旧 第26話 人間、そしてオートマタ
「それにしたって、テラシティは最もオートマタが普及した工業都市だったはずだ。それなのに、なぜ今になってオートマタに対する暴動が起こったんだ?」
第4区画へと繋がる街路を進みながら、リヴィエルがガーディアンのリーダーに問う。リーダーは少しの間考え込んだ後に答えた。
「……我々にもはっきりしたことは分からない。しかし確かなのは、我々はオートマタを受け入れていたとはいえ、同時にオートマタに対する漠然とした不安も抱えていたということだ。オートマタはみんな優秀で、我々の生活を豊かにしてくれる。だが、このままでは我々人間の仕事がなくなり、人間は不要な存在になるのではないかという不安も心の隅にあったのだ。しかし、オートマタにはできず、我々人間しかできないことも存在した。それが魔法だ。オートマタが魔法を使えない限り、人間が無用の存在になることはない。そんな安心感があったからこそ、我々はオートマタを受け入れられていたのかもしれない」
「そこに魔法が使えるオートマタが生み出されてしまったから、人々の不安が爆発したというわけね」
ネージュが言うと、リーダーは頷いた。
「そういうことだろう。その不安は急速に我々の間で伝染し、瞬く間に暴力へと変わった。マッキナが廃工場への立てこもりを始めたこともあって、余計にオートマタへの不信感が募った。そうして、テラシティ全体を巻き込むほどの紛争に発展してしまったんだ。……ああ、我々はなぜ、こんな争いをしていたのだろう。我々はただ、自らの不安や鬱憤を晴らしたいだけだったのか。オートマタと争っても、平穏な生活が失われるだけだというのに……」
話しているうちに冷静な思考に戻ったのか、リーダーは後悔の滲む顔で俯いた。その顔を眺めながら、今度はイグニスが問う。
「しかし、マッキナが立てこもりを始めたのはなぜなのでしょうか。このように、立てこもりは人々をますます暴力へと駆り立てただけだったのでしょう?」
イグニスの問いに、リーダーは顔を上げて答えた。
「魔法技術研究機構は、マッキナの完成を四大勇者テラの再来だと言って持て囃したんだ。ゆくゆくは伝承に残るテラの口調や性格を真似させ、魔王軍の襲撃にも駆り出すつもりだったらしい。しかし、マッキナはそれに反抗した。当然のことだが、マッキナにはテラとは異なる人格が宿っていたんだ。無理矢理テラの役割を演じさせられ、人間たちには自らの完成を拒絶され苦痛だったのかもしれない。……我々人間は、そんな彼女の心情も考慮せずに暴動を続けた。我々は愚かだったよ……」
リーダーの表情は、さっきイグニスたちを襲撃したときとは全く異なっていた。彼は暴徒ではなく、一人のガーディアンとしての表情に戻っていた。
イグニスはリーダーの話を聞き終え、一つの結論にたどり着いた。今マッキナが置かれている状況は……
「まるで僕と一緒じゃないか……」
リヴィエルも同じ事を考えていたようだ。リヴィエルはアクアの子孫として、マッキナはテラを模したオートマタとして、苦しみに苛まれていたのだ。しかも、マッキナは自らの誕生がテラシティの紛争の引き金とまでなってしまった。人々にはその存在を拒絶される。自分のせいで多くの人々が争い、傷ついていく。彼女の苦しみは、言葉では到底言い表せないほどのものであるに違いない。
だからこそマッキナには必要だ。テラを模したオートマタとしてではなく、マッキナ自身として評価してくれる人間が。彼女の誕生を拒絶せず、喜んでくれる人間が。そんな仲間に、自分たちはならなければならない。イグニスはそのような思いを胸に、廃工場へと少しずつ歩みを進めた。
しばらくして街路を抜けると、工場の建ち並ぶ区画へとたどり着いた。リーダーが一同を振り返って言う。
「ここが第4区画だ。ここから先は、本格的にいつマッキナの手下に襲われても不思議ではない。細心の注意を払うことだ」
イグニス、ネージュ、リヴィエルとガーディアンたちは、さっきまでよりも一層真剣な面持ちで頷いた。そして周囲を警戒しながら、また歩き出す。
だが、とある工場の脇を通りかかったその時、物陰から突如声が響き渡った。
「魔法動力源反応無し!あいつらは人間です。即刻排除します!」
イグニスたちが身構えると、道端の魔動車や塀、コンテナなどの影から一斉に人影が現れた。オートマタである。その手や足は半壊して内部機構が露出し、頭部の半分がえぐられている者もいる。皆憎悪に満ちた目をイグニスたちに向け、手には鉄パイプや斧、鎌などの武器を携えている。魔法が使えないため、このような武器でしか戦えないのだ。
「油断するな。奴らはマッキナの大地魔法で強化されている」
リーダーがイグニスたち三人に囁きかける。すると、オートマタの一人がイグニスの方を見て驚いたように言った。
「何、あの銀髪の少女から魔法動力源が探知されている……。なぜオートマタが人間と一緒に?」
するとすかさずネージュが叫ぶ。
「そうよ!この子はオートマタ。私たちには、オートマタに害なすつもりはないの。私たちはマッキナと話し合いに来ただけよ!」
