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第26話 虚像、そして圧倒

「おい見ろよ!マッキナとかいうオートマタ、結構かわいいぞ!」


「本当だ……。アニキ、大丈夫かな?」


「馬鹿野郎!アニキがそんなんで手を抜くわけねえだろ!」


 団員たちがマッキナを指差し口々に言う。


「あのマッキナって子、確かにかわいいわね……。フラム、あれって本当にテラに似てるの?」


 ネージュがイグニスに囁きかける。イグニスはテラの外見の再現度に感動しながら頷く。


「ああ。見た目は確かにそっくりだ」


 だが同時にイグニスは寂しさを覚える。あの外見は紛れもなくテラそのものだが、実際にはオートマタであり別人なのだ。能力を模しているとは言うが、イグニスや他の仲間たちとの記憶を持っているわけでもない。イグニスは、かつての仲間の姿を見ることができた喜びと同時に、どうしようもない虚しさを感じた。


 だが隣に座ったネージュはマッキナの姿に釘付けである。


「へえ、うらやましいわね。是非とも仲間として迎え入れたいわ……ぐへへ」


「ネージュ、君は何か目的をはき違えてないか?」


 気味の悪い笑みを溢すネージュを、リヴィエルは呆れ声で咎める。


 そうこうしているうちに、アヴォリオとマッキナは試合場へと上がり、真剣な表情で向かい合う。マッキナはオートマタではあるが、その表情には本当に人間の感情が宿っているかのようだ。


 研究員の一人である初老の男性が口を開いた。


「私はマッキナ開発チームのチーフを務めるデレガートです。あなたがアヴォリオさんですね。マッキナの戦闘データ収集にお手伝いいただきありがとうございます。マッキナは伝承に残る四大勇者テラの能力を完全に再現していますからね。もはやテラそのものと言っても過言ではありません。全力でご挑戦くださいな」


「そうか。テラそのものとまで言うとは、大した自信だな。まあそんなもの、この俺がひねり潰してくれよう」


 アヴォリオは両手にはめたグローブをかち合わせながら言った。


「それはどうでしょうかねえ。さあマッキナ、ご挨拶なさい」


 デレガートに促され、マッキナは丁寧に一礼すると、静かに言った。


「私がマッキナです。対戦よろしくお願いします」


 その声は、イグニスの知るテラの声とは異なるものだった。流石に声までは再現できなかったのだろう。本来のテラとは異なる落ち着いた話し方に、イグニスは強烈な違和感を覚える。テラはもっと元気で砕けた話し方だった……。いや、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。あれはテラではないのだ。イグニスはそう思い直すと、再び試合場の様子に集中した。


「お前さんがマッキナか。見た目がかわいらしいお嬢さんだろうが、俺は容赦しない。覚悟しておけ」


 アヴォリオとマッキナは再び睨み合う。アヴォリオの言葉を聞いても、マッキナは口を真一文字に結んだまま表情を崩さない。その様子を見た審判が口を開く。


「それでは、挑戦者のアヴォリオさんとマッキナの勝負を始めたいと思います。先に戦闘不能に陥るか、試合場の外に体が接触した方が敗北となります。それでは、準備はよろしいですか?」


 アヴォリオとマッキナが身構える。観客席のイグニスたちや団員も固唾を呑んでそれを見守り、場内は静寂に包まれる。


「では、始め!」


 審判の合図と共に、アヴォリオは両腕を胸の前で交差させると、低い声で唱えた。


「大地魔法発動。『鉄牙裂殺』!」


 アヴォリオが唱えたその時、彼のグローブの手の甲の部分から3本の短い突起が急速に伸び、長いツメのように変化した。直後、彼は宙へ軽々と飛び上がり、腕を振り上げマッキナに襲いかかる。重装備の鈍重さを全く感じさせない機敏な動きだ。


 だが、マッキナは避ける気配を見せない。眼前に迫るアヴォリオに、マッキナは掌を向けると静かに唱えた。


「大地魔法発動。『鉄塊障壁』!」


 その瞬間、マッキナの装束の袖から金属球が飛び出した。金属球はマッキナの掌の前に浮遊移動すると、まるで粘土のように伸び上がり、盾のような形状へと変化した。そこに迫るアヴォリオは攻撃を諦め、宙で素早く姿勢を変えると、マッキナの正面に展開した盾を蹴って着地した。


 すると今度はマッキナが盾を鉄球に成形し直し、着地後のアヴォリオへと高速で打ち出す。アヴォリオは瞬時に飛び退いてこれを回避。だが彼が見上げると、マッキナの周囲にはいくつもの金属球が浮かび、今にも彼に向けて射出されようとしていた。


 観客席でマッキナの魔法を見ていたイグニスは思わず呟いていた。


「あれは……テラの攻撃方法と全く同じ……」


 かつて何度もテラに手合わせを申し込まれたイグニスははっきりと記憶していた。テラは大地魔法により、いくつもの金属球を操る。そしてその形状を自在に変化させて攻撃を行うのだ。もちろん、先ほどのマッキナのように、盾を作り出して防御を行うことも可能だ。あのマッキナというオートマタは、本当にテラを完璧に再現しているとでもいうのか……?


