『G4』の正体
「クダラナイ自己紹介トヤラハ済ンダカ?……ナラバ、今度コソサッサト死ネェェェェェェェェェェッ!!」
この戦場と化した”タピオカ女学園”に颯爽と現れたイケてる男子4人組、『G4』。
オークの部隊長の号令の下、そんな彼らのもとに一気にオークの軍勢が押し寄せていく――!!
『ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
オーク達の勢いと気迫を前に、この残ったタピオカ女学園の女生徒達が短く悲鳴を上げる。
だが、『G4』の面々はこのような事態など何の脅威でもないと言わんばかりに、自身に満ちた表情とともに迫りくるオークの軍勢を見据えていた。
賢そうに眼鏡をクイッ!と上げながら鬼龍院 冬彦が、『G4』の中心的人物にして赤髪が特徴的な青年:犬神 秋男へと語り掛ける。
「どうやらオーク達は、待ちきれないと言わんばかりに僕達をご指名のようだ……秋男、任せたぞ」
冬彦の言葉に続いて、同じ『G4』仲間である弩Qや黒人留学生のボブも自分なりの激励を秋男へと送る。
「へっ!俺より先にド派手にかまそうっていうのは少しばかり気に入らねぇが……こうなったら、あのドデカチャーシュー共に、出会い頭の盛大な湯切りを喰らわせてやれッ!!」
「Fuckin'JAP!!」
仲間達の熱い声援を受けながら、秋男が「応ッ!!」と力強く頷きを返す。
「そんじゃあ一丁、ド派手にぶちかましてやるぜ――!!」
秋男がそう口にするや否や、彼の身体から盛大に熱風が吹き荒れる――!!
秋男から発せられた凄まじいほどの謎の熱風。
それによって、オーク達の進軍が止まっただけではなく、教室内に散乱していた机や椅子などの物が投擲武器となって彼らへと飛来していく。
如何なる効力が働いているのかは分からないが、不思議なことに飛来してくる物は全て女生徒達を避けるかのようにピンポイントでオーク達へとぶつかっていた。
突然の事態にオーク兵達がたじろぐ中、その様子をつぶさに観察しながら部隊長は冷静に分析していた。
(恐ラクコノ風ハ、アノ秋男トカイウ小僧ノ先祖トヤラデアル異邦ノ女神、由来ノ能力二違イナイ……!!トナレバ、コノ程度デ終ワルハズガナイ!!)
秋男の家系である犬神家によって、完堕ちさせられたという異世界出身の女神。
彼女は『いじめられっ子達を安易に異世界に転移や転生させ、その鬱屈した魂を救済する』権能を持っていたと言われている。
自己紹介に述べた時の彼の発言が本当だとするなら、そんな彼に宿った異能の力がただ熱風を吹かせたり、飛来物を思った通りにぶつけるだけのはずがない。
――犬神 秋男。
彼が使用する能力の真の効果とは――。
(コノ熱風、対象ヲココデハナイ異界ヘト転移サセル効果ガアルト見テ間違イナイ!!)
オーク部隊長の見立てが確かならば、秋男から発生するこの凄まじい風は、オーク達を壁に叩きつけるような生易しいものではなく、こことは異なる世界に強制的に飛ばす力があるとみて間違いなかった。
最悪の場合、転移先ではいじめられっ子だった地球からの転移者達が気持ち良く活躍できるように、自分達オークに手頃な悪役としての弱体化補正が付与されてしまうかもしれない……。
何より、このタピオカ女学園で必死にかき集めた現役のJK達とのアイドル契約を手放すような真似など、自分達オークにとって容認出来るはずがなかった。
ゆえに、部隊長は配下の者達に向かって、裂帛の気合と共に声を上げて呼びかける――!!
「貴様等、ココガ正念場ダ!何トシテデモ踏ミトドマルゾ!!……総員、”早朝・物販並びの陣”ヲ行エッ!!」
『ブモッフォッ!!』
雄々しき声を上げながら、巨体からは想像もつかぬ俊敏さでオーク達が陣形を構築し始める。
――”早朝・物販並びの陣”。
それは、大人気アイドルの限定ライブグッズを手に入れるために早朝から物販コーナーに並ぶ、熟練ファンを連想させるが如き不動の陣形である。
自身が望んだモノを手に入れるまで、如何なる障害にも屈しない!という意思が込められたかの如きオーク達の結束は見事であり、彼らの陣形は秋男の熱風を正面から受けたにも関わらず耐え忍ぶことに成功していた。
次第に吹き荒れていたはずの風の勢いが、徐々におさまっていく……。
その光景を前にしながら、オーク達は逸る気持ちを抑えつつも強く自分達の勝利を確信していた。
「ブモッフォ!!コノ風サエ収マレバ、後ハアノ目障リナアイツラヲ始末スルダケダゼェ~~~!!」
「我等ノ底意地ヲ、見セテクレルワッ!!」
秋男から吹いていた風がやむや否や、そのように叫びながら四人に向けて殺到していくオーク達。
幸いにも秋男の異能によって吹き飛ばされたからか、障害となり得る机や椅子といったものは一掃されているため、彼らのもとへは一直線で到達できる――はずだった。
(イヤ……コレハ本当ニ、単ナル偶然ナノカ……?)
