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第20話 白熱、そして炸裂

 一瞬呆気にとられたリヴィエルだったが、すぐさまその顔は楽しげなものに変わった。


「そうだねフラム、そうこなくっちゃ!!」


 そんなリヴィエルの表情を見たイグニスは、掌の中に火球を生み出しながら駆けだした。そこに、リヴィエルの放つ水の弾丸が次々と襲いかかる!


 しかし、イグニスは軽い身のこなしで飛び退きながら水の弾丸を躱し、リヴィエルへと接近していく。先ほどまでのように、攻撃を防御し続けることはない!


 そして、イグニスは間近に迫ったリヴィエルへと腕を伸ばし、火球を放った。


「『熱殺火球』!!」


 だがそれを黙って見ているリヴィエルではない。高速で迫る火球の軌道を予測しつつ水の弾丸を射出する。リヴィエルの眼前で爆発が起こり、攻撃は相殺された。だが、リヴィエルが次の攻撃に移ろうとしたその時!


「グワァッ!!」


 なんと、爆発を通り抜けもう一つの火球が飛来し、リヴィエルの肩に激突したのだ!さっき相殺したはずの弾丸の予測軌道と全く同じ軌道だった。混乱しつつも、急いで肩に水流を浴びせて消火するリヴィエル。


 観客席でも次々に驚きの声が上がる。


「ええ!?先生は火球を相殺したはずじゃ……一体何が起こったんですか?」


 困惑した様子を見せるプーロの隣で、ネージュはイグニスの攻撃の仕掛けを確かに目にしていた。


「フラムは一つの火球の真後ろに、もう一つ小さな火球を隠していたのよ。リヴィエル先生の方からは前の火球しか見えず、隠された火球に対処できなかったんだわ」


 リヴィエルは火球で大幅に態勢を崩され、肩の消火にも気を取られていた。そこに、イグニスが次の火球を投げつける!


「くッ、間に合わない……。『波状防壁』!」


 リヴィエルに水の弾丸で相殺する余裕はなかった。やむなく水流を正面に移動させ障壁を作り出して身を守る。そこにイグニスの火球が次々と飛来し、相次いで爆発が起こる。その衝撃に耐えるリヴィエル。さっきとは形勢が完全に逆転した。


「まずい。このままでは……」


 眼前にそびえる波の障壁の向こう側では、火球の衝突によって爆発が起こり続けている。その衝撃を肌で感じながら、リヴィエルは険しい表情で思考を巡らせる。爆発のため、障壁の向こうにいるイグニスの姿を確認することはできない。この火球を防御しつつ、向こうにいるイグニスに必ず攻撃を当てられる方法はないか……?


 ひとしきり逡巡した後、リヴィエルは意を決したように唱える。


「この一撃に全てをかける!『大河激流拳』!!」


 その時、リヴィエルの眼前にそびえていた波の障壁が、極大の拳へと変形した!さきほどの「激流殴打」の時とは比較にならないほどの大きさだ。拳は未だ飛来し続ける火球を受けながら、ゆっくりとイグニスに狙いを定める。


 火球を放ちながら、イグニスはリヴィエルの次なる攻撃をいち早く察知した。そして、イグニスもリヴィエルの攻撃に対抗すべく唱えた。


「良いだろう!『熱殺恒星』!!」


 突き出されたイグニスの両手から、これまた巨大な火球が形成された。急成長した火球はまるで小さな太陽のようであり、リヴィエルの生み出した水の拳にも匹敵する大きさだ。


 そして二人は、互いの全身全霊をかけた攻撃を放った!響き渡る二人の咆哮!


「うおおおおおおおおッ!!!!」


「はああああああああッ!!!!」


 巨大な火球と、巨大な水流の拳が激突し、すさまじい衝撃波が闘技場内を襲う!反射的に顔を押さえるネージュ、生徒たち、そして審判!直後、試合場の中心で、周囲の全てを飲み込まんとする大爆発が炸裂した!


 ……しばらくして爆発が晴れ、恐る恐る顔を上げた観客たちは目にした。試合場の外に倒れ込んだリヴィエル、そして試合場の縁に立つイグニスの姿を!


