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第37話 協力、そして落着

「すまん。遅れちまった。だが研究員の皆は無事避難した」


「ありがとう。あなた方が不意打ちをしてくれて助かった」


 イグニスはアヴォリオに感謝を伝える。その時、地面に落ちたドロススがよろめきながら立ち上がり、赤黒い目でアヴォリオを睨みつけた。


「貴様、役立たずの傀儡風情が私にこのような不意打ちを食らわすとは。ならばもう一度、貴様を傀儡にしてやろう。その銀髪の少女もオートマタだ。マッキナ共々今すぐ破壊するのだ!」


 満身創痍のドロススだったが、その目は見る間に渦巻いていく。アヴォリオは目をそらそうとするが間に合わない。たちまちそれに釘付けとなる!そしてみるみるうちに彼の目は再び赤黒へと染まっていく。このまま彼はまたしてもドロススに操られてしまうのか?


 だがその時、団員たちがアヴォリオに向かって叫び始めた!


「アニキ!マッキナさんもフラムさんも、俺たちと戦ってくれてるんすよ!二人とも敵じゃないっす!」


「アニキ!もう俺たちはこれ以上過ちを犯すのは嫌です!目を覚ましてください!」


 マッキナも気付けばその声に加わっていた。


「アヴォリオさん!あなたは絶対に悪い人じゃありません!あなたは身も心も強い人です。だからどうか、私と戦ってください!」


 しかしアヴォリオは答えない。彼は静かにイグニスとマッキナへと冷たい視線を向けると、咆哮を上げた!


「うおおおおおおッ!!!!」


 驚愕するイグニスとマッキナ。彼らが避ける暇もなく、アヴォリオはグローブに生えたツメを突きつけ勢いよく射出する!


「『鉄牙弾』!」


 だが、飛来したツメが突き刺さったのはイグニスでもマッキナでもなかった。腹部にツメを食らい、叫び声を上げたのはドロススだった!


「グワァァァァッ!!馬鹿な!!」


「俺はこれ以上貴様の思い通りになどならない。そして、俺にはオートマタへの恨みなどもうない。仲間が死んだのはオートマタのせいじゃなく、俺のせいだ。だから俺は誓う。もうこれ以上、大切な仲間を死なせないとな」


 ドロススに歩み寄りながら、アヴォリオはグローブから新たなツメを生やす。その目は憤怒にも憎悪にも染まっておらず、ただ強い決意だけがみなぎっていた。


「き、貴様!『暗黒瘴打』!」


 ドロススが怒りにまかせて殴りかかろうとするが、その足は突然何者かにすくい取られる。


「『束縛輪環』!」


「何ィッ!」


 マッキナがドロススの足に金属球を忍ばせ、足枷のように巻き付けていたのだ。ドロススが態勢を崩した瞬間、さらに両腕ともう片方の足にも金属球が巻き付き、彼を拘束してしまった。


「私はあなたのことを絶対に許しません。アヴォリオさん、終わりにしましょう」


「ああ、マッキナ、行くぞ」


 アヴォリオが頷き、アヴォリオとマッキナは同時に叫んだ!


「『鉄牙裂殺』!」


「『念動雷槍』!」


 アヴォリオのツメがドロススの胴体を切り裂き、マッキナの槍が飛来して喉元を貫く!


「グワァァァァァァァァッ!!!!」


 ドロススは体から死人のような赤黒い血を噴出し、地面に倒れ込んだ。彼は体を震わせながら、うわごとのように呟く。


「なぜだ……私はどこで間違えた……」


「人の心の強さを見誤ったことだろうよ。冥土で泣いて後悔でもしてるがいい」


 アヴォリオが吐き捨てると、ドロススは体を痙攣させ、そのまま動かなくなった。その後、不思議なことに彼の体は見る間に炭化し、灰のように崩れ去ってしまった。


「これで一件落着ってとこね」


「ああ、本当に良かったよ」


 一部始終を眺めていたネージュとリヴィエルが、肩の荷が下りたように言った。立て続けの連戦に、彼らの疲労も侮れないものとなっていた。イグニスもほっと胸をなで下ろす。体はボロボロだが、皆無事に魔族を倒すことができたのだ。


