第25話 無念、そして挑戦
「俺らは『鉄牙団』。野良ガーディアンの集まりさ。そして俺が団長のアヴォリオだ」
イグニスたちとともに歩きながら、スキンヘッドの男は名乗った。強面ではあるが、意外にもその性格は温厚そうだ。他の団員たちは、イグニスたちが付いてきていることに少し不満を覚えているようだが、アヴォリオに逆らってまで追い払う気はないらしい。
野良ガーディアンという言葉に、ネージュが反応する。
「あなたたち、野良ガーディアンだったのね。実は私も野良ガーディアンなのよ。ネージュっていうの。こっちが妹のフラムで、こっちがガーディアン養成学校の先生をやってるリヴィエルよ。私たちは三人とも魔法使いなの」
ネージュがイグニスとリヴィエルを紹介する。当然のようにイグニスを妹だと説明するネージュに、イグニスは呆れながら小さくため息をつく。リヴィエルもそれを見て笑いをこらえている様子だ。
「そうか。で、お前さんたちも例のオートマタに挑もうってわけか」
アヴォリオがそう言うと、すかさずイグニスが答えた。
「いえ、私たちは訳あって四大勇者テラの子孫を探しているんです。でも、テラを模したオートマタと聞いて気になってしまって」
「なるほどな。だが残念なことに、テラには子孫がいない。テラは四大勇者の中でも最年少だった上に、魔王に挑んで戦死したそうだからな。しかも彼女は片田舎の出身だったから、家柄もよく分かっていない」
「そんな……」
イグニスの不安は的中してしまった。四大勇者の中でも最年少だったテラが、魔王に敗れその短い生涯を終えたというのか。彼女のことを思い出すと、なんとも無念だった。
そしてアヴォリオが言うように、確かにイグニスもテラの出身がどこなのか、正確には知らなかった。アクアほどの高貴な生まれであるなら子孫が明確であるかもしれないが、ごく普通の家庭の生まれであるテラの家系は追うこともできないだろう。イグニスは無意識のうちに悔しさで歯を食いしばっていた。
「やはりテラには子孫がいなかったのか……。イグニス、これからどうする?」
リヴィエルが小声で尋ねる。その言葉でイグニスは我に返った。悔しがってもテラの家系が復活するわけではないのだ。次の一手を考えなければ。イグニスはすぐにアヴォリオの言葉を思い出して言った。
「先ほど、テラを模したオートマタという話があっただろう。ひとまずそのオートマタに会ってみるしかあるまい」
「そうか。僕もそれしかないと思っていたよ」
彼らの話を聞いて、ネージュがアヴォリオに尋ねる。
「あの、さっきテラを模したオートマタって話、してたわよね?詳しく聞かせてもらえる?」
「ああ、いいだろう。なんでも魔法技術研究機構では、魔法が使えるオートマタの開発をしていたらしくてな。それがようやく実用段階に入ったから、試作品としてテラの外見と能力を模したオートマタを作ったんだと。テラには子孫がいないからお咎めなしだ。名前はマッキナというらしい。そして、魔法技術研究機構はマッキナの実戦データを集めるために、闘技場で対戦相手を募ってるんだ。勝者は賞金がたんまり貰えるそうなんだが、マッキナは非常に強力で、未だ勝利した者がいないらしい。そんで、俺らもその噂を聞きつけて、今から挑戦しに行こうってわけさ。戦うのはもちろん俺だ」
「なるほどね……子孫がいない代わりにオートマタを作ったってわけね」
ネージュが頷く。話を聞きながら、イグニスも思考を巡らせていた。もしそのマッキナというオートマタが本当にテラの能力を再現しているならば、どうにか話をつけてマッキナに魔王討伐の協力を仰ぐのも手だ。しかし、魔法技術研究機構という組織がそれを認めてくれるだろうか。とりあえずはアヴォリオの挑戦の様子を見て、マッキナの実力を見定める必要があるだろう。
「きっとアニキなら余裕っすよ!強いとは言っても所詮オートマタなんだし」
「そうですよ。そんなもん、ガーディアンで元最強だったアニキの敵じゃありません!」
