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第3話 その少女、イグニス

 エビの頭を持った魔族、ホマルスが不気味なほどに丁寧な挨拶を行ったのを、イグニスも物陰から聞いていた。その内容を耳にし、彼はますます混乱するばかりだった。


 まず、ホマルスという魔族の名など聞いたことがない。甲殻族という種族の長であるほどの実力ならば、イグニスの耳に入っていてもおかしくはないはずだ。もしかすると、魔王軍の中でもかなり階級は下なのかもしれない。


 それから、浮遊都市イグニスシティという街の名前も奇妙である。彼と同じ、イグニスという名前を冠しているということが、彼には偶然とは思えなかった。


 ここまでの状況で彼が理解できたのは、ガーディアンたちが火炎魔法を使用することぐらいである。だが、あの筒状機械に頼っているところを見ると、彼らの持つ魔法技術自体はそれほどでもないと思われる。


「勇ましきガーディアンの皆さん、アナタ方が砲撃戦よりも、近接格闘戦の方が得意だということはワタクシもすでに知っています。だからわざわざこんなに近くまで来たのです。まずはアナタ方を蹂躙させて頂くとしましょう。ワタクシどもはいきなり隠れている市民を狙うほど残忍ではないのですよ。それに、簡単にイグニスシティが陥落してしまっては、面白くないですからねえ!」


 ホマルスは空中浮遊する小型飛行艇の上で、ガーディアンたちを煽る。すると、ガーディアンの一人が叫ぶ。


「だったらそんなとこにふよふよ浮いてねえで、さっさと降りてきてみろ!」


「おやおや、随分と血の気の多いガーディアン様ですね。いいでしょう。ワタクシがイグニスシティに降り立った瞬間、開戦といたしますか。皆さん、ご準備はよろしいですか?」


 ガーディアンたちが筒状武器を捨て、それぞれ剣や盾、あるいはグローブなどに持ち替え態勢を整える。他の小型飛行艇の魔族たちも、ハッチを開いて一斉に身構え、ホマルスの動きを注視する。イグニスも物陰で表情をこわばらせ、固唾を呑む。


 ホマルスが周囲を見渡して確認し、頷く。


「では……」


 ホマルスは次の瞬間、軽々とした身のこなしで小型飛行艇から飛び上がった。そして空中で回転し、真下の地面に美しいフォームで着地すると同時に叫んだ!


「始め!」


 ガーディアン、そして魔族たちの天地を揺るがすような咆哮が響き渡り、戦いの火蓋は切られた。小型飛行艇から次々と魔族たちが飛び降り、イグニスシティに上陸する。そこに駆け寄り、それぞれの武器を振るうガーディアンたち。武器には炎がまとわりついており、彼らが火炎魔法を行使していることを示している。


 イグニスシティの最外周の路上で今、壮絶な戦闘が始まった。ある場所では、ガーディアンの振るう剣と、甲虫型魔族の硬い腕が交錯し、火花が散る。またある場所では、ガーディアンの拳とザリガニ型魔族のハサミがかち合い、互いの体を吹き飛ばす。戦いはすでに大乱闘の様相を見せていた。


「「「「うおおおおおおッ!!!!」」」」


 4人のガーディアンたちが今、一斉にホマルスへと駆け、斬りかかる。しかし、ホマルスは回避する姿勢を微塵も見せない。


 そして直立したまま、迫ってくるガーディアンたちに掌を向けると、静かにこう唱えた。


「甲殻魔法発動。『亀甲障壁』……!」


 その瞬間、彼の掌の前の虚空から、亀の甲羅のような形状をした、透き通る巨大な障壁が出現した。そしてガーディアンたちは走る勢いを殺せないまま、突然出現した障壁に激突!


「「「「グワァッ!!!!」」」」


そして続けざまにホマルスは唱える。


「『甲殻突破』!」


 彼の声を合図に、透き通る障壁はそのまま勢いよく前進。衝突し態勢を崩したばかりのガーディアンたちを跳ね飛ばす!


「「「「グワァァァァッ!!!!」」」」


 障壁を生み出して防御し、なおかつそれを攻撃にも利用するという攻防一体の魔法である。障壁が消滅すると、ホマルスは手を下ろして蔑むような笑い声を上げた。


「アハハハハ!全く、ワタクシは甲殻族の長だと言ったじゃありませんか。簡単に攻撃できるなどと思わないでくださいね!」


 一時呆然とするも、再び四方からホマルスに襲いかかるガーディアンたち。しかし、ホマルスは周囲に次々と障壁を生み出しては、先ほどと同じようにガーディアンを跳ね飛ばしていく。ガーディアンたちは彼にかすり傷一つ負わせることができない!


「やれやれ、ワタクシは殺さぬよう手加減しているんですよ?。ガーディアン様たちの実力はこの程度ですか?全く張り合いがありません!退屈な限りだ」


 障壁で周囲のガーディアンをあらかた蹂躙したホマルスは、心底失望したような声を漏らした。彼の周りには伸び上がって地にへばるガーディアンばかり。彼の声に答える者はいないと思われた。


 だがその時である。


「そうか。退屈と言うならば、次は俺が相手だ」


 突然後方から聞こえた少女の声に、ホマルスは振り返った。見ると、白いワンピースを着た小柄な銀髪の少女が、恐れを知らぬ赤い瞳でホマルスをまっすぐに見据えているではないか。


「おやおや?こんな所にはぐれお嬢様が一人。どこから紛れ込んできたのでしょう」


 ホマルスは怪訝そうにエビ頭をかしげた。少女が言う。


「貴様、なかなかやるみたいだな。だが残念ながら、貴様はこれから俺に焼き殺される運命だ」


 ホマルスはそれを聞いて少しの間沈黙した後、あきれたような笑いを漏らした。


「アッハハハハ!随分と身の程知らずなお嬢様だ!一体何様のつもりでしょう?」


 その問いに、少女は堂々たる名乗りを上げた。


「何様だと……?俺は四大勇者の一人、火炎魔法使いのイグニスだ!」


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