旧 第24話 混沌、テラシティ
事情により書き直しを行ったため、こちらの第三章は旧版となります。お手数ですが、目次より新版の第三章にお進みください。旧版をお読みいただいても構いませんが、新版のネタバレを含む上、途中までしか書かれていないのであまりおすすめしません。
「それじゃあイグニスさん、ネージュさん、リヴィエルさん、エストレヤをよろしくお願いします。頑張ってください!」
「ああ、任せてくれ。行ってくる」
翌朝、ソルに見送られて屋敷を出発したイグニス、ネージュ、リヴィエルはテラシティ行きの旅客用連絡飛行艇に乗るため、アクアシティの最外周にある発着場へと向かった。
しかし、イグニスとネージュがイグニスシティを発った時とは打って変わって、発着場には誰一人他の乗客がいない。がらがらの発着場で困惑する三人。
「こんなに他の乗客がいないなんてことある?」
「いや、前にテラシティに接近したときは大勢いたと思うよ」
「何か不穏な予感がするな……」
不安に思ったネージュは、係員を呼び止めて事情を聞くことにした。
「すいませーん。テラシティ行きの飛行艇、どうしてこんなにがらがらなんですか?」
すると係員は困り顔を向けて答えた。
「ああ、今朝入ってきた情報なのですが、実は今テラシティでは紛争が起こっているようなんです。なんでも、新型オートマタの導入に反対する人々と、人間に反抗するオートマタの間で、泥沼の戦闘が続いているとか……」
「そ、そんな……」
驚愕に目を見開く三人。係員は話を続ける。
「少し前まではここにもたくさんの乗客が来ていたんですが、紛争の事情を説明したところ皆さん帰ってしまって……。お三方も、危険ですので今は渡航を控えた方が良いと思いますよ。行っても帰って来られるか分かりませんし……」
しかし、そんなことで引き下がるような三人ではない。ネージュが鬼気迫る表情で言う。
「いいえ、それならなおさら私たちは行きます。もう出発の時間ですよね?」
「え、ええ……。ほ、本当に良いんですか?私は責任とれませんからね?」
戸惑う係員をよそに、三人は飛行艇の入り口へと歩き始めていた。
「オートマタの紛争っていったら、フラムが少し心配ね」
「大丈夫だ。オートマタは魔法が使えないのだろう?」
「そうだね。でも、こんな状況でテラの子孫は見つかるのかな……」
飛行艇に乗り込むとその全てが空席であり、三人の貸し切り状態だった。しかし、これから直面する事態を考えるとくつろいではいられない。三人が険しい面持ちで座席に座り込むと、間もなく飛行艇は出発した。
リヴィエルが口を開く。
「しかし、どうしてテラシティでいまさらオートマタを巡る紛争が?テラシティは先進工業都市で、オートマタの導入率も非常に高いはずだ。人々もオートマタにはすでに馴染んでいるはず」
「さっき係員の人、新型オートマタの反抗って話してたわよね?その新型オートマタが、よっぽど人々の神経を逆なでするようなものだったに違いないわ」
ネージュが自らの考えを口にすると、イグニスも口を開く。
「人間のオートマタに対する不満の爆発が起こるのも、オートマタの反乱が起こるのも頷ける。しかし、これらが同時に起こるとは少し奇妙な話だ」
三人がそれぞれの考えを述べていると、窓の外に巨大な浮遊都市が見えてきた。
「あ、あれ見て!」
「あれがテラシティか」
宙に浮かぶテラシティの外観は、アクアシティとはまた違った趣を持っていた。建造物群は全体的に灰色や銅色で鈍い光沢を放っており、無骨で無機質な印象だった。また、空高く伸びた煙突から黒い煙がたなびいているのも見える。流石は工業都市である。
連絡飛行艇はみるみるうちにテラシティへと接近し、発着場へと到着した。飛行艇から降り、発着場を出て行く三人の後ろで、飛行艇は逃げるように引き返していく。
発着場を出た三人の視界に飛び込んできたのは、思わず目を背けたくなるような街の惨状だった。
「な、何これ……」
「何だこれは……」
「酷すぎる……」