逸り猛る部下達を尻目に、部隊長のみが冷徹に状況を俯瞰する。
彼らにとっておきの秘策であったはずの、女神由来の異能すら自分達は耐え凌いだ。
現在の状況は自分達オークにとっての圧倒的優位、彼ら四人にとって絶体絶命の危機である事は誰の目から見ても明らか。
――なのに、だというのに。
(何故、奴等ノ顔ニハ……微塵モ絶望スル気配ガ、ナイノダ!?)
よく見ればこの場にいるJK達も、彼らに迫ろうとするオーク達を一瞥することなく皆、瞳を輝かせながら『G4』のメンバーに視線が釘付けとなっているのだ。
そして、肝心の『G4』は――これで全てが終わるのではなく、今ここから始まるのだと言わんばかりに、自身に満ちた表情を浮かべていた。
絶対的な優位に立っているはずだというのに、こちらが追いつめられているかのような謎の焦燥感。
――まさか、あの熱風すらも今の状況を作り出すための布石に過ぎなかったのではないか?
”女神の異能”すらをも一つの仕掛けとして組み込む大掛かりな作戦。
そんな馬鹿げた考えが部隊長の脳裏をよぎる。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、何の根拠もない。
にも関わらず、部隊長はそのような考えを一笑に付すことも出来ず、それどころか無我夢中で配下の者達に向けて声を上げて叫び出す――!!
「――気ヲツケロ!!コイツ等全員、何カガオカシイ!……者共、一旦引キ返セッ!!」
だが、突如そのように言われたところで、今さらオーク達の進撃はとまらない。
彼らの猛攻が今にも、4人の青年達に向けれられるかと思われた――そのときである!!
「――それじゃあ、お待ちかねのショウタイム!と行こうぜ……!!」
刹那、彼らに照明が当たったかと思うと、盛大にアップテンポな音楽が流れだす――!!
それと同時に、教室内の女子達から熱狂的な黄色い歓声が沸き立つ。
彼女らの呼びかけに呼応するかのように『G4』の面々が順に左手の人差し指を天高く掲げたかと思うと、瞬時に彼らはスタイリッシュなポーズを取ってから、リズムに乗って踊り始める――!!
突然始まった即興ライブとは思えない圧倒的なクオリティの演奏とダンス・パフォーマンス。
そして、それによって異様な盛り上がりを見せる観客の女子高生達。
ここに来てオークの部隊長は、多少イケているとはいえ単なる落ちこぼれ男子校に通うだけの彼ら4人が何故『G4』という尊称で呼ばれているのかを思い知る――!!
(クソッ!!……落チコボレニ過ギナイハズノコイツ等ガ、マサカ超絶級ノ実力ヲ持ツ"アイドル"ダッタトハ――!?)
……厳密に言えば、彼らはどこかの事務所に所属している本物のプロアイドルではない。
彼らの出自やそれまでの行為、そして何よりも、あまりに落ちこぼれ過ぎる底辺校"”ドリンクキメラ学園”"というネームブランドに足を引っ張られる形で、彼ら4人はオーディションの最終選抜に残るだけのイケメンぶりと確かな実力を持っていたにも関わらず、あらゆる事務所から契約を断られ続けてきたのだ。
それでもなお、逆境や困難ばかりの現実を前にしても挫ける事なく、どんな形であろうと人々に輝きを与える道を選んだ奇跡のような四色の綺羅星――。
彼ら『G4』が巻き起こす旋風と熱気が、アイドル契約を結ばされた女生徒達だけでなく、オーク軍すらをも呑み込んでいく――!!
……このまま彼らのライブに呑まれてしまえば、秋男の権能による異世界への転移などとは比べ物にならない『自身達オーク軍の魂の変質』という未知の恐怖を味わわされる事になる。
そうなる前に、例えどれほどの犠牲を出して戦果が全く残らなかったとしても、この4人だけは今ここで確実に仕留めなければならない。
「者共、ココガ正念場ダッ!!!!――ココカラ先、己ガ命ヲ惜シム事許サズ!……我ガ部族ガ築キ上ゲテキタ過去、コレカラノ未来、ソシテ!"今"ヲ生キル我等ノ尊厳ヲ守リ抜クタメニ!――何トシテデモ、奴等ヲ粉砕スルノダッ!!」
『ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
そう判断した部隊長はこのライブを中断させるため、部下達に向けて決死の呼びかけを行い、部下達も魂の咆哮でそれに応える。
そんなオーク達を、熱唱する傍らで見やりながら不敵な笑みを浮かべる『G4』のイケているメンバー達。
――数多の世界を渡って契約を結ばせてきた者達と、数多の事務所から契約を断られてきた者達。
種族も立場も何もかも違う両陣営による”タピオカ女学園”を舞台にした闘争劇は、ついに最終局面に移ろうとしていた――。