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第13話 魔王軍、強襲

 魔王討伐への協力を取り付けたいイグニス。頑なに彼を拒絶するリヴィエル。リヴィエルはイグニスを怒りの滲む目で睨みつけ、一触即発の状態であった。彼の様子に、イグニスもネージュも、それ以上かける言葉が見つからない。職員は何が何だか分からないといった様子で終始おろおろしていた。


 するとその時であった。


「ねえ、あれ見て!」


 生徒の一人が何かに気付いたかのように頭上を見上げ、空を指差しながら叫んだ。その声に、イグニスやネージュ、リヴィエル、職員、他の生徒たちも空を見上げる。


「何だあれは?」


「こっちに近づいてくるぞ!」


 生徒たちが口々に叫ぶ。それはたくさんの触手が絡みついたような形状をした不気味な影だった。影は徐々に大きくなる。落下してきているのだ!


 リヴィエルは危険を察知し、怒りを忘れて生徒たちに向かって叫んだ。


「みんな危ない!広がって避けろ!」


 その声に生徒たちは急いで散開する。イグニスとネージュも影の落下予測地点から飛び退き、緊迫した面持ちで上を見守る。ネージュは腰に提げた刀の柄に手をかける。イグニスはポケットからヘアゴムを取り出し、慣れない手つきで長い銀髪を後頭部で結った。万一の戦闘に備え、髪が邪魔にならないようにするためだ。


「あらフラム、その髪型も似合ってるわ」


「いいから今は上を見ていろ!」


 イグニスはネージュに注意を促すと、続いて耐熱性グローブを手にはめる。


 影はいよいよ接近してきた。そしてついに、高速で広場へと激突した!すさまじい土煙が舞い上がり、一同は思わず腕で目を覆う。


 土煙が晴れたとき、そこに立っていたのは、頭部から髪の代わりに無数の長い触手を生やした幼い少女だった。体表は灰色で、蛇のような赤い目を持ち、本来あるべき所に腕はない。おさげ髪のような部分の触手が際だって長く、先端が三つに分かれて腕の代わりの機能を果たしているらしい。


 彼女は呆然とする周囲の人々を見渡すと、サメのような鋭い歯を覗かせて笑いながら名乗った。


「にゃはは、どもども!魔王軍軟体族のなかでも最強と言われた、セピアちゃんだにゃ!」


 その姿に、生徒たちは騒然とし始める。


「なんだあの子……」


「魔王軍?魔族なのか?」


「かわいい……」


 彼らはまだガーディアンの見習いであり、本物の魔族を見たことがないのだ。


「触手人外の幼女ね。良いじゃない……」


「おい!油断するな!」


 すかさず注意するイグニスだったが、セピアと名乗った魔族の姿に、ネージュの口角は吊り上がっていた。


 リヴィエルが警戒した様子で身構え、険しい声で問う。


「貴様、一体何をしに来たんだ!」


 その声に反応し、セピアは振り返って答えた。


「にゃはは!おまえは四大勇者アクアの子孫、リヴィエルだよにゃ?あたいは今日、おまえをぶっ殺しに来たんだにゃ!」


「な……!?」


 セピアの返答に、リヴィエルは絶句する。セピアは構わず続ける。


「500年前、あたいら軟体族は、四大勇者アクアに絶滅寸前まで追い込まれたんだにゃ。その後、アクアは魔王に負けて、逃げ帰っていったんだそうだけどにゃ。にゃはは!いい気味にゃ!魔王様の庇護で、あたいらは今では何とか復活できたけど、ずっと弱体化してたからアクアの子孫に復讐できた者はいなかったんだにゃ。そんなわけで、現在最強と言われているあたいが、直々に恨みを晴らしに来たんだにゃ」


 イグニスは500年前の記憶を思い出す。恐らくセピアが言っているのは、軟体族に占拠された島にアクアが単独で乗り込んだときのことだろう。彼女は特大の水流魔法を放ち、島の軟体族を一掃したのだ。


 なぜ500年前の恨みを今……?と、人間ならば思うだろう。しかし、魔族の寿命は人間と比べて桁違いに長いのだ。魔族が500年前の屈辱を昨日のことのように覚えていても、無理はないのである。


