第24話 到達、テラシティ
お待たせいたしました。投稿を再開します。章を新たに設け、第三章(24話以降)を全く別のストーリーで書き直すことにしました。旧版の最後までお読みいただいた方、本当に申し訳ございません。今度こそは最後まで書き切れるよう努めます。
「イグニスさん、エストレヤのことは頼みます。頑張ってください!」
「ああ、任せてくれ。行ってくる」
ソルに見送られ、三人は旅客用連絡飛行艇の発着場入り口へと入っていく。去っていくイグニスの姿を、ソルは名残惜しそうに見つめている。よほどエストレヤのことが気がかりなのだろう。彼のためにも、これからは一層この体を大切にしなければならない。イグニスは気を引き締めながら、ソルにもう一度手を振った。
テラシティ行きの連絡飛行艇の乗り場は相変わらず長蛇の列だ。最後尾に並ぶと、ネージュが周囲を見渡しながら口を開く。
「なんか私たち、浮いてる気がするわね」
「仕方ないよ。テラシティは工業都市だ。観光客よりもビジネスパーソンや職人の方が多いのは当然さ」
リヴィエルが答える。確かに、列に並んでいるのはスーツを着込んだビジネスパーソンや作業服を着た職人風の人々しかいない。イグニスのような外見の少年少女は一人としていなかった。
「周囲の者達からすれば、俺たちはどのように見えているのだろうな」
イグニスがふと呟くと、リヴィエルが考え込みながら答える。
「うーん……親子連れ?」
「はあ?何それ!あなたと私が夫婦でフラムが子どもってこと?どう考えてもフラムの歳がおかしいじゃない!それにあなたと夫婦なんて死んでもごめんだわ!」
「そ、そこまで言わなくても……」
呆れと憤りを露わにするネージュに気圧されるリヴィエル。イグニスはそんな二人の様子を見て自然と笑みを溢す。
そんな話を続けているうちに順番が回ってきて、三人は飛行艇へと乗り込んだ。座席は通路を挟んで両側に二つずつなので、三人のうち一人は通路を挟んで反対側に座らなければならない。イグニスとリヴィエルがどちらに座るか決めあぐねていると、後続の搭乗者たちが詰まってしまった。すると、ネージュが勢いよくイグニスの肩を掴み、大声で言った。
「もちろん、フラムはお姉ちゃんと一緒に座りたいよね!」
しかしイグニスはその時、前回イグニスシティからアクアシティ行きの飛行艇に乗ったときのことを思い出した。ネージュと一緒に座ったら、またくだらない演技をさせられるに違いない。ならば……
「わ、私、今回はお兄ちゃんと一緒に座りたいな!」
イグニスはそう言って、ネージュの腕を体から離した。リヴィエルはイグニスの言葉に呆然としている。
「お、お兄ちゃん……?」
イグニスはそんなリヴィエルの腕を掴んで強引に隣に座らせた。ネージュは必然的に反対側の席に座るしかなくなる。
「フ、フラム……そんなあ……」
そう言って悲しげにビジネスパーソンの隣に座り込むネージュ。そんな彼女を尻目にリヴィエルがイグニスに囁く。
「おい、いきなりやめてくれよイグニス」
「仕方ないだろう!ネージュと座ると、くだらない少女の演技を延々させられる羽目になるのだ。あの一言で済んだだけでもまだましな方だ」
「しかしそれにしたってお兄ちゃんだなんて……。言われるこっちも複雑な気分だよ」
「悪かった。だが俺も言いたくて言っているわけではないのだ」
二人がひそひそと話をしていると、ネージュが通路の方へ身を乗り出しながら喚き始める。
「もー!なんで二人で楽しそうに話してるのよ!ずるいずるい!」
ネージュの隣に座った男性はいかにも迷惑そうにしている。それをみてリヴィエルがすかさず咎める。
「こら、隣の人に迷惑じゃないか!駄目だよ静かにしなきゃ」
「そうだよ!お兄ちゃんの言うとおりだよ!」
イグニスも一緒になってそう言うと、ネージュは渋々と正面を向いて大人しくなった。
「イグニス、またお兄ちゃんって呼んだじゃないか。もしかしてこの呼び方気に入ったのか?」
「い、いや、そんなことはない」
リヴィエルに問われ、イグニスは慌ててそう言いながら顔を背けた。だがイグニスの内心は焦りと羞恥心で一杯だった。リヴィエルを一度目にお兄ちゃんと呼んだのは意図的なものだったのだが、二度目は自然と口から出てしまったのだ。ソルと共に行動し、エストレヤの口調を真似ていた影響だろうか。一度呼び方が定着してしまったら、そうそう変えられるものではない。なるべくもうお兄ちゃんと呼ぶのは止めよう……とイグニスは強く思った。
話題を変えるべく、イグニスはこう切り出した。
「ところでリヴィエルよ、お前はテラの子孫についての情報は持っていないのか?」
「ああ、僕はテラの子孫については何も聞いたことがないんだ。アエルの子孫の話なら聞いたことがあるんだけどね」