立ち並ぶ店の窓や扉は破壊され、看板は剥がれ落ち、割られた窓には「オートマタを破壊しろ」「オートマタに権利はない」といった文言が大きく落書きされている。街路樹はへし折られるか焼け焦げるかしており、道路には横転した魔動車や破壊されたオートマタの手足などの残骸が転がっている。そして、負傷してうめき声を上げる人々や、上半身だけとなって助けを求めるオートマタなどが至る所に倒れていた。少し前までここでも戦闘が繰り広げられていたようだ。
あまりの光景に三人が言葉を失っていると、左側から男性のか細い声が聞こえてきた。
「ああああ……もうおしまいだあ……私たちがあんなものを作ってしまったばっかりに……」
その言葉に気付いた三人は、声のした方へと急いで向かう。すると発着場付近の物陰に、ボロボロの白衣を纏い、ひびの入った丸眼鏡をかけた男性がうずくまっていた。男性は年配であり、痩せこけた顔は今にも泣き出しそうな様子だった。
「あの、大丈夫ですか?どうなさったんですか?」
ネージュが屈んで男性に話しかけると、男性は涙目で顔を上げた。
「あ、あなたたちは……?」
「私たちはアクアシティから来た通りすがりの者です。一体何があったんですか?教えてください」
ネージュが尋ねると、男性はまたか細い声で説明を始めた。
「話せば長くなります。私は魔法技術研究機構という組織の者で、長年オートマタの研究をして参りました。最も力を入れていたのは、魔法が使えるオートマタ。あなた方、四大勇者のテラはご存じですよね?テラは優秀な勇者だったのですが、魔王に敗れ戦死してしまい、子孫がいなかったのです。だから、私どもは魔法が使えるテラそっくりのオートマタを作り出し、テラを再現しようとしたのです」
その話を聞いて、リヴィエルは納得したように頷く。
「そうか。テラには子孫がいなかったのか。どうりでテラの子孫に関する情報を聞いたことがなかったわけだ」
イグニスはテラのことを思い出す。テラは快活で気丈な少女であった。魔族との戦闘で苦境に陥ったり、広大な森で道に迷い死を覚悟したとき、いつも仲間を励ましてくれたのはテラだった。そんな彼女は戦死し、その子孫はもういない……。イグニスは無意識のうちに悔しさで歯を食いしばっていた。
男性が話を続ける。
「そして最近、テラの能力を再現したオートマタ、『マッキナ』がついに完成いたしました。私どもは歓喜に満ち溢れ、その功績を世間に公表しました。……その結果がこれです。喜んでいただけると思っていた世間の人々は、魔法が使えるオートマタにますます雇用を奪われることを危惧し、暴動を起こし始めました。しかも、マッキナは私どもに反抗し、多数のオートマタを従えて廃工場に立てこもったのです。それが原因でますます人々の暴動は激しさを増しました。あれからもう数日が経ちますが、状況は悪くなる一方。私どもはマッキナを止めようと必死だったのですが、この通り、どうにもなりませんでした」
男性は頭を抱えながら話を終えた。しかし、三人はその話を聞いて決意を固めた。
「分かったわ。じゃあ、私たちが何とかします」
「ひとまず、マッキナに会いに行くとしよう」
「マッキナと話し合えば、この争いは収まるかもしれないね」
三人の真面目な表情を見た男性だったが、たちまち困惑の表情になり首を横に振る。
「そんな!危険ですよ!三人でどうにかなる話ではありません!」
そんな男性の肩にネージュは手を置いて言う。
「大丈夫、私たちはこれでも魔法使いだから。とりあえず、マッキナの居場所を教えてくれないかしら?」
「そ、そうなんですか。分かりました……。しかし、本当に気をつけてくださいね。オートマタはマッキナの大地魔法で強化されていますし、人間側もガーディアンたちが主導していますから」
イグニスは前にネージュから受けた説明を思い出す。ガーディアンはサイボーグやオートマタを嫌っている。そこに魔法が使えるオートマタが生み出されたと聞けば、反抗するのは無理もないことなのかもしれない。
「それではお願いしますよ。どうか、マッキナを止めてください……」
こうして男性からマッキナの立てこもる廃工場の位置を教わった三人は、地獄のような様相を見せる町中へと決断的な足取りで向かっていった。