 セピアの話を聞き終わったリヴィエルは俯いて歯を食いしばり、拳を固く握りしめていた。彼は呻く。


「どいつもこいつも、四大勇者アクア四大勇者アクアって、そればかりじゃないか……。僕はアクアなんかとは違う!僕をアクアと、同一視するなあッ!!」


 リヴィエルは激昂して叫んだ。先ほどはイグニスから、今回はセピアからアクアに言及され、彼の怒りは我慢の限界だったのだ。取り乱した彼の姿に、周囲の生徒たちは不安そうな表情を向ける。その様子を見て、セピアはへらへらと笑っている。


「にゃはははは!!そう言うんだったら、アクアを越える実力を見せてみろにゃ!」


「ああ、良いだろう。水流魔法発動。『氷柱刺突』!!」


 リヴィエルが唱えると、彼の腕から水流が巻き起こり、槍の形状へと変わった。そしてそれは一瞬にして凍結し、セピアめがけて一直線に迫る!


 だがセピアは全く焦る様子を見せない。彼女は笑いながらこのように唱える。


「水流魔法発動。『波紋転移』だにゃ!」


 すると奇妙なことが起こった。セピアの正面の空間が水の波紋のように揺れ動き、リヴィエルの放った氷柱はその波紋に吸い込まれて消滅したのだ。


「何ッ……」


 だがこれで終わりではなかった。イグニスがすぐに異変を感じ取る。周囲で見守る生徒の一人の頭上に波紋が出現し、そこから氷柱の先端が姿を現したではないか!先ほど、「激流殴打」の実技練習をしていた生徒だ!


「危ないッ!!」 


 イグニスは瞬時に飛び上がった。


「火炎魔法発動。『灼熱手刀斬撃』!!」


 間一髪!少年の頭に突き刺さる寸前、イグニスの燃え上がる手刀が氷柱を粉砕した。悲鳴を上げる生徒たちに氷の破片が降り注ぐが、幸い怪我はない。


「君、火炎魔法が使えるのか……?」


 炎をまとうイグニスの両手を見て、リヴィエルが驚いたように呟く。すると、セピアがイグニスとネージュを見て言った。


「ありゃ、失敗かにゃ。……にゃ?よく見たらその銀髪の子、それからあっちの黒髪おばさん、甲殻族の奴らが言ってた奴かにゃ?奴らの適当な言い訳だと思ってたけど、本当だったんだにゃ。ちょうど良い、まとめてぶっ殺してやるにゃ!」


「誰がおばさんよ!」


 ネージュが憤るが、セピアはまるで意に介していない。イグニスは着地しセピアに向き直る。幼い見た目に油断してはならない。リヴィエルが飛ばした氷柱を転移させて防御するだけでなく、攻撃にも転用したのだ。思っていた以上に凶悪な相手だ。


 リヴィエルはセピアに向かって怒りに満ちた声を上げる。


「卑劣な!貴様の狙いは僕なんだろう?未熟な生徒たちを襲うなど……!」


 それを聞いたセピアは盛大な笑い声を上げた。


「にゃはははははははは!!!!そんなこと関係ないにゃ。こんなどうでもいい奴ら、いくら死のうが知ったことじゃないにゃ!にゃはははははははは!!!!」


 生徒たちが顔面蒼白となり、泣き出す者も現れる。リヴィエルが憤怒に歯を食いしばる。


「生徒の皆さん、お逃げなさい!とにかくお逃げなさい!」


 職員が今にも泣き出しそうな顔で退避を促す。彼は魔法が使えないようだ。彼の声に弾かれたように駆け出す生徒たち。しかし……


「何だこれ!」


「で、出られない……!?」


 彼らは気付いた。この広場の周囲がいつの間にか水の膜のようなものに覆われており、周囲の風景がまるで水中のように霞んでいる。彼らはその障壁に阻まれ、外界と隔絶されてしまっているのだ!


 その様子にセピアは高笑いを上げ、言い放った。


「にゃははは!!今更気付いてももう遅い!『水膜結界』だにゃ!今からおまえらには、リヴィエルが嬲り殺しにされるのをたっぷりと見ていてもらうにゃ……!!」

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