タピオカよ、永遠なれ――!!
ようやく、全ての戦闘行為が集結した"タピオカ女学院"。
あん子達女生徒や教職員、『G4』やオーク軍の隔たりもなく皆が緊張を解いていく中、それらとは異なる呆けた表情で歩かされる人物の姿があった。
その人物とは――このタピオカ女学院の校長にして、校内にオーク達を手引した張本人:神田野 廉太郎。
彼は自身にとって目障りな存在である理事長一派を学校権力から追い出す材料として、今回のオーク軍による侵攻作戦を積極的に利用と画策していた。
だがそれも、女生徒達の奮闘や予期せぬ教職員達による乱入、――そして、『G4』の圧倒的なライブによって、学園は無事に守りきられてしまったのだ。
政府からの特殊部隊が派遣されるほどにまでなった今回の事態。
……そんな状況下で、もしもオーク達の口から自分の名が出るような事になれば、確実に破滅する事になる――。
そう判断した廉太郎は、大好物のフライドチキンすらかなぐり捨てて、無我夢中でこの場を離脱する事を選択したものの、政府の要請でこの場に派遣された忍者部隊の検非違使によって、あっけなく身柄を確保される事となった。
彼は今回の騒動を悪化させた原因として検非違使達に連行されながら、呆けた笑みとともにうわごとを呟く。
「ゲ、ゲヒヒヒヒ……!!何故、何故この儂が!無様に逃げ回らなければならないんじゃ!?ロクに学力すらないメスガキ共の分際で、儂の素晴らしい人生設計を邪魔しくさりおって〜〜〜!!……儂はまったく悪くないッ!!女生徒も教職員共も一人一人、じっくりかつねっとりと、儂に奉仕するくらいの精神で従属すべきなんじゃ~~~ッ!!」
「……くだらん戯言を口にしてないで、さっさと歩けッ!!」
「ヒッ、ヒィィ~~~ッ!!」
検非違使の叱責によって、ようやく正気を取り戻したかのような表情とともに、トボトボと連行されていく廉太郎。
それとは別にこの世界に出現したオーク達も、検非違使達によって討伐される恐れもあったが、そちらはオーク部隊長の指揮のもと、全員が投降したことによって、今回のオーク軍侵攻という事態は真に収束を迎える事となった――。
~~それから、数か月後~~
あの凄惨ながらも、様々な想いが交錯した騒動から数カ月。
皆、それぞれに大きな変化を見せ始めていた。
「ブモッフォ!!今日モ一日、頑張リマクルゾ!オ前達――!!」
『応!応ッ♡』
あの騒動の後、オーク軍は自分達の世界には戻らなかった。
彼らは『自分達のアイドルに対する姿勢を見つめ直す』という名目のもと、この世界に残り地域に根差した労働に従事しながら、新たなアイドル道というものを模索している。
「あ~……こらこら。廊下は走らないようにな~」
「そうだぞ、お前等ー!!分かったら、三浦先生にキチンと返事!」
「「ハーイ!了解でーす、三浦先生!」」キャハハッ!
数学教師にして、女生徒にセクハラ行為を繰り返していた中年男性:三浦 尻政。
彼はそれまでのセクハラ行為が嘘のように鳴りを潜め、憑き物が落ちたかのような表情で元来の性格なのか大人しくなっていた。
けれどそれまでと違うのは、動機がどうであれ、あの騒動のときに率先して生徒達のもとに駆けつけようとした事によって、周囲の女生徒や教員とほんの少しだけ打ち解ける事が出来るようになっていた。
だが本人はこれまでのセクハラ行為なども悔いており、準備が整ったら自主退職して実家に戻る事を考えているらしいが……それを実行するかどうかは、この時点では誰も分からない。
「みんなー!!今日は、俺達のために集まってくれてあ~りがと~!!……今日は、い~っぱい!い~っぱい!!みんなで一夜限りの玉の輿ライフを過ごそうな~~~ッ!!!!」
「解析完了――これで、君達がこのライブを楽しめる可能性は、偏差値120%超え確実だ……!!」
「覚悟しやがれ、この女の子印のチャーシューどもッ!!俺様の全力パフォーマンスを存分に堪能しやがれッ!!」
「――君達と過ごすこれからのひとときだけは、何があったとしても俺に残るとっておきの”真実”さ……!!」
『キャアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!素敵ィィィィィィィィィィィッ♡』
『G4』のメンバーの呼びかけによって、会場内に集まった女性達が大気を震わせるような黄色い歓声を盛大に上げる。
あの騒動で一躍有名になった『G4』の4人は、救世主的男子高校生アイドルユニットとして、出自やそれまでの行為、そして最大の障害であった超絶底辺校”ドリンクキメラ学園”出身というネームブランドすら吹き飛ばす勢いでノクターンプロダクションから衝撃的デビューを果たした。
例えどれほどの偏差値の壁があろうとも、素敵な男の子はいつでもどんな場所でも輝けることを証明したとっておきの4人組の快進撃は、これからも続いていく――!!
