかりだ。
「一体どういうことだ?」
「プリュイさんは、ネージュさんの本当の妹さんってことですか?」
イグニスたちも驚愕と困惑を露わにしながら、ネージュとプリュイの姿を交互に見やる。確かに、二人は髪も瞳も同じ色であり、姉妹と言われても納得がいく。しかし、ネージュは自分が孤児だったと話しており、自らの生い立ちを知らないはずだ。二人が本当に姉妹であるというのなら、これまで離ればなれになっていたのはなぜなのだろうか。
イグニスたちの反応を見かねて、ベルタンがプリュイに諭す。
「プリュイ様、皆様が困惑していらっしゃいます。プリュイ様の口から直々に経緯を説明なさった方がよろしいかと」
「そうだね。……お姉ちゃん、今から話すことは、お姉ちゃんにとって辛い内容かもしれないけど、それでもいい?」
「ええ。何もかも包み隠さず話してちょうだい。私も、自分の過去に何があったのか知りたいわ」
プリュイの問いに、ネージュは意を決した様子で頷いた。イグニス、リヴィエル、マッキナも真剣な面持ちでプリュイを見つめる。すると、彼女は躊躇しながらもこのように切り出した。
「……お姉ちゃんは、生まれてすぐに、お父さんとお母さんに捨てられちゃったんだ」
その言葉に、ネージュは息をのみ、一瞬目を閉じる。恐らく予想はしていたのだろうが、改めてそう聞かされるのは堪えるものがあったのだろう。だがすぐに目を開け、プリュイの心配そうな表情を見て先を促す。
「……大丈夫よ。続けて」
「ごめんね、お姉ちゃん。……生まれてすぐの時、お姉ちゃんには魔法の才能が全く見られなかった。魔法使いの素質がある人間なら、赤ちゃんの時から微弱な魔法を使うことができるはずなのに、お姉ちゃんにはそれが全くなかったんだって。お父さんはアエルの子孫の名に恥じないほど優秀な大気魔法使いで、お母さんもお父さんに引けをとらないくらい凄腕の魔法使いだった。お姉ちゃんに魔法の才能がないことは、二人のプライドが許さなかった。だからお父さんとお母さんは、アエルシティから遠く離れたイグニスシティで、ガーディアン養成学校が運営する孤児院にお姉ちゃんを引き渡しちゃったんだ。でも、今のお姉ちゃんは野良ガーディアンで大気魔法使いなんだよね。発現するのが少し遅かっただけで、お姉ちゃんには本当は魔法の才能があったんだと思う。……お父さんとお母さんは、そんなことも知らないで早とちりして、お姉ちゃんを捨てたんだ」
あまりの内容に、ネージュはもちろん、イグニスたち3人も言葉を失った。イグニスはかつてネージュが言っていたことを思い出す。物心がついたときからガーディアン養成学校にいて、家族はおらず、ずっと妹が欲しかった。そのような孤独に彼女を追いやったのは、両親の身勝手なプライドだというのか。イグニスの内心にはまるで自分のことのように怒りがこみ上げてきた。
沈黙の後、ネージュが感情を押し殺すような声で問う。
「それで、お父さんとお母さんは今どうしてるの?」
「……二人は、三年前に飛行艇の事故で死んじゃった。その後だよ、私がお父さんの日記帳を見つけたのは。そこには、今話したことが全部書かれていた。悲しかったよ。二人はとっても優しかったのに、それは私に魔法の才能があったからなんだって。それから私は、ずっとお姉ちゃんのことを探してた。お姉ちゃんに会って謝りたかった。ごめんね、ごめんねお姉ちゃん。ずるいよね。お姉ちゃんばかりが辛い思いをして、私ばかりがお父さんとお母さんに優しくされて。それなのに私、病気でもう魔法も使えなくなっちゃった。お姉ちゃんが寂しい思いをする必要なんか、全然なかったのに。ごめんねお姉ちゃん。ごめんね……ごめんね……」
謝罪の言葉を重ねるうちに、プリュイの目からは涙があふれ出し、彼女は両手で顔を覆ってしまった。それを見たネージュは静かに歩み寄ると、プリュイの肩に腕を回して優しく抱き留め、語りかけた。
「あなたは何も悪くないわ。だから謝らないで。それに、私が捨てられていなかったら、きっとあなたは生まれていなかった。私はあなたに会えて嬉しいわ。過ぎ去ったことは元に戻らないんだから、二人でこれから取り戻していけばいいの」
「お姉ちゃん……」
プリュイはネージュの胸に顔を埋め、ひとしきり泣いた。イグニスたちは悲痛と安堵の入り交じった複雑な感情で、その様子を眺めていた。
ネージュのこれまでの境遇と、プリュイの自責の念を考えると、全てが解決したとは言いがたい。だが、両親の身勝手によって引き裂かれた姉妹が、こうして巡り会えたことは喜ぶべきことだろう。ネージュの妹代わりとしての役割も、これで終わりかも知れない……。イグニスは、そのことに寂しさを覚える自分自身に困惑しながらも、ネージュとプリュイの抱擁を微笑みに満ちた顔で見守った。
それとは別に、イグニスの胸中にはもう一つ別の感情も交ざっていた。プリュイが落ち着いた後、イグニスは切り出した。
「ということは、ネージュはアエルの子孫だったというわけか」
「ええ、そうみたいね。全然実感がないけれど」
「まさか、ずっと探していた相手がこんなに近くにいたとはな」
イグニスはアエルの顔を思い出す。言われてみれば、アエルとネージュ、プリュイは瞳の色が同じ翡翠色だ。この時代に目覚めて最初に出会った仲間が、かつて一番の親友であったアエルの子孫だったとは。イグニスはただならぬ運命の悪戯を感じずにはいられなかった。
プリュイがネージュの顔を見て言う。
「お姉ちゃん、お願いがあるの。私の病気は体内の魔法の異常に原因があって、もう治らないんだって。だから、私じゃイグニスさんたちの力になれない。お姉ちゃん、私の分までイグニスさんと一緒に戦って、魔王を倒して」
「分かったわ。お姉ちゃんに任せて。それと、魔王の元に向かうまでの間は、できる限りあなたと一緒にいるわ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ということで、フラム、リヴィエル、マッキナ、改めて私が四人目の仲間になるわ。これからもよろしくね」
ネージュの決意に満ちた表情に、イグニスたちは固い頷きを返した。
「ところでベルタン、屋敷にアエルの遺品が保管されていたよね」
「ええ、地下室で厳重に保管されてあります」
プリュイとベルタンの会話に、イグニスはすかさず反応する。
「何、アエルの遺品だと?」
「うん。ベルタン、イグニスさんたちを屋敷に案内してあげて」