 ネージュの隣に座った団員が、興奮に満ちた声を漏らす。


「おお!あれで本当にオートマタっすか!アニキも良い戦いができそうっすね」


「でも、アヴォリオさんのあの武装、近接攻撃用でしょ?マッキナ相手じゃ分が悪そうだわ」


 ネージュがそう言うと、団員は笑いながら答えた。


「アニキを甘く見ないでくださいよ。アニキが得意なのは近接戦だけじゃないっす!」


 一方試合場では、マッキナが体の周囲から射出する金属球をアヴォリオが次々と回避しているところだった。彼は一見ただ逃げ惑っているだけのようにも見えるが、少しずつマッキナへと接近してきている。


 そしてマッキナが周囲の金属球を飛ばし終わったその時、アヴォリオはツメの生えたグローブをマッキナへと向けて叫んだ。


「『鉄牙弾』!」


 瞬間、グローブから生えたツメがマッキナに向けて勢いよく発射された。これにはマッキナも意表を突かれた様子だったが、隠していた金属球をすぐさま盾へと変えて展開させた。発射されたツメは盾に直撃し、食い込んで防がれる。


「チッ、まだ金属球が残っていたか」


 アヴォリオは舌打ちするが、グローブからはまた新しいツメが伸びてくる。このグローブには何本ものツメが仕込まれているようだ。


 マッキナの攻撃は続く。先ほど回避された金属球が再び浮き上がり、アヴォリオの周囲を取り囲む。そして、アヴォリオに向けて全方位から次々と襲いかかる。


「ち、畜生!」


 回避に徹するしかないアヴォリオ。グローブからしかツメを放てないアヴォリオよりも、全方位から金属球を放てるマッキナの方が明らかに有利だ。素早い身のこなしで金属球を避けるアヴォリオだったが、次第に額には汗が浮かび、余裕が失われていく。休みなく飛んでくる金属球に、アヴォリオは攻撃する隙も見いだせない。


「こ、このままでは……」


 焦燥に駆られるアヴォリオを静かに見つめるマッキナ。その表情には少しの油断も浮かんでおらず、攻撃を休める気配はない。


「くッ、『鉄牙弾』!」


 回避を終えて生まれた一瞬の隙に、アヴォリオは苦し紛れの攻撃を放つ。だが、射出されたツメはマッキナが展開した盾によって容易に回避されてしまう。


 そして、アヴォリオが攻撃した直後、彼の二の腕に金属球が直撃!


「グワァッ!!」


 瞬間、マッキナが叫ぶ。


「『束縛輪環』!」


 その時、奇妙なことが起こった。アヴォリオの腕に衝突した金属球が形を変え、彼の腕にまるで腕輪のように収まったのだ。戸惑うアヴォリオだったが、外すことなど到底叶わない。


 次の瞬間、アヴォリオの体は腕輪に引っ張られるようにして宙に持ち上げられ、そのまま場外へと吹き飛ばされる!マッキナが大地魔法を使い、腕輪ごとアヴォリオの体を投げ飛ばしたのだ。


「グワァァァァッ!!!!」


「「「「アニキーーーーッ!!!!」」」」


 団員たちの驚愕に満ちた叫びが闘技場に響き渡る。だがアヴォリオは為す術もなく場外の床に打ち付けられ、伸び上がってしまった。


「勝負あり!マッキナの勝利!」


 審判の声が響き渡り、戦闘は終わった。マッキナは倒れ込むアヴォリオの様子を一瞥すると、静かに試合場の定位置に戻った。観客席に座る団員たちは皆、自らの団長の完敗に衝撃を受け、沈黙してしまった。


「そんな……アニキがあんなに簡単に負けちまうなんて……」


「あれが本当にオートマタなのかよ……」


 何人かの団員が辛うじて声を漏らした。


 イグニスも自らの目を疑っていた。マッキナの攻撃の手口が、テラと全く同じだったからだ。彼自身もかつてマッキナと手合わせをし、あの『束縛輪環』の前に敗北を喫したことが何度もあった。やはり噂通り、マッキナにはテラと同じ能力が宿っているとしか言いようがない。あの力があれば、魔王討伐に向けて大きな戦力となるはず……。


 試合場ではアヴォリオがようやく起き上がり、試合場の上へ戻っていたところだった。二の腕の腕輪はすでに外され、マッキナの元に戻っていた。アヴォリオとマッキナは試合場の中央で握手を交わす。アヴォリオは悔しさを必死にこらえているような表情であり、マッキナはひたすら無表情だ。


 端で見ていた研究員のデレガートが口を開く。


「アヴォリオさん、お疲れ様でした。結果は残念でしたが、あなたはなかなか善戦した方ですよ。テラと同等の力を持つマッキナの性能、分かっていただけたでしょうか?」


「……ああ、全く素晴らしい限りだよ。完敗だ」


 そう言いつつ、アヴォリオは満面の笑みで話すデレガートと目を合わせることもない。彼は俯いたまま踵を返し、試合場の外へ出ていった。


 闘技場のロビーで、アヴォリオは団員に迎えられた。団員たちは皆、何と声をかけて良いか分からないまま、アヴォリオの顔を見つめている。アヴォリオは静かに口を開く。


「すまない。期待させておいて、こんな情けねえ姿見せちまって」


「アニキ……」


 だが団員たちが悲痛な声を漏らすと、アヴォリオは一転して笑顔になって言った。


「まあいい。あんなオートマタにも勝てねえってことは、まだまだ鍛錬が足りねえってことだな!それが分かっただけで十分だ。よしお前ら、今日からは特訓だぞ!」


 アヴォリオの様子を見た団員たちは安心したようで、たちまち笑顔に戻った。


 それを外野で見ていたネージュはイグニスに問う。


「ねえフラム、私たちはこれからどうする?」


「一つしかあるまい。俺もマッキナと戦う」


「大丈夫なのかい、イグニス。さっきの戦いを見る限り、マッキナは非常に強力だよ」


 不安げに問いかけるリヴィエルを安心させるべく、イグニスは自信に満ちた声で言った。


「心配するな。テラとはかつて何度も戦ったことがある。もちろん、勝利したこともな。マッキナに勝利すれば、話す機会が得られるかもしれん」


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