 残心を終えたアヴォリオとマッキナが、互いに歩み寄る。まずアヴォリオが口を開いた。


「マッキナ、本当にすまなかった。俺があんな奴の口車に乗せられたせいで、お前さんと研究員の皆を酷い目に遭わせちまった。しかも、お前さんは俺の過去とは全くの無関係だというのに。この罪は償っても償いきれねえ」


「すみませんでした……」


「ごめんなさい……」


 アヴォリオの背後の団員たちも、次々に謝罪の言葉を口にし、マッキナに頭を下げる。彼らは外見とは裏腹に、素直で真面目な人たちであるようだ。マッキナは謝罪されて驚いたような表情を見せたが、すぐに首を横に振った。


「いいえ、そんな謝らなくていいんですよ。私、怒ってなんかいません。アヴォリオさんが本当は強い人だってこと、昼間の試合で分かっていますから」


「なんて優しいんだ……」


「天使か……?」


 団員たちが口々に言う。それを見て、マッキナは笑顔を溢すと、アヴォリオに手を差し出した。アヴォリオは困惑した顔になる。


「私、アヴォリオさんと戦えて本当に嬉しかった。お礼の気持ちです」


「そうか。俺もお前さんたちと戦って目が覚めた。本当にありがとう」


 こうしてマッキナとアヴォリオは、二度目の握手を交わした。昼間に戦った時とは違って、二人とも心からの笑顔での握手だった。イグニスが微笑みながらそれを眺めていると、マッキナは彼にも声をかける。


「フラムさんもどうぞ!」


「お、俺もか?」


「フラムさんたちが助けに来てくれたおかげで私は戦うことができたんですから、当然です」


「俺も貴方が自ら戦ってくれて嬉しかった。ありがとう」


 さっきまで戦場だった場所は、いつしか微笑みに包まれていた。こうして魔族との戦いははひとまず終わった。イグニスが感慨に浸っていたとき、ふとマッキナが言った。


「そういえばフラムさん、昼間にお話ししたときと全然しゃべり方が違いますね。どうされたんですか?」


「ああ、それはだな……」


 イグニスは慌てる。マッキナにはまだ何の事情も話していないのだ。とはいえ、彼女が魔王討伐に協力してくれると決まったわけではない。何と説明すればいいか彼が決めあぐねていると、


「おーい、マッキナ!マッキナー!」


 広場の外から声が聞こえた。デレガートだ。避難した後にここを追ってきたのだろう。一同がそちらに視線を視線を向けると、デレガートはフェンスをくぐり抜け、マッキナの元へと駆け寄った。


「マッキナ……良かった。無事だったみたいだね」


「ええ、デレガートさんの方こそ、ご無事で何よりです。……デレガートさん、さっきはごめんなさい。デレガートさんの制止を振り切って戦って、こんな所まで来てしまいました」


 マッキナがすまなそうに目を伏せると、デレガートは首を横に振って言った。


「いいや、謝らなければならないのは私の方だ。私はテラを再現することに夢中で、お前の苦痛にずっと気付いてやれなかった。お前が言うとおり、お前はテラとは違う一人のオートマタであったというのに。マッキナ、本当にすまなかった」


「いいんですよ。分かっていただけたのなら。あなたは私を作ってくれた人ですから、私にとってずっと大切な人です」


「マッキナ……」


 イグニスたちはその様子を温かい目で見守っていた。戦いを通じて、マッキナはデレガートに思いを伝え、テラの代理というしがらみから解放されることができた。そして、アヴォリオはオートマタへの憎悪と決別し、決意を新たにすることができた。この戦いで得られたものは大きかったと言えるだろう。


 すると、マッキナがイグニスの方に視線を向けながら、デレガートに何か話しかけた。彼はイグニスの方を振り返り、歩み寄る。イグニスが驚いていると、デレガートは昼間とは一転して何ら悪意を宿していない表情で口を開いた。


「フラムさん、マッキナと共に戦い、私どもを守っていただき本当にありがとうございました。昼間にあのような失礼な態度を取ってしまったことが恥ずかしくてなりません。実は、マッキナがあなた方の魔王軍討伐に協力したいと話しているのです。どうか、もう一度詳しいお話を聞かせて貰えませんか?」


 その言葉にイグニスは安堵すると共に、笑顔で返答した。


「ああ、もちろんだ。こちらからも話しておかなければならないことが山ほどある」


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