表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

蠢く野望と陥落する女学院

 ――タピオカ女学院・校長室


 現在、この場所ではでっぷりとした身体つきに禿げ頭が特徴的な初老の男性が薄暗い部屋の中で一人、外の喧騒を聞きながらボックスに入ったフライドチキンを入念に味わっていた。


 彼の名は、神田野かんだの 廉太郎れんたろう


 この”タピオカ女学院”の校長を務める人物である。


 彼はフライドチキンをクッチャクッチャと噛みながら、一人静かに想いを馳せていた。


「……この学校は昔から女系が強い理事長一族が牛耳っており、儂のような男性教員は常に肩身の狭い想いをしてきた。――それに便乗するかのように、他の女教員共まで何の地位もなくても儂を陰で馬鹿にする始末!!……何故、校長にまで昇りつめた儂がそんな扱いを受けねばならんのだ!?」


 廉太郎はギリッと、激しい歯ぎしりとともにフライドチキンを盛大に噛み千切る。


 三浦みうら 尻政しりまさのようなセクハラするくらいしか能がない愚鈍な者ならいざ知れず、何故校長である自分が理事長だけではない他の女性教員、果ては女生徒にまで軽んじられなければならないのか。


 常日頃の鬱屈さや不満から、廉太郎さの怒りのボルテージは極限にまで達しようとしていた。


「ゆえに、儂は最早我慢ならんッ!!そのために、この学園に引き寄せられてきたというオーク共とやらに、この学校のメスガキ共を盛大に世界レベルのアイドルとしてデビュー&プロデュースさせ、その功績を持ってこの学園から目障りな理事長一派を追い払ってくれる!!……そうすれば、この”タピオカ女学園”は儂の天下になったも同然よ!!」


 先程までの憤激から一転、ガハハッ!!と豪快に笑う廉太郎。


 そう、信じられないことにオーク達と結託し、今も懸命に戦い続けているあん子達タピオカ女学園の生徒を裏切っていたのは紛れもなくこの神田野かんだの 廉太郎れんたろうであったのだ。


 彼はオーク軍に即座にコンタクトを図り、校内の内部構造の情報などを相手にリークし、自校の女生徒達を襲撃スカウトさせるという恐るべき陰謀を、あの短期間で即座に練り上げていた。


 理事長一家のパワハラという上からの圧力と、現場という下からの突き上げに挟まれながらも、それらを校長として何とかいなしてきた廉太郎だからこそ成しえた策謀術と言っても過言ではなかった。


 廉太郎がグフフッ、と不敵に笑う。


「この学校に通う浅はかなメスガキ共よ。貴様等は儂を栄光の座へと至らせるための礎となるのだ!勉強もせずにタピオカを飲むくらいしか出来ないのなら、精々この儂の踏み台くらいにはなってもらわんとな!」


 校内の至る所から悲鳴や怒声が響き渡る中、この校長室だけは外界から完全に隔離されたかのようにいつまでも廉太郎の哄笑が響き渡っていた……。









 あん子達の教室だけでなく他の教室や廊下でも次々と天井が突き破られ、そこから出現したオークの軍勢によって、防衛線は完全に瓦解することとなった。


 突然の事態を前に混乱する女子高生達に、オーク達の魔の手が迫る――!!





「いや~!助けて!!……このままじゃ、パッと見の条件で『あ、これって結構良さげかな?』って判断して、よく分からないまま契約書にサインしそうになっちゃう~~~!!」


「クソッ、離しやがれッ!!……今まで散々他の奴から”ガサツ”とか”粗暴”って言われてきたアタシが、今更フリフリの可愛い服着てアイドルなんかやれるわけないだろ!……バカ」





 ”クラスカースト最上位の陣”が崩れたことによって散り散りになった取り巻きの女生徒達は個々に、スカウトしてきたオーク達の称賛の言葉と、目先の報酬が提示されたことによって何の考えもなく雰囲気で押し切られそうになっていた。


 廊下でオーク達をシメていたちょっと不良入った女生徒達は、テクニックはないが熱意だけは込められたオーク達の勧誘トークと、普段女の子扱いをあまりされていない状態での『君はとても可愛いよ』連呼の前に、無残にも陥落しかけていく……。


 あれほどの奮闘もむなしく、校内では僅かな間にこのような阿鼻叫喚の地獄が繰り広げられる事態となっていた。


 現在戦線を維持できているのは、もともとクラスカーストでも最下層に位置するあん子達のような壁際の鍋粥部隊のみであった。


 辺り一面で繰り広げられる凄惨な光景を目にしながら、それでも、とあん子は餅代と現状の把握に努めようとやり取りをする。


「迎撃用に調理した鍋粥、六つをオーク達に取り上げられて残り一つ!現在鍋を取り上げた奴等はアタシら壁際部隊には目もくれず、タピオカ鍋を取り巻き達に振る舞ったり、自分達でがっついたりしてるからまだしばらくは時間を稼げそう!!……でも、外から来る奴等を迎撃するための分の粥が残り少なくなってすっかり冷めているから、最早戦況が絶望的な事に変わりなし!そっちは!?」


「教室内に突入してきた奴等の大半は、取り巻きじゃないカーストトップ女子のあのボス猿に夢中でゴザル!名前は忘れた!つか知らん!……今は『そういうの面倒だしな~……』といった感じでオーク共のスカウトを断ることに成功しているようだけど、もともと人の上に立つのが好きな性格もあって、このままボス猿の自尊心をくすぐる形で攻められていけば、陥落するのも時間の問題でゴザルぞ!」


 もしも、カーストトップの女子まで完全に崩されてしまえば、彼女の攻略に集中していた残りのオーク達も一斉にこの壁際に押し寄せることになる……。


 内外に最早逃げ場はなく、あん子達は絶対絶命の危機に陥っていた――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