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旧 第27話 マッキナ、対面

 三人が走るうち、塗装が剥がれ劣化した巨大な工場の外観が見えてきた。マッキナが立てこもる廃工場はあれだろう。その重々しい入り口には武器を携えた何人ものオートマタが警戒している。ガーディアンたちが善戦してくれているのか、後方から追いすがるオートマタは一人もいない。


 道端に放置されたコンテナに身を隠した三人は、廃工場侵入のための手立てを思案する。


「やっとたどり着いたわけだけど、簡単には入れてくれそうにないわね」


「少々手荒な手段を使うしかないか?」


 イグニスがそう言うと、リヴィエルが首を横に振る。


「いや、だめだ。恐らく廃工場内にはもっとたくさんのオートマタたちが控えているだろう。入り口で騒ぎを起こせば、大勢のオートマタから返り討ちに遭うに違いない」


「どうしたものかしらね……」


 三人は考え込む。すると、イグニスが口を開いた。


「……俺の体はオートマタだ。俺がマッキナに会いたいと言えば、通してもらえるかもしれん」


「で、でもフラムに一人で行かせるのは不安よ。それに、もしあなたが人間だと知られちゃったら、どう対処するの?」


 不安げにそう言うネージュの目を見つめ返し、イグニスは真面目な表情で返答する。


「心配するな。何とか平穏に解決する。お前たちはここで待ち、さっきのオートマタたちが追ってきたら食い止めて欲しい」


「……わ、分かったわ」


「気をつけるんだぞ、イグニス」


 二人はまだ不安を拭いきれない様子だったが、イグニスは意を決するとコンテナの影から抜け出て、オートマタたちの立つ廃工場の入り口へと向かっていった。


「あの少女は……?」


「魔法動力源反応無し。オートマタのようです」


 イグニスが近づくと、警備のオートマタたちはすぐさま彼がオートマタだと気付いたようだ。しかし、イグニスが無傷であることを不審に思ってか、警戒の様子を崩さない。


 さび付いた鉄骨を抱えた屈強なオートマタがイグニスに尋ねる。


「お前は見慣れないオートマタだな。ここに一体何の用だ?」


「マッキナさんに伝えたい重要な情報があるのです。ここを通してください」


 するとオートマタたちは驚き、一斉に怪訝そうな顔をした。


「重要な情報?それは一体何だ?そんなに差し迫っているのか?」


「はい。私は街に隠れていて、人間のこれからの作戦に関する情報を偶然耳にしました。どうしてもマッキナさんに直接お伝えしたいのです」


 オートマタたちは未だ疑うような表情だったが、イグニスの真剣な目つきを見て信じることにしたようだ。


「……そうか。なら良いだろう。おい!この子をマッキナさんの所に通せ!」


 屈強なオートマタは工場の重々しい扉を開くと、内部に向かって叫んだ。廃工場へ入る口実が何とか通用したようだ。しかしまだ油断してはならない。イグニスは固唾を呑みながら、背中を押されて廃工場内へと足を踏み入れた。


 イグニスは目に飛び込んできた景色に圧倒された。元々放置されていたと思われる機械類は全て壁際に追いやられ、廃工場内は広大な空間となっている。そしてそこには数百人にも及ぶオートマタたちが、武器を手にして中心を囲うように立っていたのだ。


 彼らはイグニスが入ってくるなり、一斉に彼を注視した。イグニスは冷や汗をかくような気分を覚える。これだけのオートマタに一斉攻撃を受ければ、流石のイグニスでも対処するのは困難だ。なるべく穏便に解決しなければならない。


 イグニスが立ちすくんでいたその時である。


「あなたは誰ですか?」


 オートマタの大群の中心から少女の明瞭な声が響いてきた。マッキナの声なのだろうか。流石に声まではテラを再現できていないようだ。


 だが、その声を合図にオートマタたちが道を空けたとき、イグニスは小さな声で思わず呟いていた。


「テラ……?」


 オートマタたちの中心に立つ、一人の少女。ウェーブがかった長い金髪、黄色い瞳、紅色の装束。外見の年齢はイグニスの今の外見より少し年上くらいだ。間違いない。その姿は四大勇者にして大地魔法使い、テラそのものだった。


 ……いや、違う。イグニスは思い直す。目の前の少女はテラではない。マッキナだ。テラを演じさせられることに苦しむオートマタだ。彼女をテラと同一視してはならない。リヴィエルと初めて会ったときのような失敗はもう繰り返さない。そう思いながら、イグニスはオートマタたちの刺すような視線を受けつつ、マッキナへと歩みを進める。


 警戒するような視線を向けながら、マッキナは口を開いた。


「あなたはオートマタのようですけど、何者ですか?ここへ何をしに来たんですか?」


 彼女は体の周囲に6つの金属球を浮かべている。かつてのテラの攻撃方法と同じだ。しかし、丁寧で落ち着いた口調のマッキナにイグニスは違和感を覚える。テラはもっと砕けた明るい口調だった……。いや、今はそんなことを思い出している場合ではない。