だが、オートマタたちはマッキナと聞いてますます怒りを露わにする。オートマタの一人が叫ぶ。
「マッキナさんと会いたいだって?馬鹿なことを言うな!マッキナさんから、廃工場に近づいた者は排除せよと命令が出ている。必要があれば危害を加えるのもやむを得ないとな!」
「だめだ……全く聞く耳を持っていない……」
リヴィエルが呟くと、パイプを持ったリーダー格のオートマタが怒声を浴びせる。
「聞く耳をを持たないのは人間たちの方だろう!引かないならば武力行使だ!皆の者、かかれ!」
その声を合図に、オートマタたちは一斉にイグニスたちへと襲いかかった。腰に提げた剣を抜き放ち、攻撃に備えるガーディアンたち。
「やるしかないようだ。火炎魔法発動。『煉獄掌』!」
イグニスは唱えると、耐熱性グローブをはめた手に炎をまとわりつかせ、パイプを振り回しながら迫るオートマタへと身構えた。
「貴様、なぜ魔法が使えるのだ!」
驚愕するオートマタに、イグニスは答える。
「私は脳だけをオートマタに移植された人間です。だから私は、人間でもオートマタでもあります」
「くッ、そういうことか。だが思考が人間ならば我々オートマタの敵だ。ここから出て行けぇッ!!」
オートマタが振り回すパイプを、イグニスは受け止める。だがその一撃は予想よりも遙かに重い。マッキナの大地魔法による影響だろうか。
イグニスが怯んだ隙に、オートマタは鉄パイプごとイグニスを宙へと持ち上げてしまった!何という怪力だろう。
「何ッ!!」
だが地面に叩きつけられる前に、イグニスはすかさずパイプから手を離してこれを回避。瞬間、振り下ろされたパイプが衝撃を伴いつつ舗装された地面にめり込む。凄まじい威力だ。
「『虚空旋風刃』!」
パイプを引き抜こうとしたオートマタに、ネージュの放った空気の刃が飛来!
「グワァッ!!」
刃が直撃するが、服を切り裂くだけでその体にほとんどダメージはない。マッキナの大地魔法はオートマタの耐久力をも高めているようだ。
だが、イグニスは態勢を崩したオートマタから鉄パイプを奪うことに成功した。イグニスは鉄パイプに燃え上がる手を当てて二つにへし折ってしまった。
「馬鹿な……だがまだだ!」
すると、オートマタは内部機構の露出した腕を振るいイグニスに殴りかかる。格闘戦を挑もうというのだ。しかし、格闘戦ならばイグニスの得意分野である。振り下ろされた腕を最小限の動きで躱すと、イグニスはオートマタの腹部に拳をたたき込む!
「『灼熱無双打撃』!」
「グワァァァァッ!!!!」
勢いよく吹っ飛び、工場の壁に激突するオートマタ。完全に機能を停止したわけではないが、重篤なダメージを負い起き上がるのに難儀している。だがそれを見届けた後、振り返ったイグニスは目にした。「激流殴打」を放つリヴィエルの背後に、別のオートマタが迫っている!
「リヴィエル、危ない!」
「何ッ!!」
しかし一足遅かった。リヴィエルは背後のオートマタに首を絞められてしまったのだ!リヴィエルは藻掻き、水流魔法を使おうとするが失敗する。「激流殴打」を受けた後に起き上がったオートマタが、鎌を手にリヴィエルへと迫る。どうすればいい?この距離では今から向かっても間に合わない。しかし、「熱殺火球」を放てばリヴィエルも被弾してしまう。
だがその時、イグニスは思い出した。プーロから貰った三つの球状の道具。オートマタやサイボーグに投げつけて使えと言っていたはずだ。イグニスは急いでそれを取り出すと、二つをオートマタへと投げつける!
リヴィエルの首を絞めるオートマタと、鎌を振り上げるオートマタに、球状の道具が直撃して破裂!
「「グワァァァァッ!!!!」」
その瞬間、二人のオートマタは体が痺れたように力を失い、倒れ込んだ。
「リヴィエル、大丈夫か!」
「ああ、助かった。ありがとう」
解放されたリヴィエルの足下で、オートマタは呻いている。どうやら、あの道具は機械の動作を一時的に阻害する機能があったようだ。プーロのおかげで、リヴィエルは命拾いすることができた。そこにネージュが駆け寄る。
「あなたたち、大丈夫?オートマタたちはあらかた倒し終わったみたいだけど……」
見ると、ガーディアンたちは格闘の末、ほとんどのオートマタを組み伏せていた。しかし、痺れから解放されたオートマタが起き上がり、叫ぶ。
「無駄だ!すぐに援軍が来る。貴様らをマッキナさんに近づけるものか!」
見ると、イグニスたちが向かってきた方向から、数十人のオートマタが走ってくるのが見えた。他の区画にいたオートマタたちが集まってきたのだろう。流石に今の戦力であの数を相手するのは不可能だ。
すると、ガーディアンのリーダーが起き上がって言った。
「奴らは我々が何とか食い止める。その隙にあなたたちは廃工場へと向かえ!廃工場はすぐそこだ!」
その言葉に、イグニスたち三人は頷く。
「じゃあ、後は任せたわ。早くマッキナの所へ向かいましょう!」
三人は廃工場へと走り出した。その後方ではガーディアンとオートマタたちの咆哮、そして武器と武器のかち合う音が響き渡る。とにかく今は先を急ぐしかない。マッキナと対話し、人間とオートマタの戦いを終わらせるのだ。




