旧 第28話 戦闘、そして絶望
マッキナの声を合図に、周囲のオートマタたちは武器を構えて一斉にイグニスへと襲いかかる。正面から対応しようとすれば、大群に呑まれあっという間に袋叩きに遭うだろう。
イグニスはオートマタに飛びかかられる寸前、超人的な瞬発力で垂直に飛び上がった。そして、さきほどガーディアンと戦ったときと同様、体の周囲に火球を生み出し、オートマタの頭上へと投げつける!
「『熱殺火球・散弾』!」
「「「「グワァァァァッ!!!!」」」」
火球が十数人のオートマタの頭上に直撃し、その周囲のオートマタをも巻き込んで吹き飛ばす。だが、いかんせん数が多すぎる。全員を一掃するにはまだまだ足りない。イグニスは真下に群がったオートマタの肩を踏み台にしてもう一度飛び上がると、再び火球を生み出した。だがその時!
「大地魔法発動。『念動雷槍』!」
マッキナの声と共に、金属球はまるで粘土のように形を変えて槍となり、イグニスへと迫る!イグニスは瞬時に空中で体をひねり、体格の大きなオートマタの背中を蹴って着地する。先ほどまでイグニスがいた空間を、金属の槍は高速で通り抜けていく。
立ち上がりながら、イグニスは内心で焦りを覚える。マッキナの金属攻撃を回避しつつ、これだけのオートマタの大群と戦い続けるのは困難だ。オートマタへの対処に気を取られれば、あの槍に体を貫かれるだろう。このままいつまで気力が持つかの勝負である。
彼が思考していたその時、頭上から接近する気配に気付く。先ほどの金属の槍が今度は合体して巨大な重りとなり、イグニスの脳天へと迫っているのだ。再びマッキナの声が響く。
「『震撃破』!」
そして周囲からは、殺気立ったオートマタの群れが飛びかかってくる。イグニスは意を決して拳を振り上げ、オートマタの群れへと突っ込む!
「『灼熱無双連撃』!」
「「「「グワァァァァッ!!!!」」」」
高速でパンチを繰り出し、目の前に迫る数十のオートマタを吹っ飛ばす。イグニスの後方では、重りが地面に衝突し重々しい振動を発生させる。あれが直撃していたら、たちまち彼の体はスクラップにされていたに違いない。
眼前のオートマタを壁際の機械類まで吹っ飛ばしたイグニスだったが、振り返れば今度は重りが巨大な鉄球となって彼へと高速で接近している。そして数十のオートマタも一緒だ。このままでは埒があかない。またこの大群に突っ込むしかないのか……?いや、その時である。
「『虚空螺旋刃』!」
「『大河激流拳』!」
突然、ネージュとリヴィエルの声が響き渡り、大量の空気の刃と巨大な水の拳によって目の前のオートマタたちが一掃されていく。二人が助けに来てくれたようだ。その様子を見届けると、イグニスは飛び上がり、迫り来る巨大金属球へと拳をたたき込む!
「『灼熱無双打撃』!」
凄まじい熱波を放ちながら、イグニスの拳と金属球がかち合う。イグニスの機械の腕に鈍い衝撃が走るが、怯んではいられない。そのまま全体重をかけ、金属球を押し返そうとする。だが!
「『束縛輪環』!」
マッキナが唱えると、金属球は突如変形してイグニスの腕にまとわりついて環状となり、イグニスの手首にまるで手枷のように収まった。その瞬間、イグニスは手枷に引っ張られるように壁際へと飛ばされる!マッキナが大地魔法で手枷ごとイグニスを動かしているのだ。
「グワァァァァッ!!!!」
壁際に置かれた機械類に激突するイグニス。だがこれでは終わらない。イグニスはまた手枷に引っ張られて宙に浮き上がり、天井へと吹っ飛ばされる!
「イグニス!畜生、『氷柱刺突』!」
イグニスが飛ばされる様を見たリヴィエルがすかさず氷柱を生み出してマッキナへと投げつける。だが、彼女は回避する素振りを見せない。マッキナは迫り来る氷柱へと掌をかざし、唱える。
「『鉄塊障壁』!」
瞬間、マッキナの装束の袖に隠された金属球が飛び出し、空中で板状に展開する。氷柱は金属の障壁に阻まれ粉砕!
