第14話 卑劣、そして姑息
「僕の……せいなのか?僕が四大勇者アクアの子孫だから、皆がこんな危険な目に……?」
リヴィエルはやり場のない怒りをまき散らすように叫ぶ。
「どうしてなんだ!!四大勇者アクア、どうしてあなたは僕に不幸しかもたらさないんだ!!」
その姿にイグニスは心を痛める。アクアにも、リヴィエルにも、何ら罪はないのだ。アクアは四大勇者として、リヴィエルは養成学校の教官として、それぞれの責務を果たしているだけだ。それなのに、なぜ彼らはこんなにも苦しまなければならない?
リヴィエルの姿を見て、セピアは嘲笑う。
「にゃはははは!!おまえはこれから死ぬ運命なんだにゃ。冥土に行ってからご先祖様に散々文句を言えばいいにゃ!さあ、さっさとかかってこいだにゃ!」
リヴィエルはセピアと向かい合って彼女を睨みつける。するとその時だ。
「先生、頑張れ!」
「あんな奴に負けるな!」
「リヴィエル先生、腕の見せ所ですぞ!」
周囲で見守っていた職員と生徒たちが、リヴィエルに次々と声援を送ったのだ。リヴィエルは驚いたように周囲を見渡す。セピアが呆れたようにため息をつく。
「全く、うるさい奴らだにゃあ。ま、あんなのいてもいなくてもおんなじにゃ」
だが、リヴィエルは生徒たちの声に励まされ、決意を固めたようだ。
「そうだ……。僕は、ガーディアン養成学校の教官なんだ。大事な生徒たちを、一人も傷つけさせるものか!」
リヴィエルは身構えると、右腕を伸ばして唱える。
「水流魔法発動。『氷結剣』……!」
リヴィエルの腕から生み出された水が瞬く間に剣の形状となり、凍結して彼の手に収まった。彼は氷の剣を構えると、セピアめがけて飛びかかる!
「『流氷斬』!」
しかし、彼が到達する前にセピアは唱えていた。
「『波紋転移』だにゃ!」
瞬間、リヴィエルの周囲に複数の波紋が出現する。そして、そこから槍のように硬化したセピアの触手が突き出し襲いかかる!リヴィエルはすぐさま危険を感じ取った。
「『流氷回転斬』!!」
リヴィエルは瞬時に態勢を切り替え空中を高速で回転しながら、迫り来る触手の槍を切断!細切れになって硬化を解かれた触手が、青い血液を噴出しながら飛び散る。
「にゃはは!流石はアクアの子孫にゃ。一筋縄ではいかないようだにゃ」
セピアが体の周囲の波紋から触手を抜き取る。その先端はリヴィエルに切断されていたが、みるみるうちに再生していった。彼女の触手は再生能力が非常に高いようだ。彼女は痛がる様子も見せない。
「ネージュ、俺たちも行くぞ」
「ええ、やってやるわ」
リヴィエルの攻撃終了後、イグニスとネージュも飛び上がり、触手を再生し終わったばかりのセピアへと迫る。
「『灼熱無双打撃』!」
「『飛翔突風斬』!」
「無駄にゃ!『波紋転移』!」
先ほどのリヴィエルと同じように、イグニスとネージュの周囲にも波紋が出現する。二人はやむなく攻撃を中断し、イグニスは手刀、ネージュは両手の刀で出現した触手を切断していく。
続いてリヴィエルも再びセピアに斬りかかるが、またしても同様の結果だ。周囲に出現する触手に阻まれ、セピアに接近することができない。
「くッ、これでは埒があかないわね……」
「ネージュ、頭上だ!」
ネージュの頭上に出現した触手を、イグニスが危ういところで切断する。次は足下、その次は正面、今度は背後だ。次々と現れる触手を高速で切断していく三人は、まるで踊りを踊っているかのようだ。
「にゃはははは!!踊れ踊れ!一体いつまで体力が持つかにゃ?」
イグニスは触手を切断しながら歯を食いしばる。確かにセピアの言うとおり、この状態は壮絶な持久戦だ。一瞬でも反応速度が鈍れば、瞬く間に触手の槍に貫かれるだろう。彼らは徐々に不利な状況へと追い込まれている。
だが、セピア自身は触手を波紋に突っ込んでおり、体の防御が手薄な状態だ。近づくことさえできれば簡単に攻撃を加えられそうだが、今の状態では無理だろう。かといって遠隔攻撃を行えば、先ほどのリヴィエルの氷柱のように、生徒の方へ転移させられる可能性が高い。何とかしてこの苦境を打開する方法はないのか……?
イグニスが思案していたその時であった。彼はセピアに人影が迫っているのを目にしたのだ。
「くらえ!『激流殴打』!」
先ほどイグニスが助けた少年だ!三人の苦戦を見かねてか、セピアの隙をついて襲いかかったのだ。
だが彼の動きは未熟であり、隙をつくには遅すぎた。
「甘いにゃ!!」
少年の周囲に波紋が出現する。だが、彼の実力では到底回避できるはずもない!
「くッ、危ないッ!!」
イグニスは周囲の触手をなぎ払うと、再び一直線に少年へと駆けた。そして、すんでのところで少年を突き飛ばす。次の瞬間、イグニスの両手両足、そして脇腹に触手の槍が突き刺さる!
「グワァァァァッ!!!!」
突き飛ばされた少年、ネージュ、リヴィエル、生徒たち、職員が呆然とその姿を見上げた。セピアが高笑いを上げる。
「にゃはははははははは!!!!……にゃ?こいつ、血が出てないにゃ。もしかして、全身機械かにゃ?」
「もしや、サイボーグ……?それともオートマタ……?」
驚くセピアやリヴィエルたちをよそに、ネージュはすでに飛び上がっていた。イグニスの体に気を取られたセピアめがけて迫る!
「よくもフラムをぉッ!!『虚空旋風刃』!!」
ネージュはすさまじい憤怒の形相で刀を振り回し、空気の刃を生み出す。セピアはそれに気付いたが、もう避けられない!
「にゃああああああああッ!!!!」
空気の刃はセピアの体を切り裂く!そして、波紋に突っ込まれていた触手が切断され、イグニスは解放される。
「だ、大丈夫ですか……」
「ああ、心配するな」
助けられた少年は半泣きになりながらイグニスを見上げた。イグニスは体に突き刺さった触手を引き抜きながら答える。体の動作にとりあえず問題はなさそうだった。
体を切りつけられて倒れ込んだセピアはすぐさま起き上がろうとした。だが、その眼前に氷の剣の切っ先が突きつけられていることに気付く。
「もう終わりだ。覚悟しろ」
リヴィエルが、冷たい眼差しでセピアを見下ろしていた。セピアは悔しげに彼を睨み返す。しかし、すぐにその顔は不敵な笑みへと変わった。
「それはどうかにゃ?」
リヴィエルの顔が戦慄したその時であった。周囲の生徒たちと職員の頭上に一斉に波紋が出現し、触手の槍が勢いよく突き出して頭上で止まったのだ!絶叫する生徒たちと職員!
「き、貴様……!」
驚愕し憤慨するリヴィエルの表情を見て、セピアは勝ち誇ったような笑い声を上げた。
「にゃはははははははは!!!!こいつら全員、人質だにゃあッ!!!!」




