第38話 仲間、そして提案
翌日、イグニスたちはデレガートに招かれ、魔法技術研究機構の本部研究棟にある応接室の一つに来ていた。戦いの後、イグニスとマッキナは魔法技術研究機構専属の機械工によって応急処置が行われ、破損した体はすでに元通りとなっていた。
デレガートを始めとする研究員たちも避難した後は無事であり、幸い軽傷で済んでいたようだ。一方アヴォリオたち鉄牙団は魔族に操られてはいたものの、事情徴収のためにガーディアン本部へと向かっている。
イグニスたちは応接室の椅子に座り、テーブルを挟んで反対側に座るデレガートとマッキナに全てを説明した。
自分が実は四大勇者のイグニスであり、オートマタに憑依して目覚めたことはもちろん、これまでの経緯やリヴィエルがアクアの子孫であることも全て事細かに話した。デレガートとマッキナは案の定終始驚いた様子だったが、昨日のように拒絶することはなく、むしろこれまでのイグニスの行動に納得したような様子であった。
「……なるほど。あなたが話していることは本当のようですね。それならば、魔王討伐を目指すのも無理はない」
「だから、オートマタであっても私のように魔法が使えたんですね」
デレガートとマッキナが揃って口を開く。二人が信じてくれたことにイグニスは安堵し、再び口を開いた。
「そうだ。マッキナに協力を依頼したのはこのような理由があったからだ。しかし、いきなり話して信用が得られるような内容でもない。そこで昨日は肝心な部分を隠しながら依頼したのだが、結果として誤解を招くことになってしまった。その点については本当に申し訳ないと思っている」
「いえいえ、あなたのお気持ちはよく分かります。さぞかし大変な苦労をなさっているのでしょう。謝らなければならないのはこっちの方です。もう気を揉まれる必要はございません。今、私はあなたの話を聞いてその志に感銘を受けました。ぜひともマッキナを連れ、魔王へと果敢に挑んでいただきたい」
デレガートがそう言うと、マッキナが驚いたように言う。
「デレガートさん、私がイグニスさんに協力することを許してくださるのですか?」
デレガートは微笑みながら頷く。
「ああ、もちろんだ。今までお前を散々縛り付けてきてしまったことのお詫びだよ。それに、イグニスさんたちと戦っているときのお前は、それまでの戦いとは違って何だか生き生きとしていた。イグニスさんたちといた方が、お前は十分な力を発揮できるし幸せなのかもしれない」
「デレガートさん……ありがとうございます」
デレガートの許しが得られて、マッキナは心の底から嬉しそうだ。イグニスは感謝の言葉を伝えると共に、一つ気になったことをデレガートに尋ねた。
「デレガートさん、お許し頂き本当に感謝する。だが、魔法技術研究機構という組織として、マッキナが不在となることは不都合ではないだろうか」
「大丈夫ですよ。……実は、マッキナにテラの代わりを務めさせる計画には反対する者も多かったのです。ほとんど私が推し進めてきたと言っても過言ではないものですから。それに、マッキナの戦闘データはもう十分に収集できました。これからはマッキナにも一人のオートマタとして自由に生きながら、その力を生かして人々の役に立って欲しいのです」
「そうか。それなら良かった。ではマッキナ、これからは仲間としてよろしく頼む」
デレガートの言葉に安堵しながらイグニスが言うと、マッキナも笑顔で頷いた。
「はい、こちらこそ。たくさんお役に立たせてください!」
二人は再び握手を交わす。それを見ていたネージュとリヴィエルも、微笑みながら喜びの声を漏らした。
「マッキナちゃん、よろしくね。何だか妹が増えるみたいで嬉しいわ」
「ははは、ネージュったらマッキナまで妹にするつもりなのかい?」
すると、マッキナがネージュの言葉が気にかかったようで、きょとんとした顔で尋ねる。
「妹……そういえば妹って、何ですか?」
「おやおやマッキナ、知らなかったのかい?」
デレガートが笑いながら言う。マッキナはオートマタであるため、どうやら親族関係を表す言葉に疎いようだ。昨日イグニスたちの話を聞いているときも、実は分かっていなかったのだろう。デレガートが親切に教える。
「妹ってのは、同じお母さんから生まれた年下の女の子のことだよ。でもこの場合は、とても大切な仲間って意味だろう」
その説明を聞いて、マッキナは納得したように頷く。
「なるほど!じゃあ、イグニスさんもリヴィエルさんも、ネージュさんの妹ってことですね!