「何ッ!」
驚愕するリヴィエルの頭上では、イグニスが天井の支柱へと叩きつけられ、今度は地面へと引っ張られていく。マッキナはこのままイグニスを地面に激突させるつもりだ。
だが、障壁を金属球へと戻し袖へと収めたマッキナの背後に、今度はネージュが迫っていた。マッキナはそれに気付いたが、今度は避ける余裕がない!
「『虚空旋風刃』!」
「ぐッ……!」
空気の刃がマッキナに直撃!その瞬間、魔法が解除されたのか、イグニスの手にはまっていた手枷が液体のように溶け出し、彼は解放された。真下で構えていたリヴィエルに受け止められ、事なきを得る。
「大丈夫か、イグニス」
「ああ、ありがとう」
イグニスは二度も廃工場に激突したダメージを受けてふらつきながらも、なんとかリヴィエルの腕を離れて立ち上がる。イグニスの腕は所々皮膚が裂け、内部機構が露出してしまっている。
「すまないな。後ろから追ってきたオートマタたちに見つかってしまったんだ」
リヴィエルの謝罪に、イグニスはすかさず返答する。
「心配するな。今この状況でできることを考えればいい」
一方、空気の刃を受けたマッキナは、装束の所々が切り裂かれたものの、無傷であった。彼女は自身にも大地魔法をかけ、機械の体の耐久力を強化しているのだろう。彼女は顔の前に構えていた両腕を解くと、周囲に立つイグニス、ネージュ、リヴィエルを睨みつけて叫ぶ。
「どうして……あなたたちの目的は一体何なんですか!」
イグニスはすかさず答える。
「先ほども言ったはずだ。俺たちは、あなたがこの争いをやめて魔王討伐に協力してくれることを望んでいる。それだけだ」
だがマッキナはそれを聞いてますます取り乱したように叫ぶ。
「それは私がテラを模したオートマタだからでしょう!あなたたちも、魔法技術研究機構の人たちと一緒だ。みんな、私をテラとして扱うか、破壊するかしか考えてない!……本当はみんな思ってるんでしょう?私なんか生まれてこなければ良かったって。テラに子孫がいればそれで解決だった。私が完成しなければ、こんな争いも起こらなかった!」
オートマタなので涙は流れないが、マッキナの顔は怒りと悲しみに歪み、今にも泣き出しそうだ。イグニスたちの心は悲痛な思いに支配される。マッキナは完全に心を閉ざしている。当然のことだ。自分の誕生を人々に拒絶され、争いが起きる。製作者たちからは自分自身ではない他人として扱われる。その悲しみはイグニスたちの想像を遙かに絶するものだろう。だからこそ伝えなければ。
ネージュが口を開く。
「私たちは、あなたをテラだなんて思ってないわ。それに、あなたが生まれてこなければ良かっただなんて、思ってない。私たちには、あなたの力が必要なのよ」
リヴィエルも頷く。
「僕も四大勇者アクアの子孫で、君と同じように苦しいときもあった。でも、イグニスとネージュは僕を僕自身として見てくれるから、こうして一緒にいる。だから君も、僕たちと一緒に来てくれないか」
二人の言葉を受け、イグニスもはっきりとマッキナの目を見据えて言う。
「マッキナ、この通りだ。人間かオートマタか、テラを模したオートマタかどうかなど関係ない。俺たちが欲しいのは他でもないあなたの力だ。だからどうか、頼む。人間との争いをやめて、俺たちと共に魔王と戦ってはくれないか」
三人の眼差しに見つめられ、マッキナは困惑した様子だった。彼女は俯き、黙り込む。三人は固唾を呑み、マッキナの返答を待つ。しかし……
「……うるさいうるさいうるさい。さっきまで私を破壊しようとしていたくせに……」
「マッキナ……」
ネージュが悲痛な声を漏らしながらマッキナへと歩み寄る。だがマッキナはネージュに金属の槍を突きつける。彼女は顔を上げると、憤怒の形相で三人を睨みつけた。
「あなたたちに何が分かる!私に近寄るなあッ!!!!」