「み、みさ☆きち先生~~~!!今回の新作もあまりにも大ヒットで稼ぎ過ぎた結果、社会問題になっただけでなく市場相場にまで壮絶過ぎる影響が出始めちゃってます!!う、うわ~~~ッ!!」
「フフッ……ベストセラー作家になるというのも考え物ね!――分かったわ。また後で適当な場所に投資しておくから、それとなく手配しておいて?」
「は、はひぃ~~~♡」
自身が稼いだとてつもない印税額を見て吹き飛んだ担当編集者に向けて、気遣いながらもテキパキと指示を飛ばす美咲。
”タピオカ女学院”に通う女子高生にして実は”なろうユーザー”であった酢藤昆布 美咲も、『G4』同様にあの一件でアンチや僻みを吹き飛ばすほどの衝撃的書籍化作家としてのデビューを果たし『みさ☆きち』というPNで日夜慌ただしい女子高生ベストセラー作家としての日々を送ることになっていた。
(委員長でありながら、久しく学校に行ってない辺り自分もあの頃に比べたら大分不真面目になったな~……)
そんな事を考えながら、ふと美咲は過去を懐かしむようにあることに想いを巡らせる。
「……そういえば、あれからどうなったのかしら。どら焼きさん達……?」
~~”なろうフェニックスコンテスト”企画・最終御前試合会場~~
年に一度開催される”なろうフェニックス・コンテスト”。
この優勝者のみが書籍化デビューを果たせるという企画に、全国津々浦々から数多のなろうユーザー達が集結していた。
壮絶な試合の果てに一人、また一人と倒れていく中、死闘の果てに勝ち残った二名の戦士がヒナプロ本社において、決勝戦となる御前試合を行う事となった。
決着の場に佇むのは――年不相応な貫禄と闘気を兼ね備えた二人の女偉丈夫であった。
年の頃は、どちらも十代だろうか。
東フロアから現れたのは、焼いたような鮮やかな色黒の肌にバキバキに割れた腹筋、どら焼きを模したピアスを右耳につけたスポーティーな印象の女性であった。
対する西フロアから轟音を響かせて現れたのは、相撲の力士を思わせるような超絶ふくよかな体型に昆布で作られたビキニアーマーを装着した女性であり、彼女は豪快に笑いながら左手で持っていた垢ぬけきれてないひ弱な少年を無造作に放り投げたかと思うと、自信満々に眼前の相手と向き合う。
いわずもがな、彼女らこそかつて”タピオカ女学院”において、惨劇を生き延びたどら焼き あん子と桜咲 餅代の二人であった。
彼女らはあれからすぐに”なろうユーザー”としてサイトに登録し、僅か数カ月でこの”なろうフェニックスコンテスト”の最終御前試合に勝ち残れるほどの猛者にまで昇りつめていたのだ。
鍛え抜いた肉体美を誇るあん子が、懐かしみながら不敵な笑みをともにドスコイ系の餅代へと語り掛けていく。
「まったく、しばらく会ってない内にまたブクブク太ったんじゃないかい?……そんな状態だと、いくらなろうユーザーとしての筆力が上がったところで、実生活だとすぐに男に逃げられちまうだろ?」
対する餅代も、臆することなく「グフフ!」と笑いながら答える。
「な~に!逃げられたところで、男なんていくらでも適当にそこらへんにいるさくらんボーイ達を捕まえてきちまえば良いのさ!!……そこらへん、あん子。厳つく変わったように見えても、『G4』一筋なところとかアンタは変わっちゃいないようで安心したさね!」
そんな餅代に対して、「うっさい、バカ……」と拗ねたように返すあん子。
それと同じように、餅代によって最近大人の階段を昇ったハジケ始めのひ弱な青年も
「……餅代さんだって、普段あんだけ『G4』の事ばっか口にしてんすから、もういっその事本人達にぶつかってみたら良いじゃないッスか」
と呟く。
「ッ!?バ、バカ言うんじゃないよ!!『G4』にアタックするには、まだまだアタシも”女”を上げなきゃいけないんだ!!……そのためにも、あん子。アタシはアンタに勝って、彼らに並び立てるような”書籍化作家”になってみせる……!!」
顔を真っ赤にしながらも、真剣に告げられた餅代の決意。
それに対して目を逸らすことなく堂々と正面から受けながら、あん子も自身の意思を告げる――。
「――上等。こっちこそ本気で挑んでくから、出し惜しみなしでこの数カ月間で得たモノを全てぶつけてきな――!!」
「――応ッ!!」
一切の不純な感情が交じることなく、自身の夢と互いの全霊の境地に到達するために、全力で挑むという意思を示すあん子と餅代。
例えどれほど姿や言動が変わっていても、現在彼女達の中で湧きあがる高揚感は、まさにタピオカを飲んではしゃぐ十代の女子高生そのものであるかのようだった。
二人の準備が出来たと判断した主審が、声を上げる――。
「それでは両者――試合、開始ッ!!」
なろうの会社役員達や、御簾越しに他企業のライトノベル編集長達が緊迫した面持ちで見つめる中、あん子と餅代がそれぞれ取り出した自身のスマホとタブレットを構える。
この決勝戦で書籍化デビューを勝ち取れるのは――どちらか一人のみ。
それでも、そんな少女達を祝福するかのように、一陣の爽やかな春風が二人の間を吹き抜けていた――。
〜〜ズッ友だよ♡〜〜