「私は……フラムと言います。あなたのことを聞いて、アクアシティからやって来ました。あなたにお願いしたいこと、そして協力していただきたいことがあるのです」


 イグニスはあえてフラムと名乗った。突然イグニスと名乗っても、信じてもらえず攻撃を受けることは分かりきっている。だが、殺気立ったオートマタの一人が叫ぶ。


「お願いだと?ふざけるな!マッキナさんは……」


「やめてください」


 マッキナに手で制され、渋々引き下がるオートマタ。


 気を取り直し、マッキナがイグニスに問う。


「それは……どのようなことですか?」


 イグニスは意を決して言い放った。


「私と、魔王討伐に協力していただきたいのです。そのためには、こんなところで人間と争っている場合ではありません。今すぐ立てこもるのをやめて、私と共に来ていただきたい」


 その発言に、たちまちどよめくオートマタたち。魔王討伐という言葉が飛び出すなど全く予想していなかったに違いない。何人かのオートマタは激昂し、武器を振り上げイグニスに襲いかかろうとする。


「やめてください!静かに!」 


 マッキナが一喝すると、オートマタたちは水を打ったように黙り込む。攻撃しようとしたオートマタは、歯を食い縛りながらイグニスを睨みつけている。


「……なぜ、このような状況で魔王討伐などという言葉を持ち出すんですか?あなたは何者ですか?正気なんですか?」


 マッキナが強い疑念に満ちた声で問う。浮遊する周囲の金属球は攻撃態勢に入ったかのごとく、回転の速度を増していた。イグニスは固く頷く。


「ええ、私は正気ですし本気です。なぜなら……火炎魔法発動。『煉獄掌』!」


 瞬間、イグニスの両手に火炎が迸る。驚愕の声を漏らすオートマタたちをよそに、彼は叫んだ。


「俺は四大勇者、火炎魔法使いのイグニスだからだ!」


 オートマタたちは先ほどを遙かに上回る衝撃を受け、瞬く間に騒然となる。攻撃しようとしていたオートマタも、イグニスの両手を見て立ちすくみ、襲いかかる気力を喪失したようだ。


 真面目な表情でマッキナを見つめ返すイグニス。だがその時、彼の眉間へと金属の槍が高速で飛来し、直前で止まった。マッキナが金属球を変形させて飛ばしたのだ。マッキナは恐れと疑いに満ちた目で問う。


「一体どういうことですか……。あなたは何を言っているんです?」


「俺の体から魔法動力源が探知され、同時に火炎魔法も使えているところを見れば分かるだろう。俺は500年前に魔王軍幹部に敗れて死んだ四大勇者のイグニスだ。そして今はどういうわけかこのオートマタの体に憑依している」


 脳のみが生身であることはここでは言わない。そんなことを口にすれば、たちまち眉間に突きつけられた槍が頭部を貫通するだろう。イグニスだけでなくエストレヤまでお終いだ。


 マッキナは疑いを拭いきれないようだったが、不承不承といった様子で口を開く。


「……そうですか。そうとしか考えられませんし、ひとまず信じてみることにします」


 しかしマッキナの表情は険しいものに変わり、怒りを抑えるような声で言う。


「では、なぜ私の所へ魔王討伐への協力を要請しに来たんですか?……私が四大勇者テラを模したオートマタだからですか?」


 その言葉に、イグニスは息を呑む。やはり、彼女が思い当たるのはそこだ。


「いや、違う。俺は確かに、以前の仲間の子孫を訪ねて回ってはいる。だが、仲間にするのは魔王討伐に見合った実力を持つ者だけだ。あなたがテラを模したオートマタであるかどうかなど、関係ない」


 イグニスはそう伝えたが、それでもマッキナの疑念は晴れないようだ。彼女はイグニスを試すように、その目を見つめ続けている。そして、イグニスも嘘偽りない本心だという思いを込めて見つめ返す。周囲のオートマタたちは固唾を呑んでその様子を見守っている。


 しかしその時、廃工場内の沈黙を破り、入り口から一人のオートマタが駆け込んできた。マッキナや廃工場内のオートマタたちがそちらに視線を向けると、そのオートマタは慌てて叫んだ。


「廃工場の外で、魔法使いの人間を二人発見しました!今応戦しています!そしてその銀髪の少女はそいつらの仲間です!」


 イグニスは歯を食いしばった。穏便に対処できるのはここまでのようだ。マッキナが視線を入り口へ向けている隙に、突きつけられた金属の槍から逃れ、身構える。


 それに気付いたマッキナが怒り、失望、そして悲しみに満ちた目でイグニスを睨みつける。


「やっぱり、あなたも私を破壊しに来たんですね。皆さん、かかりなさい!」

次回、2月13日22時頃投稿予定。

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