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第27話 マッキナ、対戦

 その後、アヴォリオたち鉄牙団は早速特訓を始めるのだと言って帰っていった。団員の前で明るく振る舞うアヴォリオだったが、イグニスはその姿に拭いきれない悔しさが滲んでいるのを見逃さなかった。


 イグニスがこれからマッキナに挑もうとしていることは、彼らに話さなかった。イグニスがマッキナに勝利した場合、アヴォリオがショックを受けるのは明白だからだ。


 イグニスは受付でマッキナとの対戦の申し込みを済ませる。先に申し込んだ挑戦者が複数人いるため、イグニスが戦うのは午後だ。イグニスたちは観客席に向かい、他の挑戦者たちが勝負を行う様子を見ることにした。


「あの『束縛輪環』を使われたら、一貫の終わりね」


 試合場で先ほどのアヴォリオのように投げ飛ばされる挑戦者を眺めながら、ネージュが言う。


「ああ。だがあの魔法は、すぐさまマッキナに攻撃を当てることができれば解除できるだろう」


 イグニスはかつて何度もテラと戦ったことがあるため、あの魔法への対処の仕方も知っていた。だがリヴィエルが問いかける。


「しかし、マッキナは装束の中にたくさんの金属球を隠しているみたいだよ。盾を展開されてしまったら、攻撃の当てようがないじゃないか」


「そうだな。それが問題だ。マッキナが隠している金属球を全て使わざるをえないような状況を作り出せれば良いのだが、そうすると今度は飛来する金属球を回避するのが難しくなる……」


 三人は考え込む。マッキナと他の挑戦者との対戦を観察し続けるうちに時間は過ぎていき、いつの間にか昼時になっていた。


 三人は魔法技術研究機構の近くにある店で食事を済ませると、また闘技場に戻ってきた。イグニスがマッキナと対戦する順番がいよいよ回ってきたのである。


「私は、フラムなら勝てるって信じてるわよ」


「くれぐれも油断しないようにね。応援しているよ」


 ネージュとリヴィエルに声をかけられながら、イグニスは髪を結い、手に耐熱性グローブをはめた。


「ああ、任せてくれ」


 イグニスは強く頷くと、試合場に入っていった。


 試合場にはすでにマッキナと研究員のデレガートたちがいた。今日だけでも数名の挑戦者を敗北させたマッキナであるが、オートマタであるため一切の疲れを感じさせない。アヴォリオと向かい合ったときと同じ真剣な表情でイグニスをまっすぐに見据えている。


 デレガートはマッキナの性能に満足しきっているためか、得意げな笑みを浮かべていた。彼はイグニスの姿を見て、アヴォリオにしたのと同じ挨拶を行った。


「あなたがフラムさんですね。これは驚きだ。今まで挑戦された方の中でも最年少かもしれませんよ?」


 デレガートはイグニスの外見を眺めてそう言った。言葉にこそ出さないが、その表情からはイグニスを侮っていることが明らかだ。だが、イグニスはその程度のことには動じない。


「年齢など関係ありません。私はマッキナに勝ちます」


「ホッホッホ!それは素晴らしい心意気だ。しかし、四大勇者のテラを再現したマッキナの実力を甘く見てはなりませんよ?ではマッキナ、ご挨拶だ」


「対戦よろしくお願いします」


 静かに一礼をしたマッキナは、固い表情で再びイグニスを見据える。その顔を見たイグニスは改めてテラのことを思い出す。こうしてテラを模したオートマタと戦うことになるとは、なんという運命の巡り合わせだろうか。だが思い出に引っ張られている場合ではない。とにかく今は目の前のマッキナを倒し、魔王討伐への協力を仰ぐ機会を掴むのみだ。


「それでは両者、準備はよろしいですか?」 


 審判の声に、イグニスとマッキナは頷く。観客席のネージュとリヴィエルは緊張した面持ちでその様子を眺めている。


「では……始め!!」


 審判の声が響き渡ると同時に、イグニスは両腕を交差させて唱える。


「火炎魔法発動。『煉獄掌』!」


 イグニスの両手から炎が噴出すると、今度は手の中に素早く火球を生み出し、続けざまにマッキナへと投げつける。


「『熱殺火球』!」


 迫り来る火球を防ぐべく、マッキナは袖口から金属球を飛ばし、盾へと変形させて体の正面に展開する。


「『鉄塊障壁』……何ッ」


 マッキナは驚きの声を漏らす。イグニスから放たれる火球は、弧を描きながら左右、そして上方からも飛んできていたのだ。盾が一つでは到底足りない。マッキナは袖口からさらに金属球を3つ取り出し、左右と上方にも盾を展開して自身を守る。金属の盾に衝突し、火球は激しい音を立てて消滅する。


 一方イグニスは火球を投げながら、マッキナへと少しずつ接近してきていた。まずマッキナに4つの金属球を使わせることに成功した。この調子で全ての金属球を使わせることができれば、不意打ちを防がれることもなくなるだろうと、彼は考えていた。


 マッキナは火球を防ぎきると、今度は盾を再び金属球に変えてイグニスへと飛ばしていく。それを避けながら駆け、さらに火球を飛ばすイグニス。マッキナは新たな金属球を袖口から取り出し、盾を作って火球を防いではまた金属球に戻し、イグニスへと飛ばしていく。


