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番外編② 再起、そして惨劇

 浮遊都市アクアシティの中央に位置する広大なガーディアン本部の敷地。その一角に、魔族研究棟は存在していた。魔族研究棟は限られた関係者しか立ち入りを許されない最重要機密の一つであり、そこに勤める研究員たちも精鋭ばかりが揃えられていた。


 その日、魔族研究棟の地下の一室に、とある研究チームの面々が揃っていた。水色の防護服に身を包み、囲んでいるのは大きな手術台。その上には、一週間ほど前にガーディアン養成学校を襲撃し、討伐された魔族の検体が寝かされていた。


 冷凍保存から解かれた検体は灰色の体表を持ち、頭部から触手を生やした少女の姿である。検体の喉と腹部には生々しい刺し傷がつき、その目は人形のように閉じられている。検死を行った後に手続きを終え、研究チームによる解剖実験の許可が下りたのである。


 チーフと思われる男性が、上ずった声で話を始める。


「さて、今回の検体はこちら!一週間前にガーディアン養成学校を襲った悪い子です。皆さん見てください、軟体族ですよ!軟体族なんて見たことあります?」


「軟体族といえば、500年前に四大勇者アクアに絶滅寸前に追いやられ、その後人間の前にほとんど姿を現さなかった幻の魔族……」


 研究員の一人が答えると、チーフは満足げに頷く。


「その通り!なんでもこの子は、四大勇者アクアのご子孫、リヴィエルさんの前に復讐だと言って現れ、返り討ちに遭ったようですね!ご覧なさい、刺し傷がある以外は完璧な標本だ!いやー、こんなに綺麗に対処してくださったリヴィエルさんには頭が上がらない!」


 興奮気味なチーフを尻目に、研究員が思わず呟く。


「それにしても……軟体族って結構かわいいんだな」


「アンタ、まさかそういう趣味なの?」


「いや、それは違う」


 研究員たちの無駄口に対し、チーフが怒鳴る。


「こらそこ、うるさいですよ!私はもう待ちきれません。早く解剖を始めますよ。ああ、楽しみだ!軟体族は再生能力が非常に高いそうですからね。未知の臓器が見つかるかもしれませんよ?」


 チーフは研究員からメスを受け取ると、興奮気味な顔を近づけ、検体の腹部に手を伸ばす。そして、その体表にメスを突き立てた。……だがその時!


「……あ?」


 突然、チーフの手の動きが止まった。


「チーフ、どうなさいましたか?」


 異変に気付き、チーフの顔をのぞき込む研究員。すると、チーフの目は最大まで見開かれ、額には大量の汗が浮かんでいた。


 チーフと研究員は、同時に視線を下に向ける。そして、一同は目にした。防護服を貫通し、チーフの腹部に深々と突き刺さる触手の槍を!一瞬の静寂の後、触手は勢いよく引き抜かれた。腹部から血を噴いて倒れ込むチーフ!


「チーフッ!!」


「早く検体を拘束しろ!」


「麻酔を使え!」


 突然襲った異常事態に、研究員たちは恐慌に陥りながらも、マニュアル通り適切な対処を行おうとする。だが彼らにはそのような時間など残されていなかった。彼らの頭上に、背後に次々と波紋が出現し、触手の槍が伸びて串刺しにしていく!


「ふあ~、みんなおはようだにゃ!魔王軍軟体族のなかでも最強と言われた、セピアちゃんだにゃ!」


 セピアは手術台から起き上がると、すでに死体となった研究員たちに向かって笑顔を振りまいた。当然、答える声はない。だが、一人の研究員だけはまだ生きている。いや、生かされているのだ。その首には触手が幾重にも巻き付き、今にも絞め殺そうとしている。


「全く、この程度であたいが死んだと思うなんて、軟体族の生命力と再生能力をなめすぎだにゃ。あたいは仮死状態に入ってただけなのににゃ。おにーさんもそう思わないかにゃ?」


 セピアは研究員を無理矢理眼前へとたぐり寄せ、語りかける。研究員は首に巻き付いた触手を押さえながら震えるばかりであり、彼女の問いかけに答えない。セピアはそんな研究員の耳元に口を近づけると、囁いた。


「おにーさん、さっきあたいのことかわいいって言ってくれたよにゃ?優しいおにーさんなら、ここがどこだか教えてくれるよにゃ?」


 研究員の首元の触手が少し緩むが、代わりにその眉間には触手の槍が突きつけられる。研究員は震え上がりながら必死に答えた。


「こ、ここはガーディアン本部、魔族研究棟の地下室……」


 恐怖に染まった研究員の顔を見ながら、セピアは笑う。


「にゃはははは!!やっぱりおにーさんは優しい人だにゃ。じゃ、もちろん外まで案内してくれるよにゃ?そしたら解放してやるにゃ」


「わ、分かった……」


 この研究員に断るという選択肢など与えられていない。セピアの触手に脅され完全に傀儡となった研究員は、最重要機密の隔壁を次々と開きながら外へと向かう。途中に遭遇した他の研究員や駆けつけたガーディアンは全てセピアが串刺しにしていった。


 そして、関係者用の通路を通り抜け、セピアと研究員は非常用の入り口から外に出た。セピアが満足げに笑いながら、研究員に囁きかけた。


「にゃはは!優しいおにーさん、ありがとうだにゃ!生きることから解放してやるにゃ。ゆっくり眠るといいにゃ」


「え……?」


 研究員が困惑げに声を漏らしたときにはすでに、彼の頭に触手が突き刺さっていた。膝から地面に崩れる研究員。そしてセピアの腹部と喉元は、すでに再生が完了し元通りになっていた。セピアは鋭い歯を覗かせると、獰猛な笑みを浮かべながら言った。


「さて……あの三人、今に見てろにゃ。どんな手を使ってでも、今度こそあたいが嬲り殺しにしてやるにゃ……!!」

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