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旧 第25話 ガーディアン、襲撃

「どこまで行っても酷い有様ね……」


「ああ、本当だな……」


「早くマッキナの所へ向かおう」


 三人は街路を通り、男性から教えられた第四区画の廃工場へと歩みを進めていた。その道中も、先ほどの発着場前と同じような悲惨な光景が広がっていた。道路にはオートマタの残骸や瓦礫などが転がっており、倒れている人以外、市民の気配は感じられない。負傷者や半壊したオートマタを放っておくのは心が痛んだが、あまりにもその数が多すぎてどうしようもなかった。


 三人は念のため周囲に用心しながら進んでいた。イグニスの体はオートマタであり、ネージュとリヴィエルは人間である。人間とオートマタ、どちらの陣営に狙われてもおかしくはない。


 三人が街路を抜け、歯車型のモニュメントが建った広場に出たその時である。


「魔法動力源探知!あの銀髪の少女はオートマタだ!破壊せよ!」


 突然野太い声が響き渡った。その声を合図に、広場の周囲に設置された塀の影から、鎧に身を包んだ人々が十数人現れた。どうやら彼らはガーディアンであるらしい。恐れていたことが起こった。三人はたちまち人間側陣営に包囲されてしまったのだ。三人は背中を合わせて周囲を警戒しながら身構える。


 ネージュが慌てて非難の声を上げる。


「ちょっと待って!私たちはアクアシティから来た旅の者よ!私たちに敵意はないわ!それにこの子は……」


 しかし、リーダーと思しきガーディアンの男性は話を聞こうとしない。


「問答無用!我々から雇用を奪い、失業へと追いやるオートマタ共は破壊するのみ!オートマタを擁護する人間も例外ではない!」


「言っていることが滅茶苦茶だ……。こんな争い、不毛なだけだ」


 リヴィエルが声を漏らすが、周囲のガーディアンたちの耳には届かない。彼らはすぐさま両手に持った筒状武器を三人に向けて構えると、言い放った。


「大地魔法充填完了!『念動投石銃』、撃てェーーーーッ!!!!」


 瞬間、筒状武器からおびただしい数の弾丸が射出される!


「『氷結障壁』!」 


 リヴィエルが咄嗟に叫ぶ。三人の周囲を瞬時に水流が取り囲み、凍結して分厚い氷の障壁を作り出す。迫り来る弾丸は氷に阻まれ、貫通することなく防御される。


「チッ、あいつ魔法使いか!」


 ガーディアンの一人が悔しげに叫ぶ。だが、イグニスたちにも余裕はない。見る間に氷の障壁は穴だらけになっていく。貫通するのは時間の問題だ。


「このままじゃ私たち、蜂の巣よ!」


「分かっている……」


 焦るネージュの声に、リヴィエルは歯を食いしばる。新たに水流を生み出して凍結させ、障壁を補強するが間に合わない。すると、見かねたイグニスが二人に言った。


「ここは俺に任せてくれ」


 二人はイグニスの考えが分からないながらも頷いた。すかさずイグニスは飛び上がり、筒状に形成された障壁の内側を蹴り、上へと向かっていく。そして、最上部に開いた穴から飛び出したイグニスは、驚くガーディアンたちを見回すと、彼らへ掌をかざして唱えた。


「火炎魔法発動。『熱殺火球・散弾』!」


 瞬間、イグニスの体の周囲に小さな火球がいくつも形成され、呆気にとられるガーディアンたちの頭上へと高速で降り注ぐ!


「「「「グワァァァァァァァァッ!!!!」」」」


 回避する間もなく火球が直撃し、大きく態勢を崩すガーディアンたち。そして、銃撃が止んだ瞬間氷の障壁を溶かし、ネージュとリヴィエルが畳みかける!


「『虚空旋風刃』!」


 ネージュが抜き放った刀から空気の刃が発生し、怯んだガーディアンたちの手元にある筒状武器へと飛来して切断!


「『大瀑布激流砲』!」


 リヴィエルが生み出した水流から水の弾丸が射出され、ガーディアンの筒状武器の先端に衝突した瞬間凍結!


 地面に降り立ったイグニス、そしてネージュとリヴィエルは無傷のまま周囲を見渡していた。


「ありがとうフラム、なんとか助かったわ」


「この程度、どうということはない」


 一方、一瞬にして無力化されてしまったガーディアンたちは、驚愕と恐怖に満ちた目で三人を見つめ返していた。


「お、お前たちは一体何者なんだ……。しかも、魔法が使えるオートマタはマッキナだけであるはず。それなのになぜ……」


 リーダーと思しきガーディアンはひたすら困惑の声をもらすばかりである。すると、イグニスが口調を取り繕いつつ答えた。


「私はオートマタの体ではありますが、脳だけを移植されたサイボーグでもあります。だから、私は人間でもオートマタでもあるのです」


「そ、そういうことだったのか……。本当にすまなかった」


 イグニスが人間であることを知り、素直に頭を下げるガーディアンのリーダー。すると、ネージュが怒りを滲ませた表情で言った。


「あなたたち、よくもフラムを危ない目に遭わせてくれたわね!人の話も聞かないで!あなたたち、ガーディアンなんでしょ?他人の命も守らないでこんなくだらない争いをして、恥ずかしいと思わないの?」


「本当にすいません……」


「ごめんなさい……」


 ネージュの怒りの言葉に、次々とすまなそうに頭を下げるガーディアンたち。攻撃してきたとはいえ、腐っても性根は真面目であるようだ。


「それじゃあ、こんな争いは止めて私たちに協力してくれる?私たちは今、マッキナが立てこもってる廃工場に向かってるの。そこまで護衛しつつ連れてってくれるかしら?」


 ネージュが要求すると、ガーディアンのリーダーは血相を変えて首を横に振った。


「マッキナの元へ向かおうだなんて、危険すぎる!あいつは大量のオートマタに大地魔法をかけて統率しているんだ。今まで何人もの仲間が廃工場に乗り込んだが、皆返り討ちに遭っている!」


 リーダーが弱音を吐くと、今度はリヴィエルが口を開いた。


「それならなおさら行かなくてはいけないじゃないか。マッキナと対話しない限り、この戦いは終わらない。あなたたちだって、こんな不毛な憎悪のぶつけ合いを続けたくはないだろう?」


 そう言われ、ガーディアンのリーダーは少しの間逡巡した後、意を決した表情で言った。


「わ、分かった。我々のできる限り、お供しよう。我々の仲間もこの戦いで大勢失われた。これ以上戦い続けることに意味はないのかもしれない……」


「それじゃ決まりね。早速、みんな行きましょう!」


 歩き始めた三人に、ガーディアンたちも続いた。広場を抜けた街路も相変わらずの惨状だったが、恐れることはない。


イグニスは真剣な面持ちで前を見据える。マッキナが立てこもっているのには、何か深い理由があるはずだ。何があっても、マッキナと対話を行いこの戦いを終わらせなければならない。そして、テラの能力を再現しているというマッキナに協力を受けなくてはならない。魔王を倒すことが最大の目的であるのだから、こんなところで争っている場合ではないのだ。そのような決意を胸に、イグニスは足取りを進めるのだった。


 ……その様子を、付近の建物の屋上に立って眺める影があった。影はひとりごちる。


「おや……私の完璧な作戦に水を差す者が現れたようだ。フハハハ!だがそれも面白い。しばらく様子を見ているとしよう」


 影が放った言葉は誰にも聞かれることがなかった。そして、影は徐々に虚空へと溶け込み、やがて姿を消した。

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