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明かされる真実

『いや、やっぱ今外に出ると危ないから、とりあえず、しばらくは教室にいろ』という教師である麻美の指示によって、あん子達は皆教室で自主待機をしていた。


 特にすることもないのであん子は、今日だけで何杯購買で購入してきたかも分からないタピオカを飲みながら、他のクラスメイトと同じように窓の外を見つめていた。


「うっひゃ~~~!まさかと思っていたけど、本当に外にオークの軍勢がぞろぞろいよるわ!……こりゃ、校内に突入してくるのも時間の問題だわさね……!!」


 そのように大仰なリアクションであん子に話しかけてきたのは、彼女の数少ない友人である桜咲さくらざき 餅代もちよであった。


 この異常事態を前にしているにも関わらず、あん子は餅代と軽く乾杯しながら、どことなく他人事のような気持ちで軽く問いかける。


「それにしても、一体何でオークの軍勢なんかがいきなりこのタピ女に現れたりしたんだろ……?餅代、アンタなんか分かる?」


「そんなもん単なるJKに過ぎぬ拙者に分かるわけござらぬ!ギャハハッ!……んっん、失礼。たぶんだけど、原因はアレじゃないかな?」


 無駄なハイテンションから一転して落ち着きを取り戻した餅代があごでしゃくった先に、視線を移すあん子。


 彼女の見つめる先にあったのは当然の如くオークの軍勢だったが、あん子は彼らが手にしたモノにある違和感を覚えていた。


「餅代、アイツ等が手に持っているやたらとカラフルに光っている棒っきれって……もしかして、サイリウムってヤツ?」


 あん子が指摘した通り、オーク達が手にして構えているのは、アイドルコンサートなどにおいて応援用に用いられる”サイリウム”というグッズであった。


 困惑するあん子に対して、餅代が頷きながら答える。


「聞いた話によると、何でも異世界のオークの中には、アイドル文化に染まりきった部族の連中、っていうのもいるらしいんよ。……そいつらは自分の世界のアイドルを応援するだけじゃ飽き足らず、多くの世界を渡り歩きながらその地の女子高生を侵略的スカウトし、自分達でプロデュースした後に”女子高生アイドル”としてデビューさせるのを目的としているんだってさ……!!」


「ッ!?そ、そんな……!!」


 餅代からもたらされたあまりにも信じがたい情報を前に、驚愕して目を見開くあん子。


 だが、それというのも無理はない。


 もしも、こんな何が起きているのか分かっていない状況下で、オークの軍勢が学校内に押し寄せて自分達にスカウトを迫ってきたとしたら、果たして、かよわい女子高生に過ぎぬ自分達がその誘いを断り切れるだろうか。


 また、大して法律関係に詳しくない自分のような学生が保護者の同意もない状態で雇用契約を結んでしまった場合、『これも単純に世界間の文化の違いだから……』とか言いくるめられてスケベなビデオに出演させられたり、『契約を履行出来なかったから……仕方ないね♡』などと詰め寄られた結果、肉体関係を強要されて泣き寝入りする事になる可能性も全くないとは言い切れないのだ。


 あん子の胸中に、瞬時に恐怖が染みわたっていく。


 それと同時に、ふとした疑問が脳裏によぎる。


「で、でも、どうしてそんなオークの軍勢がこのタピ女に……?女子高なんて、他にいくらでもあるじゃん?」


 あん子の言う通り、自分達より遥かに品が良くて、ルックスもイケてる女の子達が集う女子高なら他にいくらでもある。


 なんなら、お嬢様学校として名高い『カステラ女学院』にでも行ってくんない……?


 そんな自分達に降りかかった理不尽に対して、生贄回避を目論む思考をしていたあん子に呼びかける声があった。





「――その疑問には、私が答えてあげるわ……!!」





「ッ!?何奴なにやつッ!!……って、ア、アンタはッ!!」


 そんなあん子や餅代の反応に対して、フフッ、と涼やかな仕草で一人の少女が答える。


冷奴ひややっこ、ってね。……ご存知の通り、このクラスの委員長としてお馴染みの酢藤昆布すどうこんぶ 美咲みさきよ」


 瓶底メガネに野暮ったい三つ編みが印象的な地味系女子のクラス委員長:酢藤昆布すどうこんぶ 美咲みさきは、いつもあん子達クラスメイトが感じていた大人しめ、という印象からは程遠い、はっきりと澄み渡るような声音で、信じられない言葉を告げていた。





「――そうね、端的に言うと、この事態の原因は貴方達が普段から飲んでいるその”タピオカ”よ……!!」





 確信に満ちた発言を前に、クラス中が一斉にざわつき始める――!!