イグニスはそう聞いて不可解に思う。アクアの子孫であるリヴィエルならば、テラの子孫についての情報を持っていてもおかしくはないはずだ。もしかしたらテラの子孫はソルとエストレヤのように、テラの子孫であることを公表していないのかもしれない。いや、あるいは……。
イグニスは最悪の可能性に思い当たり、リヴィエルにすかさず問う。
「もしや、テラの子孫がすでに途絶えているなどといったことはないだろうか」
「そうだな……否定しきれないね。あまり考えたくはないけれど」
リヴィエルの反応にイグニスは不安を募らせる。イグニスはテラの顔を思い出す。テラは快活で気丈な少女だった。四大勇者の中で最年少でありながら最も負けん気が強く、イグニスは何度も彼女に手合わせを申し込まれたものだ。そして、広大な森の中で道に迷い死を覚悟した時や、魔族との戦いで窮地に陥った時、いつも仲間を励してくれたのは彼女だった。そんなテラに、子孫がいないとしたら……。イグニスは目を瞑り、テラに子孫がいることを心から祈った。
しばらくして、リヴィエルが窓の外を指差した。イグニスがそちらに視線を向けると、テラシティと思われる巨大な都市が浮かんでいた。その外観はアクアシティとはまた違った趣を持っている。建造物の色合いは全体的に灰色や銀色、銅色であり、所々からのびる煙突からは黒い煙をたなびかせている。流石は工業都市といったところだろう。
連絡飛行艇は見る間にテラシティの発着場に滑り込んだ。三人は他の搭乗客に続いて飛行艇を降り、発着場の外へと歩いていった。飛行艇内で一人にさせられたからか、ネージュはイグニスにべったりである。
発着場の外は、歯車型のモニュメントが置かれた広場だった。銀色の金属板が地面を覆い、透明なカプセルに覆われた街路樹が所々に植えられている。
「なんか、アクアシティに比べると無骨すぎてつまんないわね」
ネージュが率直な感想を漏らすと、リヴィエルが苦笑する。
「観光都市ではないからね。まあ、こういった街の趣も面白くて良いんじゃないかな」
「それより、俺たちはテラの子孫を探しに行かねばならんのだ。リヴィエルに初めて会いに行ったときと同様、聞き込みしなければな」
イグニスがそう言うと、リヴィエルとネージュも頷き、広場を抜けて市街地へと向かっていった。
「なんだかみんな忙しそうで、聞き込みもしづらいわね」
街路を歩きながら、ネージュが言う。確かに、まだ朝だからか人々は皆足早に街路を通り抜けていく。中には、周囲をきょろきょろと見回しながら歩く三人を迷惑そうに追い抜いていく人もいる。
「うーん、どこか店にでも入って聞いた方が良いんじゃないか?」
リヴィエルがそう提案してきたその時である。彼らの後方から何者かの集団が勢いよくぶつかってきた。三人は転びこそしなかったものの、大きくよろつくことになった。三人が憤りながら後方を振り返ると、派手な装飾が施された鎧を着た柄の悪い男たちが十数人、イグニスたちを睨みつけていた。そのうちの一人が叫ぶ。
「なんだお前ら!周囲に気ぃ使って歩けや!」
「それはこっちの台詞よ!あなたたちの方からぶつかってきたんでしょ!」
すかさずネージュが食ってかかる。彼女は相手の柄の悪さなど全く意に介していない。その後ろでリヴィエルはイグニスの盾になりつつも、表情には今にも逃げ出したいという気持ちが見え隠れしている。
「ああ?うっせえ姉ちゃんだな!やんのか?」
男がネージュに顔を近づけ睨みつけたそのとき、彼らのリーダー格と思われる男が後ろからその肩を叩いた。肩を叩かれた男は慌てて振り返る。リーダー格の男はスキンヘッドであり、彼らの中でも一際がたいがいい。彼は低い声で咎めた。
「おい、大事な勝負の前だぞ。こんなところで無関係な人間に喧嘩売ってる場合か?」
「ア、アニキ……すいません」
ネージュに喧嘩を売った男は縮こまって引き下がった。リーダーの男はネージュの前に進み出て素直に詫びる。
「うちの団員がすまなかった。血の気が多い奴らばかりでな。では、俺らは用事があるので失礼する」
そう言って、男たちは立ち去ろうとした。その時、イグニスがすかさず前に出て彼らを呼び止めた。
「待ってください!あの、大事な勝負って一体なんですか?」
すると、スキンヘッドの男は立ち止まって静かに答えた。
「魔法技術研究機構という所で、四大勇者のテラを模したオートマタと戦えるらしい。俺らは今から、そいつをぶっ潰しに行くところだ」
その言葉に、イグニスたちは思わず顔を見合わせた。そして、イグニスはすぐさま叫んだ。
「私たちも一緒に行きます!」
本日からは不定期更新となりますが、なるべく毎日投稿できるよう努めます。投稿時間は今まで通り18時頃、20時頃、22時頃のいずれかです。