 リヴィエルと同様、試合場の外に倒れた審判が何とか起き上がり、叫んだ。


「勝負あり!この試合、フラムさんの勝利!」


 その瞬間、観客席からは大歓声が響き渡った。応援していたリヴィエルが負けたが、生徒たちにとってそんなことは関係なかった。素晴らしい戦いを見せてくれた二人の勇姿に、彼らは喝采を送ったのだ。


「やっぱり、フラムよね」


「やった!フラムさんが勝った!」


 満足げに頷くネージュと、喜びの声を上げるプーロ。そんな二人の視線の先では、倒れていたリヴィエルがゆっくりと起き上がり、再び試合場の上へと上がっていった。


 試合場の中央で再び向かい合ったイグニスとリヴィエルは、笑顔で握手を交わした。


「やっぱり、フラムには敵わなかったよ。僕の完敗だ。戦ってくれてありがとう」


「いや、俺もあと一歩で敗北するところだった。貴方の力はやはり本物だ。本気で勝負してもらい感謝する」


 互いに実力を認め合った二人は、未だ興奮の冷め切らない観客席へと向き直り、笑顔で手を振った。闘技場は再び大歓声に包まれ、彼らの演習は閉じられたのだった。


 その後、闘技場を出たイグニスとリヴィエルは生徒たちの人だかりに出迎えられた。特にイグニスの方にはたくさんの生徒が詰めかけ、彼は困惑するばかりだった。


「フラムさん、握手してください!」


「サインください!」


「俺と付き合ってくれ!」


 笑顔でかけられる言葉と差し出されるたくさんの手に、イグニスはひたすらあたふたしながら対応した。それを見て笑いながらリヴィエルが言う。


「ははは。フラム、すっかり生徒たちの人気者だね。良かったじゃないか」


「笑ってないで、早く助けてくれ……!」


 生徒たちの波に揉まれ苦しそうにしながら、イグニスは答えたのだった。


 しばらく経って、ようやく人垣を抜け出したイグニスとリヴィエルはネージュと落ち合った。そこにはプーロも一緒だった。二人の姿を見るなり、ネージュとプーロは笑顔で口を開いた。


「いやー、二人とも良かったわね。ま、私はフラムが勝つかなーと思ってたけど」


「フラムさん、おめでとうございます!フラムさんも、リヴィエル先生もすごかったです!」


 目を輝かせながら嬉しそうに答えるプーロに、イグニスは笑顔で答える。


「ありがとう。俺が逆転できたのは、君の応援が聞こえてきたからだ。俺が勝てたのは君のおかげだ」


「そ、そんな……そんなことないですよ!」


 プーロはそう言い、照れくさそうに顔を綻ばせた。すると、プーロはふと思い出したようにポケットから何かを取り出した。


「そういえば、フラムさんに渡したいものがあるんです」


「何だ?」


 イグニスはプーロから差し出された布袋を受け取った。中にはどうやら小さな球状の道具が三つ入っているようだ。


「それは僕のおじいちゃんがくれたお守りです。サイボーグやオートマタに襲われたときに投げて使えって、おじいちゃんが言ってました。フラムさんって、いろんな悪い人と戦っているんですよね?僕が持っているよりも役に立つんじゃないかと思って……」


 それを聞いたイグニスが笑顔で頷く。


「なるほど。確かに役に立ちそうだ。こんなに大事なものをありがとう」


 しかし、ネージュは怪訝そうな表情だ。


「でも、フラムだってオートマタだし、私もサイボーグよ。……なんか失礼じゃない?」


 すると、プーロは慌てて首を振りながら頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!そういうつもりじゃないんです。本当はお花とかをあげれば良かったのかもしれないけれど……」


 彼の様子に、リヴィエルがネージュをたしなめた。


「まあまあ、プーロもこう言ってるんだから。こういう実用的なものを渡すあたり、プーロらしいよ」


 イグニスも頷く。


「ああ、君の気持ちは確かに受け取った。とりあえずは……ネージュにでも投げつけるとしよう」


「ちょっと、それどういう意味よ!」


 イグニスの冗談にネージュが怒りの声を上げると、一同は盛大な笑い声に包まれた。

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