降臨する希望の星
絶体絶命の危機に追い込まれた二人のもとに、現れた4人のスタイリッシュな青年達。
よく見れば、彼らはそれぞれタイプが違う雰囲気を纏っていたが、皆一様に学校の制服らしきものを着用している事からも、この4人が学生である事は確実だった。
だが、現在戦場と化しているこの場は紛れもない女子高であり、男子生徒などという存在が何故この場にいるのか分からない……。
彼らの制服はこの”タピオカ女学院”とは違う学校の制服のようだが、それならなおさらこの場にいる事の理由が説明つかない。
そんな彼らに向けて、オーク達が盛大に声を荒げながら正体を問い質す――!!
「馬鹿ナ……アリ得ン!!コノ侵攻作戦ハ、授業時間ヲ狙ッテ行ワレタモノ!コノ学校ノ生徒達デスラ、教員ニ許可ヲ取ル事デヨウヤク我等ト戦ウ事ガ出来タト言ウノニ、明ラカナ他校ノ生徒デアル貴様等ガドウシテコノ場ニ存在シテイルノダ!!授業ハドウシタ!単位ヲ落トスゾ!!……貴様等、一体何奴ッ!?」
それに対して、4人のメンバーのうち赤い髪をした青年が快活にオークへと答える――!!
「――冷奴、ってな。……俺達は近所の超絶Gランク落ちこぼれ男子高と名高い”ドリンクキメラ学園”に通うイケてる男子4人組、人呼んで『G4』だッ――!!」
「ッ!?ジ、『G4』だとッ!?……クッ!何ト言ウカッコ良サナンダッ……!!」
赤髪の青年の名乗りと同時に、『G4』メンバー達から放たれる圧倒的な格好良いオーラを前に思わず気圧されるオーク達。
『G4』。
確かに、超絶Gランク落ちこぼれ男子高に通うイケてる男子学生である彼らならば、授業中にも関わらずオークの軍勢すら気にすることなく、この戦場と化したタピオカ女学院に颯爽と現れた事にも説明がつく。
たじろぐオーク達に向けて、赤髪の青年がどこからか取り出したマイクを手にビシッ!と指さして宣言する――!!
『へへっ、残念ながらここら辺は俺の庭同然なもんでな!……この俺、犬神 秋男様に断りなく荒らそうって言うんなら、承知しないぜ!!』
そんな秋男の勇ましい姿を目にした女生徒達から、盛大に黄色い歓声が上がる。
「な、何たる漢気ッ!!!!秋男君、本当にカッコよす~~~♡」
「流石、かつてここいら一帯を荒らし回っていた異邦の女神を口説き落としたという逸話を持つ御先祖様の血を引く名士なだけあって、貫禄が違うわね!……私も女神の子孫で地域に根差した家柄で本人が割とイケメンな秋男君のもとに玉の輿した~~~い♡」
女生徒達が純粋な好意や打算まみれの願望とともに、秋男を称え始める。
彼女が口にした通り、かつて秋男の先祖はこの地域に現れた『いじめられっ子達を安易に異世界に転移や転生させ、その鬱屈した魂を救済する』ことを目的としていた異界からの女神に対して『どんなに現状が困難でも、自分で道を切り開く事の大切さ』を説き、彼女を改心させようとした。
初めは秋男の先祖の言葉にも『なるほど、そういう考え方もあるかもしれないですね。……でも、私は目の前で苦しんでいる人を少しでも早く、より多く救うのが使命ですから……』と女神は取り合わなかったが、もともと地域の名士だった犬神家の嫡男であった秋男の先祖が、自前のルートで怪しげなクスリを調達したり、豪勢な温泉旅行からの宴会を開いたりした結果、気づけば女神はなし崩し的に関係を結ばされた挙句にそんな二人の関係を示す決定的な証拠を握られることとなった。
それ以降女神は『安易な異世界転移・転生』を他者に施すという行為を改め、犬神家の嫡男一人のためにのみ奉仕するようになった結果、毎年産婦人科医にトンボ帰りして産み落とした多くの子供達や孫達に囲まれる生涯を送った……という言い伝えが残されている。
――女神の血を引く者が、悪しき魔の侵略者達に立ち向かう。
見る者からすれば、まさに、これ以上という他ないドラマチックな構図であったに違いない。
そんな秋男から次にマイクを託されたのは、”眉目秀麗”という言葉が似合いそうな銀髪の眼鏡をかけた青年だった。
『初めまして、だな。僕は”ドリンクキメラ学園”の生徒会長をやっている鬼龍院 冬彦という者だ。……秋男じゃないが、生徒会長である僕の目が黒い内は勝手な真似が出来ると思うなよ……!!』
冷徹な冬彦の視線を受けて、女生徒達の瞳にハートマークが狂喜乱舞する――!!