「いや待て、それは違うだろう!」
あまりの拡大解釈にイグニスたちは揃って仰天し首を横に振る。
「そうよ!フラムは良くたってリヴィエルは違うわよ!第一リヴィエルは男だし!妹だなんて死んでもごめんだわ!」
「え、ちょっとそれは酷くないかな?それを言ったらイグニスだって男だろう?」
「フラムはフラムだから良いのよ!」
「ええ……」
彼らのやりとりに、デレガートは笑いながら口を開く。
「どうやらあなた方はとっても仲が良いみたいですね。これなら安心してマッキナを送り出せそうだ」
その後、イグニスたちはマッキナを連れて宿に戻ることにした。マッキナが仲間となったこともあり、テラシティにいる間は魔法技術研究機構が特別に宿泊費を肩代わりしてくれることになったのだ。
イグニスたちが魔法技術研究機構の敷地を出ると、すぐそこに鉄牙団の面々が待ち構えていた。アヴォリオが前に進み出ると、イグニスは問いかけた。
「アヴォリオさん、事情徴収は無事に終わったのか?」
「ああ、何とかな。俺らの体から暗黒魔法の痕跡が検出されて、操られてたってことの証明ができたんだ。……とはいえ、操られる原因となったのは間違いなく俺がオートマタに対して抱いていた憎悪が原因だ。だから……」
すると、アヴォリオたちはマッキナに向き直り、膝を突いて座ると勢いよく額を地面に押し付けて一斉に叫んだ。
「「「「マッキナさん、本当に申し訳ありませんでした!!」」」」
いきなりの謝罪に、マッキナはしどろもどろとなる。そして、慌てた様子で身を屈めてアヴォリオたちに言った。
「そ、そんな!もう良いんですよ。昨日だって謝ってくれたじゃありませんか」
「いいや。それでも俺らがお前さんたちを襲撃し傷つけた事実は変わらねえ。だから、俺たちは決めた」
立て続けに彼らは顔を上げ、マッキナをまっすぐに見据えて決断的に言い放った。
「「「「俺たちは、マッキナさんを死ぬまで守り抜きます!!お供させてください!!」」」」
「え、ええ……」
突然の申し出に、マッキナは何と返答していいか分からない様子だ。イグニスたちも顔を見合わせる。鉄牙団の皆が反省しているのはいいが、あまりに話が急すぎてついて行けない。しかし、真面目な表情の彼らを断ることなどもちろんできない。どう返答すれば良いだろうか。
すると、マッキナは何か思いついたようにぱっと表情を明るくし、アヴォリオに言った。
「そうだ!じゃあ、鉄牙団の皆さんも私と一緒にイグニスさんたちの仲間になりませんか?イグニスさんたちも魔族と戦っているんだし、それなら良いですよね?イグニスさん」
彼女の提案は名案であった。イグニスはネージュ、リヴィエルと顔を目を見合わせると、揃って頷いた。
「ああ、それなら良いだろう」
「仲間は多い方がいいもんね」
「両方の得になるし良いんじゃないか?」
彼らの返答に、鉄牙団の皆は喜びの表情へと変わる。アヴォリオが感謝を伝える。
「ありがとう。罪滅ぼしのためにぜひとも協力させて貰おう。まさかお前さんたちの仲間になるとは、昨日の時点じゃ夢にも思わなかったな」
そう言ったところで、アヴォリオは何かに思い当たった様子でイグニスに尋ねた。
「そういや、お前さんの名前って確かフラムじゃなかったか?今、マッキナがイグニスって呼んだが……」
そこでマッキナははっとしたように口を押さえる。
「ご、ごめんなさい、フラムさん。つい間違って……」
「もう、マッキナちゃんたらうっかりさんね」
「まあ、この際話してしまっても構わないんじゃないか?」
リヴィエルにそう言われ、イグニスは頷く。鉄牙団は仲間となったのだ。魔王討伐にも協力してもらうことになるだろう。彼らにも全て説明してしまった方が良いのかもしれない。
「そうだな。アヴォリオさん、実はこれには深い事情があるのだ」
イグニスに言われて、アヴォリオはこう提案した。
「そうか、それじゃあ話が長くなりそうだな。ひとまず俺ら鉄牙団の拠点にでも向かうとするか」




