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第16話 リヴィエル、参戦

 その後、リヴィエルは広場で起こった事件の顛末を学校側に報告した。彼はイグニスとネージュについても伝えようとしたが、二人が頑なに首を横に振ったので、魔族討伐は彼一人の手柄ということになった。


 あの場に居合わせた生徒たちについては、彼らの精神的負担を考慮し、今日の授業は全て休講しても良いという旨が通達された。ただし、他の生徒を不安にさせないため、事件の詳細について口外しないよう念押しされた。


 リヴィエルも午後からの業務を休み、イグニスとネージュを屋敷に招いていた。


 イグニスとネージュは屋敷に足を踏み入れるなり、その内装の豪華さに思わず息を呑んだ。玄関ホール、廊下、通された客室、全てが巨大であり、白く美しい石材の敷き詰められた床や壁に囲まれた空間はまるでこの世の光景ではないかのようだった。養成学校を見学したときも驚いたが、リヴィエルの屋敷はそれをもはるかに上回っていた。


 客室で極めて座り心地の良い椅子に座ったイグニスとネージュは、これまでイグニスの身に起こったこととリヴィエルへの要件を全て説明した。500年前に魔王軍幹部と相打ちになって死んだこと、突然少女型オートマタの姿で目覚めたこと、魔王を倒すため四大勇者の子孫を探していることなど……。リヴィエルは終始驚きの表情で話を聞いていたが、先ほどまでのように頭ごなしに否定することはなかった。


 一通り話を聞いたリヴィエルは、未だ夢の中にいるような表情で口を開いた。


「……なるほど。にわかには信じがたいが、四大勇者や魔王、それからアクアについて僕が知っている情報とも食い違いはないな。あなたが本当に四大勇者のイグニスだと、認めざるをえないだろう」


「信じていただき感謝する。このような理由で、俺は人々の混乱を防ぐためにその……フラムという偽名を用いているのだ」


 イグニスは、彼の名前についてのリヴィエルの混乱を踏まえてそう言った。フラムという名前を口にするのは未だ躊躇いがちである。


「私が付けた名前なのよ。良い名前だと思わない?」


 差し出された茶菓子を遠慮なく頬張りながらネージュは言った。リヴィエルは微笑する。


「そうだね。今やっと、わけを理解したよ。ところで、僕はどっちの名前で呼べば良いだろう?」


 リヴィエルが尋ねると、イグニスは恥ずかしさに慌てながら答える。


「ああ、普段はイグニスでいい。人前でのみ、……フラムと呼ぶのを許そう」


「あら、じゃあ私がいつもフラムって呼んでるのは構わないの?私は特別ってこと?」


「そ、そういうことではない!」


 二人のやりとりを見て、自然と笑顔に溢れるリヴィエル。だが、彼はすぐに深刻な表情へと戻ってしまった。


「……しかし、僕にアクアの代わりが果たせるだろうか。魔王に敗れたとはいえ、アクアが四大勇者だったことに変わりはない」


「心配は要らない。先ほどの戦闘で、貴方の実力は証明されているだろう。それに、貴方はガーディアン養成学校の教官まで勤めているではないか」


 不安げな様子のリヴィエルにイグニスがそう返すと、リヴィエルは首を横に振った。


「……僕がガーディアン養成学校に勤めているのは、世間の目が怖いからなんだ。この屋敷を見れば分かるとおり、アクアのおかげで僕は大富豪だ。本当なら働かなくても生きていける。でも、人々は言うじゃないか。僕のことをただの先祖の七光だって。だから、僕がただ先祖の力に甘えているわけじゃないっていうことを示すために、幼い頃から鍛錬して、養成学校の教官になった。ただそれだけのことなんだ……」


 そう言ってリヴィエルは悔しそうに俯いた。そんな彼にネージュが声をかける。


「でも、それは立派なことじゃない。肩書きだけじゃなくて、実力が伴ってるんだもの」


「……いいや、それでも世間の目は厳しいよ。僕が教官になったことですら、アクアの子孫であるおかげだと思っている人が山ほどいる。ああ……僕がアクアの子孫でなかったら、もっと僕自身のことを評価してもらえたのに。でもそうでなければ、あなたたちが訪ねてくることもなかったんだ……」


 リヴィエルの苦しそうな姿に、イグニスはアクアの姿を重ね合わせた。イグニスは口を開いた。


「苦しんでいるのは貴方だけではない。貴方の先祖であるアクアも、貴方と同じだった」


「え……?」


 リヴィエルは驚いて顔を上げた。イグニスは続ける。


「アクアは貴族の名門の生まれだった。彼女の実力は本物だったが、人々からは家柄のおかげで四大勇者になれたのではないかと陰口され、いつも苦しんでいた。彼女も貴方と同じことを言っていた。貴族の生まれでなければ、もっと自分自身のことを評価してもらえたのに、と」


「そんな……」


 リヴィエルは言葉を失っている。アクアについてのこの話は初耳だったようだ。


「だが、そんな彼女は俺や他の四大勇者の仲間たちにこう言ってくれた。『あなたたちは私自身を見てくれている。だから自分が貴族の出身であることも忘れることができる』とな。……俺はさっき、貴方を仲間にしようと必死で、この言葉を忘れていた。そのことは本当にすまないと思っている。約束しよう。俺とネージュはもう貴方をアクアと結びつけて考えることはない。貴方の実力は本物だからだ。あれほどまでに強大な共鳴魔法を使える者など、そうそういない。貴方がアクアの子孫でなかろうが、あれを見れば俺は貴方に協力を頼んだだろう。だからどうか、自信を持って俺たちの仲間に加わってはくれないだろうか」


 イグニスの真剣な眼差しを見て、リヴィエルは顔を綻ばせる。


「イグニス……ありがとう。分かった。僕はあなたたちの魔王討伐に協力しよう」


 そう言うと、リヴィエルは手を差し出した。イグニスが頷いてその手を握り返し、二人は固い握手を交わした。ここに、彼らの協力関係が構築されたのだった。


「ところでイグニス、一つお願いしたいことがある。僕は養成学校の教官だが、あなたは本物の四大勇者だ。僕の力がどの程度通用するのか確かめたい。後日、お手合わせをしてはもらえないだろうか」


「ああ、もちろん良いだろう。こんな体ではあるが、全力で相手をしよう」


 リヴィエルの申し出を、イグニスはすかさず承諾した。


「そうね、良いんじゃない?次の浮遊都市の接近までにはまだまだ時間があるし。……と、その前にフラムの体を修理しないとね」


 ネージュが頷いてそう言いながら、イグニスの包帯だらけの体を見やった。


「わ、忘れていた……」


 イグニスが照れくさそうに自分の体を見下ろすと、リヴィエルは笑いながら言った。


「ははは、そうだね。すぐに知り合いの機械工を呼ぼう」

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