「カ、カッコいい~~~♡落ちこぼれ男子校にしか受からなかった学力なのに、スッゴク賢そうに見える~~~ッ!!」
「男たる者、どんな超絶底辺な環境の只中にあっても、自分を立派に魅せようとする意地だけは忘れちゃいけない!という確かな気概を感じる。――これは、魂の偏差値120%超えですわ……!!」
”偏差値”という言葉の意味を理解していなさそうなやり取りが、女生徒達の間で盛大に飛び交う。
普通ならすぐに誰かの指摘が入って落ち着きを見せるところかもしれないが、理知的な表情を浮かべている当の冬彦本人もこれらのやり取りの何が間違っているのか全く理解していなかったので、特に問題はないまま盛り上がりは最高潮に跳ね上がっていく――!!
冷徹な印象とは裏腹に、誰も傷つけることのない空間を築き上げる優しさを兼ね備えた青年――鬼龍院 冬彦。
そんな自身とファンの女生徒達の絆を誇るかのように、彼は意味ありげに眼鏡をクイッ!と掛け直していく――。
(マ、マジ、ナノカ……?コンナ訳ノ分カラナイ奴等ガ、アト二人モ控エテイルノカ……!?)
オーク達の中から、『もうこんな奴等に関わらずに、契約した女生徒を引き連れてさっさと故郷に帰りたい……』という表情が色濃く浮かびあがる。
だが、今や校内の女生徒達は颯爽と現れた『G4』の面々に熱中しており、ここで水を差すような言動をすれば盛大に不興を買って契約を破棄されかねない、という懸念があった。
ゆえにオークの軍勢は、このくだらないマイクパフォーマンスが終わってから、オークの流儀らしく正々堂々と雄々しき力任せで彼ら4人を粉砕する、という作戦を取ることを余儀なくされていた。
彼らがそのように思案している間にも、3人目へとマイクが移行する――。
『勝利は常に俺を照らし続けている、――覚悟するんだな!テメェ等みたいなイカれたチャーシュー野郎どもは、この俺様:弩Qという口八丁手前味噌ラーメンな存在に放り込まれるだけの具材に過ぎないって事を、とくとその身に思い出させてやるぜッ!!』
制服を道服風に改造したのを着こなした、オラついた感じの青年が声を上げる。
そんな彼を前にしながら、女生徒達は驚愕のあまり口元を押さえていた。
「わ、分かっていた事だけど、チャイニーズマフィアの跡取りである弩Q君が『G4』の仲間達と一緒に私達の危機に駆けつけてきてくれるだなんて……!?私の心は、彼の無敗伝説にまた勝てなかったよ……!!」
「弩Q君という味噌ラーメンに飛び込んでいく、オーク軍と呼ばれし大量のチャーシュー?……え、絵面がヤバすぎてヨダレがとまんない!ここは既に地上の楽園なの!?」
オーク達に向けて盛大にイキりながら、よってたかってもみくちゃにされてその身を穢され、それでもなおオラつき続ける弩Qの姿を想像した結果、思考がヤバイ方向に振り切れて錯乱する女生徒が続出する。
話術一つで一大組織を築き上げた先祖のチャイニーズマフィアの首領:阿Qを彷彿とさせる弩Qの巧みな話術を前に、敵も味方も既に翻弄される事態となっていた。
『目に見えているモノが全てな訳じゃない。この世の中はBe-hype.全て嘘ッパチさ……!!』
名乗りもせずに、そう一言だけ告げたのは黒人留学生のボブだった。
この発言の真意はこの場にいる者全てよく分かっていなかったが、『G4』最後のメンバーの出現を前に校内のテンションはこれ以上とないくらいに跳ね上がっていく――!!
「キャー!!流石『真実を見抜く瞳』と呼ばれるだけあって、素敵な台詞だわ!抱いてー!!」
「でもって、他のみんなが言葉の意味を分かってない中で、私だけが『これはこういう意味かな、ってなんとなく思ったの』みたいな答えを言うと、ボブが『……僕のことをそこまで分かってくれた女性は、君が初めてだよ……!!』ってなって、乙女ゲーのようなラブロマンスが始まるんですね!分かります!!」
この世の欺瞞を否定する感じの言葉を口にするくせに、自身の日本でのホームスティ先の奥さんが何故か黒人の子供を産んだとか、自分のクラスを担当している新婚の女教師とネオン街で腕を組みながら入っていった姿を目撃した、という疑惑に対してははっきりと明言しないまま、ボブが女生徒達に軽くウインクする。
――超絶Gランク落ちこぼれ男子高と名高い”ドリンクキメラ学園”に通うイケメン男子集団:『G4』。
偏差値の壁がどれだけあろうとも、素敵な男の子はいつでも輝けることを証明したとっておきの4人組が盛大な歓声で称えられながら、魔の軍勢に蹂躙されそうな乙女の花園へと優雅に降り立っていた――。