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オーク軍の襲来

 その後、クラス委員長の美咲が皆の総意を受けて職員室で教員各位に申請した結果、このタピオカ女学園の生徒が一丸となってオークの軍勢を迎え撃つことが認められた。


 各クラスはオークなんかに弄ばれたくないという嫌悪感や普段の日常からかけ離れたイベント感溢れる出来事を前に、激しい高揚感を隠しきれなかった。


 現役の女子高生をアイドルにスカウトしようと殺到してくるオークの軍勢を前に、女子生徒達が果敢に迎撃していく――。


「それじゃあみんな!……行っくよ~!!”クラスカースト最上位の陣”ッ!!」


(キャピ)(キャピ)ッ♡』


 大学生のイケメン高身長セレブ系彼氏と付き合っている女生徒の呼びかけに応える形で、取り巻きの女子高生が彼女を囲むように教室の入口で強固な布陣を築き上げていく。


 ”クラスカースト最上位の陣”。


 それは、クラスの中でも最上位に位置する女生徒達を中心に展開する陣形のことである――!!


 実際の防衛のために行った働きや成果よりも、この陣形の中心に近ければ近いほど評価されてクラスカーストの序列が上がる、という性能であるため他の陣形に比べてもあまり防御力に優れているとはいえないかもしれない。


 だが、この陣形を構成している女子高生グループ全体から強烈に放たれる『イケてる人間以外お断り♪』という無言の圧力、近寄りがたい雰囲気を前に鼻息荒いオークの軍勢は尻込みする事になった。


「教室の入口はパリピ共に任せておけば大丈夫そうだな……じゃあ餅代もちよ、アタシ達もコイツ等を撃退しとこっか」


「おけのすけ」


 そんなやり取りをしながら、二人がグツグツと煮立った鍋を持って窓際へと向かう。


 この鍋の中身は、クラスメイト達が持っている有り余るほどのタピオカを材料に、ドロドロのかゆになるまで煮込んだものである。


 単なる熱湯よりも固形物である粥状のほうが熱さが伝わるため撃退に向いており、あん子達と同じような元からクラスカーストなどを気にしないはじっこぐらし系の女子は壁際に陣取り、日頃の鬱屈とした感情が込められたかのように、外から梯子をかけて昇ってくるオーク達に向けて盛大に浴びせていた。


「ブモッフォッ!?ア、熱スギルッ!!ココハ、一旦、退却スルゾ!!」


 グツグツに煮立ったタピオカ粥を浴びせられて火傷し、梯子から転落する者達が続出する中、オーク軍の部隊長が態勢を立て直すために撤退の指示を出す。


 このまま闇雲に突撃しても同じ方法で何度も返り討ちに遭うのみ――そんな部隊長の判断は、何一つ間違っていない……はずだった。


「ッ!?ム、無理デス!!分カッテイテモ、アノ場カラ離レルナド我等ニハ出来ルハズモアリマセン!!」


「貴様、何ヲ言ッテ!?……ナ、俺ノ身体モ勝手ニ!?」


 そう言っている間にも他のオーク達と同じように部隊長も鍋粥が待ち受ける窓際の方へ、血走った眼をしながら梯子を伝って昇り始めていく。


 まるで何かに憑りつかれたようにも見える自身の理性をかなぐり捨てたかのような行動であり、当然の如く沸騰した粥を顔面から浴びて、盛大に墜落する羽目になった。


「クラスのみんなから集めたタピオカをもとに作っただけあって、オーク共の食いつきぶりも半端じゃないな~!!面白いようにまっすぐこっちに向かってくるだけだから、簡単にぶつけられるわ!」


「校内に入ってきた奴等も”取り巻き腰巾着の陣”とやらで教室までは入ってこれない上に、授業をサボっていて教室にいなかった不良連中に廊下でシメられている。……このままいけば、オーク共を一掃するのも時間の問題なんですぞ~!」


 餅代が告げた通り、現在進行形で作業染みた工程で窓際から墜落している部隊だけでなく、校内に突撃してきたオーク達の部隊も”クラスカースト最上位の陣”を受けて教室の前でモジモジしている間に、授業をサボっていたちょっと不良入っている強気な女の子達に目をつけられた結果、『際どい女性用下着を買って来いよ!』とパシリにされたり、ストロー越しに「このストローの中にタピオカ詰まっちまったから、盛大に吸い出してみろよ♪」とからかわれたり、普通に殴打されたりしながらオーク達はことごとく再起不能となっていた。





 ――このまま上手く事が進んでいけば、オークの軍勢も撃退出来る。





 皆がそのように、最後の一押しに向けて一層モチベーションを上げていた――まさにそのときだった。


 突如、あん子達の教室の上空からけたたましい破砕音が鳴り響く。


 そしてすぐに建物全体を揺さぶるような衝撃が地面に伝わっていた。


 撃退している最中にも関わらず、自身の持ち場から視点を外して音のした方に振り返る女子生徒達。


 その先で、彼女達は信じられない光景を目にすることとなる――!!





 強烈な破砕音と衝撃のあとに、巻き起こった煙の向こうから姿を現した者達。





 ――そこには、豪快に穴の開いた天井から降りてきたと思われるオークの軍勢が、あん子達女子生徒の事を鼻息荒く血走った眼で凝視していた……。









「ど、どういう事なの!?オーク共がなんで、いきなり教室内に!?」


 カースト最上位の女子が、教室の中心に突如出現したオークの軍勢を目にして驚愕の声を上げる。


 いや、現れた理由だけならば天井にぽっかりと空いた穴を見ればすぐに分かる。


 だが、それでも力任せが主体のオーク達がこんな手段で侵入を果たしてくるとは誰も夢にも思っていなかった。


 教室中が一斉にパニックになる中、クラス委員長である酢藤昆布すどうこんぶ 美咲みさきが緊張した面持ちで冷静に現状を分析する。


「……あのオーク達は天井裏を伝って、私達の教室内に的確に襲撃してきた。アイツ等が出現してから校内に突撃してくるまで、時間はそんなにかかっていないにも関わらず……」


 それらの事から導き出される結論は――ただ一つ。





「間違いない。この学校関係者の中に、オーク達と繋がった内通者がいる――!!」

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