番外編① 魔王軍、再来
「き、貴様は……!」
「そんな、あなたは死んだはずじゃ……」
ネージュとイグニスは驚愕のあまり目を見開いた。昼間に倒したはずのセピアが、彼らの眼前に立っているではないか。
セピアは驚く二人の様子を見て高笑いを上げる。
「にゃはははははははは!!!!昼間はよくもやってくれたにゃ。あたいはおまえらに復讐しに来たんだにゃ!」
ネージュとイグニスは身構える。どういう理由かは分からないが、セピアが復活した以上は再び倒さなければならない。ネージュは腰に提げた刀を抜き、イグニスは耐熱性グローブを手にはめる。
そしてすぐさまイグニスは飛び上がった。火炎をまとう拳を振り上げ、セピアに襲いかかる!
「『灼熱無双打撃』!」
だが、セピアはそれを見て余裕の笑みを浮かべている。
「にゃははは!『波紋転移』!」
「フラム、危ない!」
ネージュが警告の声を発するが、遅かった。瞬間、イグニスの周囲に波紋が浮かび上がり、勢いよく触手が飛び出す。ネージュはイグニスの体が触手に貫かれるものと思い、反射的に目をそらした。
しかし、そうではなかった。波紋から突き出た触手はイグニスの手足にまとわりつき、見る間に絡め取ってしまったのだ!
「何ッ!!」
イグニスは触手から逃れようと体をよじらせるが、無意味であった。セピアはそのままイグニスを自らの眼前まで引き寄せると、イグニスの顔をのぞき込んだ。
「おまえ、よく見たら結構かわいい顔してるにゃ。よし!おまえをこれからあたいのペットにするにゃ!」
「な、何を……」
セピアは笑いながら触手でイグニスの頭を撫でている。
「ふ、ふざけんじゃないわよ!フラムを離しなさい!『飛翔突風斬』!」
ネージュが怒声を浴びせながらセピアに斬りかかるが、波紋から飛び出した触手の槍に阻まれてしまう。
「おばさんは下がってろにゃ!……よしよし、今からおまえを従順にしてやるにゃ」
セピアは身動きのとれないイグニスにばかり目を向けている。ネージュは次々に現れる触手の槍を回避するので精一杯だ。その隙に、セピアは自らの触手をイグニスの口の中に押し込んでいくではないか!
「や、止めろ!そんなことをしたら……壊れてしまう……」
「よしよし、大人しくなるんだにゃ」
悶えながら触手を呑まされるイグニスと、それを満面の笑みで眺めるセピア。身の毛もよだつような恐ろしい光景である。だが、触手を回避しながらもネージュはその光景に見入ってしまった。
「触手人外幼女とそれに絡め取られる少女……。な、なんて素敵なの……じゅるり」
だが彼女は慌てて首を横に振る。見入っている場合ではない!イグニスを助けに行かなければ!
ネージュは刀の一閃で触手をなぎ払うと、セピアに絡みつかれているイグニスの方へ駆けた。
「フラム、今助けるわ!」
「にゃはははは!!無駄にゃ!すでにこいつはあたいのものだにゃ!」
高笑いするセピアを睨みつけたネージュは、触手を咥えさせられ苦しげなイグニスに向かって叫ぶ。
「フラム!お姉ちゃんと、この触手女のどっちの方が大事なの!」
苦しそうな表情のまま、イグニスはネージュへと視線を向けて答えた。
「……お、お姉ちゃん」
イグニスの声を聞いた瞬間、ネージュは自らの心臓が弾けるような感覚を覚えた。
「ああ……もう死んでも良いかも……」
ネージュの口角が限界まで吊り上がる。彼女はこの上ない至福を味わった。その時、後方から突然不気味な笑い声が響いてきた。三人がそちらに視線を向ける。
なんと、そこに立っていたのはホマルスだった。彼は以前のように、大仰な身振りで話し始めた。
「アッハハハハ!!どうも皆さん、お久しぶりです。魔王軍甲殻族の長、ホマルスです」
ネージュとセピアが同時に叫ぶ。
「どうしてあなたがここにいるのよ!?」
「なんでおまえがここにいるにゃ!?」
すると、ホマルスは笑いながら答える。
「いやあ、ワタクシもね、気付いてしまったのですよ。その銀髪のお嬢様の素晴らしい魅力にね!さあセピアさん、そのお嬢様をワタクシに寄越しグワァァァァァァァァッ!!!!」
「あなたは下がってなさい!!」
「おまえは黙ってろにゃあッ!!」
ネージュとセピアの同時攻撃を受け、ホマルスは一瞬にして吹っ飛んでいった。気を取り直し、ネージュとセピアはイグニスの取り合いを再開する。
「フラムを離しなさい!この触手女!」
「嫌だにゃ!おばさんの方こそ諦めるにゃ!」
「お、俺を巡って争うんじゃない……」
触手を咥えさせられたまま、イグニスはひたすら迷惑そうな表情である。しかし、ネージュとセピアは全く意に介さず争いを続ける。
「こいつはあたいのものだにゃああああああああッ!!!!」
「ふざけるな!!フラムを離せええええええええッ!!!!」
……そこでネージュははっと目を覚ました。まだ真夜中であり、辺りは真っ暗な静寂だ。
「なんだかとっても業の深い夢を見てしまった気がするわ……」
ネージュが呟きながら横を見ると、イグニスが気持ちよさそうに眠っていた。オートマタなので寝息は聞こえない。ネージュはイグニスの顔をしばらくの間見つめていた。
「ああ……あなたが本当に私の妹だったらいいのにな……」
そう言ってネージュはイグニスを抱きしめ、目を閉じた。イグニスは全く気付かないまま眠り続けている。もう一度眠れば夢の続きが見られるのではないかと思ったが、ネージュは結局熟睡してしまい、朝まで再び夢を見ることはなかった。
お読みいただきありがとうございます。せっかくの番外編なので、現時点で登場している人物の名前や元ネタなどを解説したいと思います。興味のない方は飛ばしていただいて構いません。
四大勇者
古代ヨーロッパの「四元素説」がモチーフ。四元素とは火(ignis)、水(aqua)、土(terra)、風(aer)のことで、四大勇者の名前はここから取られている。いずれもラテン語。
ネージュ
フランス語で「雪」を表すneigeより。
ホマルス
ラテン語で「ロブスター属」を表すhomarusより。外見の元ネタはバ◯リズムが昔TVで披露していたネタ「罵倒戦隊ノノシレンダー」に登場する「カニ男爵」。別にバ◯リズムが好きなわけではないが、妙に印象に残っていた。
アロガンティア
ラテン語で「傲慢」を表すarogantiaより。
アンテレ
フランス語で「興味」を表すintérêtより。
オーロ(貨幣単位)
イタリア語で「金」を表すoroより。
アルティジャーノ
イタリア語で「職人」を表すartigianoより。
リヴィエル
フランス語で「川」を表すrivièreより。
セピア
ラテン語で「イカ・イカ墨」を表すsepiaより。「セピア色」という言葉もここからきているらしい。
プーロ
イタリア語で「純粋」を表すpuroより。
命名規則
四大勇者と魔族の名前はラテン語から、それ以外はロマンス語(フランス語やイタリア語など、ラテン語の子孫にあたる言語)から取られている。なお、実際のラテン語とロマンス語には2000年近い開きがある。
以上になります。引き続き「少女は勇者でオートマタ(以下略」をお楽しみください。