 皆が激しく混乱し、自分達の気分を落ち着かせるためにタピオカを慌てて飲み始めている中、クラスの動揺を代表するかのようにあん子が美咲に訊ねる。


「ッ!?それは一体全体どういう事なん!委員長!?」


「そのまんまの意味よ、どら焼きさん。……このクラス、いえ、この”タピオカ女学院”の生徒は、その名前の通りとはいえ、『単に流行に乗っているだけ』という言葉では済まされないほど、常日頃から休み時間や授業中の区別なく――こういう非常事態に陥っている現在のような状況であっても”タピオカ”を常飲し続けていた……」


 そこですぅ……っと、目を細める美咲。


「……その結果、全国――いえ、全世界規模で見ても尋常じゃないタピオカの消費量に惹かれるように、この女学院にオークの軍勢を引き寄せる事態になってしまったのよ!!」





!?





「な、何でよ!?タピオカとオークの軍勢とやらに何の関係性があるのさ、委員長ッ!!」


 あまりにも突拍子のなさすぎる美咲の発言に、驚愕を通り越して困惑するあん子。


 だが、そんな彼女の疑念に対しても美咲は動じることなく理路整然と返答していく。


「そんなの大アリに決まっているじゃないッ!!……良い事?昨今の爆発的な”タピオカブーム”を見れば分かる通り、タピオカにはもともと私達のような女子高生に限らず、老若男女問わず人々を惹きつけるほどの凄まじい吸引力があるのよ?……そんなものを私達のような現役の女子高生が四六時中飲み続けたりなんかしたら概念的に効果が倍増して、常に得物を求めて世界を渡り歩いている奴等(オーク)のような存在がこの地に引き寄せられるのも、当然に決まっているでしょう!?」


「そ、そんな……!!」


 タピオカ本来が持つ吸引力と、女子高生アイドルになりえる逸材を求めて数多の次元を渡り歩くほどのオーク軍の性質。


 今回の異変は、そのような二つの存在の要素が重なってしまった悲劇という他なかった。


 ようやく事態の深刻さを噛みしめたクラスメイト達が、慌ててタピオカを口から離す。


 そんな彼女達を静かに見やりながら、静寂に包まれた教室内で美咲がおもむろに口を開く。





「……とにかく、自分達が何をすべきなのか理解したようね?それじゃあここからは、授業時間でもブレイクタイムでもなく、豚共を巣穴に追い払う番よ!!」





 そう言うや否や、野暮ったい三つ編みをほどき、自身の瓶底眼鏡を教室の壁に投げ捨てながら、颯爽と制服の上着を脱ぐ美咲。


 ――気づけば、そこにはスタイリッシュビューティーという他ない美女が、覇気に満ちた表情で佇んでいた。


 咄嗟の事態に思わず絶句するあん子を始めとするクラスの面々。


 その間にも『よくよく考えたら、別にそこまで上手い事は言ってないよな……?』という思考が全員の頭をよぎるが、


『でも何か知らんけど、委員長が格好良いしそれでいっか!』という共通認識を得てからすぐに、クラス中が一斉に興奮で沸き立つ。


 現在自分達のもとに迫ろうとするオークの軍勢という脅威を打ち払うかのように、美咲を中心としてクラスの者達が一丸となって雄たけびを上げる――!!





『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』









「コラァッ!!テメェら、静かに自習してろって言っただろッ!!」





 ――だがそれも、教室に怒鳴り込んできたサバサバ系女教師の麻美あさみの叱責を受けた事によって、すぐさま全員大人しく席に着くこととなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでるよ、読んでるぜ……! タピオカといういかにもな流行り物の中にあっても輝きを失わないこのアカテン節よ……! それはさながら、キャッサバの中に紛れ、決してタピオカなどにはなるまいと…
[良い点] タピオカの力、恐るべし! これは、主原料の彼奴裁《キャッサバ》が、何かしら効果を、発揮するのでは、と愚考いたします……! [一言] 6話までタピタピ待機してますッ!
[良い点] 普通なら、常識では考えられないオークの軍勢が現れて恐れ慄きパニックになると思うのですが、法律のこと考えて余計な心配をしたり、タピオカと関連付けて考察し、実は出来る女を演出している委員長だっ…
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