 そしてついに、イグニスはマッキナの至近距離へとたどり着く。助走をつけて飛び上がり、拳を振り上げ、マッキナに迫る。


「『灼熱無双打撃』!」


 だがマッキナは金属球を使い果たしてはいなかった。彼女は再び新たな金属球を取り出し、迫るイグニスの拳を阻むべく盾を成形して展開する。


「『鉄塊障壁』!」


 イグニスの燃え盛る拳がマッキナの盾に衝突!激しい熱波が周囲を襲う。イグニスは歯を食いしばり、全体重をかけて盾を押し返そうとする。だが盾は動かない。そして彼が「灼熱無双連撃」を放つ態勢に入ったその時である。


「『震撃破』!」


 盾を押さえながらマッキナが叫んだ。イグニスは頭上に不穏な気配を感じとる。彼はすぐさま態勢を変えて盾を蹴り、マッキナから離れて着地する。


 次の瞬間、さっきまでイグニスがいた空間を巨大な重りが落下した。先ほど射出した金属球をマッキナが重りに成形し直し、イグニスの頭上から落としたのだ。重りは地面に衝突し、重々しい振動を発生させる。あれが命中していれば、イグニスはたちまち戦闘不能に陥っていたに違いない。


 イグニスが次の攻撃に移ろうとすると。今度は重りが急速に分裂して複数の金属球に戻った。そしてマッキナがイグニスに手をかざすと共に、彼へと射出される。攻撃を中断し、回避を余儀なくされるイグニス。


 そして全ての金属球を回避した時、彼は気付いた。浮遊するいくつもの金属球がイグニスを取り囲んでいる。観客席のネージュが叫ぶ。


「あれじゃ前のアヴォリオさんの状況と同じだわ!」


「どうするイグニス……金属球に当たったら終わりだぞ」


 リヴィエルも手に汗を握りながらそう溢す。イグニスも焦燥に駆られながら周囲を警戒する。相手は金属球なのだから、火球を投げようが相殺できない。直接殴るのはもってのほかだ。金属球に触れれば「束縛輪環」を使われてしまう。この状況に陥ってしまったのなら脱する方法は一つしかない。この金属球を全て回避し、マッキナ本体に攻撃を当てることだ。


 そしてついに、周囲から休みない金属球の飛来が始まった。初めは前方から、次は左方、その次は上方、さらに次は後方だ。イグニスはめまぐるしく動き回りながらも、マッキナのいる方向を見失わない。


 どうにかしてマッキナへ攻撃を放つ隙を生み出さなければならないが、少しでも気を抜けばアヴォリオと同じ運命をたどることだろう。焦ってはならない。落ち着いて確実に金属球を回避し、攻撃の隙を探るのみ。


 イグニスは金属球を避けるうち、あることに気付く。金属球は自分が今いる場所に向けて放たれており、自分の動きの予測地点に射出されることはない。そして、金属球の動きは直線的であり、途中で軌道を変えることもない。ただ全方向から放たれているために回避が難しいだけなのだ。焦りさえしなければ、回避は容易い。イグニスはそのことを悟ると、金属球を避けながら少しずつマッキナの方へと近づいていく。


 マッキナもイグニスの接近に気付いたようだ。彼女は盾を展開し、イグニスの周囲を走って移動し始める。


 だがその瞬間、イグニスに向かう金属球の動きが僅かに乱れた。イグニスはその隙を見逃さない。イグニスは掌の中に隠していた小さな火球を急成長させ、マッキナめがけて投げつける!


「『熱殺火球』!」


 イグニスの放つ火球はマッキナの金属球とは違い、マッキナの走る方向の移動予測地点へと飛んでいく。火球の迫る方向は盾によって死角となり、マッキナの前には突如火球が現れる。


「ぐああッ!!」


 火球がマッキナに衝突!その瞬間、イグニスを襲っていた金属球の動きが完全に止まった。イグニスは瞬時に飛び上がる。炎の噴出する腕を振り上げ、今度こそマッキナを吹き飛ばそうと迫る。だが態勢を立て直したマッキナは辛うじてこれを盾で受け止める。


「『灼熱無双連撃』!!」


 先ほどと同じ失敗はしない。拳が盾に衝突した瞬間、イグニスはすぐさま連撃に入る。目にもとまらぬ連続パンチが盾に振り下ろされ、マッキナは徐々に押されていく。自らの腕から吹き荒れる爆風を受けながら、イグニスは必死で腕を動かし続ける。気を抜いてはならない。このまま一刻も早くマッキナを場外へと押し出すのだ。


「フラム、いっけえーーッ!!」


「気を抜くな!そのまま押し出せ!」


 観客席ではネージュとリヴィエルが立ち上がり、叫ぶ。場外で見守るデレガートはマッキナの窮地に自身の目を疑い、驚きのあまり口を開いている。


 いよいよ試合場の端を示す枠がマッキナの背後に迫ってきた。イグニスはパンチの速度を緩めるどころかむしろ加速させる。盾を懸命に押さえるマッキナの腕には力の限界が迫っているようだ。イグニスは勝利を確信つつあった。


 だがその時、マッキナが突如として叫んだ!


「『束縛輪環』!!」


「ッ!!」


 イグニスはマッキナの唱えた魔法に驚愕する。慌てて攻撃を中断しようとするが、もう遅かった。イグニスの腰には、マッキナが操る金属球が形状を変えてベルトのように巻き付いていたのだ。


実はこの作品、ある企画に参加していました。詳しくは活動報告をご覧ください。

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