団員たちがアヴォリオに向かって口々に言う。それを聞いてアヴォリオは笑う。
「ハッハッハ。お前ら、おだてても何も出てきやしねえぞ。……だが、オートマタとはいえ油断はできない。全力をもって木っ端微塵にしてやろう」
アヴォリオは笑うのをやめると、真剣な目つきで虚空を睨みつけた。イグニスは団員たちの話を聞き、アヴォリオが元々はガーディアンだったことを悟る。ネージュと同じように、彼も過去に深い事情があったのだろうか。何となく聞いてはいけない気がして、その理由を尋ねることはしなかった。
鉄牙団たちの派手な風貌のせいか、忙しげに行き交う人々から自然と距離を取られている。イグニスたちはあまり良い気分ではなかったが、人混みを回避できた点は良かったと言えるだろう。アヴォリオたちと話しながら歩いているうちに別の地区にたどり着き、遠くにフェンスで囲まれた広い敷地が見えてきた。アヴォリオが指差す。
「あれが魔法技術研究機構の敷地だ。あの中に専用の闘技場があって、そこでマッキナと戦える」
イグニスたちは正門から敷地内に入る。魔法技術研究機構の広大な敷地には博物館や資料館といった施設も併設されており、一般開放されているようだ。イグニスたちは敷地内の道路を通り、専用の闘技場にたどり着く。
闘技場はどうやら新しいらしく、大きさもイグニスがリヴィエルと試合を行った闘技場に匹敵するほどだ。アヴォリオは入り口で受付を済ませる。挑戦できるのは一人ずつであり、イグニスたち三人と他の団員たちは観客席で応援だ。
「アニキ、絶対勝ってくださいよ!」
「オートマタなんてスクラップにしちゃってください!」
「おう、任せとけ。賞金で美味いもんをたらふく食わせてやるからな」
団員たちの激励を受け、アヴォリオは自身ありげに笑ってみせる。
「頑張ってくださいね。私たちも応援しています!」
「ハハハ。お嬢ちゃんに応援して貰えるとは、嬉しい限りだな」
イグニスの言葉に、アヴォリオは照れた様子だ。もちろん、彼は目の前の少女が実際は四大勇者のイグニスであることを知らない。
「オレもあんな子に応援されてえ……」
「アニキがうらやましいぜ……」
口々にそう溢す団員たちを尻目に、真実を知るネージュとリヴィエルは笑いを必死でこらえていた。
いよいよアヴォリオは試合場へ向かい、イグニスたちは観客席に入り並んで座る。観客席は空席だらけであり、大人数でも余裕で席を確保できる。
「テラを模したオートマタっていうくらいだからもっと人がいるかと思ってたけど、そうでもないのね」
ネージュがそう言うと、隣に座った団員が答える。
「挑戦を受け付け始めた当初はたくさん人がいたらしいっすけど、なにしろ全部マッキナの圧勝っすからね。みんな飽きちゃったんじゃないすか?」
「なるほどね。そのマッキナっていうオートマタの実力は相当のものみたいね」
その話を聞いて、リヴィエルがイグニスに囁きかける。
「イグニス、これは結構期待できるんじゃないか?」
「そうだな。何とかして仲間に迎え入れることができればいいんだが……」
彼らが話をしていると、眼下の試合場にアヴォリオが入場してきた。彼は重厚な金属製のグローブをはめ、筋骨隆々とした体には金属製の分厚いチョッキを身につけている。あれだけの重装備をしながら平気で立っていられるとは、彼の筋力は並外れたものだろう。団員たちが激励の声を上げると、彼は笑いながら手を振って見せた。
やがて、アヴォリオが入場したのとは反対の入り口から、白衣を着込んだ二人の研究員が姿を現した。そして、その後方から現れた少女型オートマタの姿を目にしたとき、イグニスは思わず息を呑んだ。
ウェーブがかった長い金髪。恐れを知らない黄色の瞳。紅色の装束。外見の年齢は、イグニスの今の外見より少し年上くらいだ。間違いない。イグニスは思わずその名を呟く。
「テラ……?」
そのオートマタの見た目は、イグニスの記憶の中にある四大勇者のテラそのものだった。




