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どこにもなかった風景、経験しなかった思い出

夜警

作者: あめのにわ

まさかこんな場所に泊まることになるとは、予想もできなかった。


僕たちは三人で暗い校庭に立っていた。

あとの二人は同期の女性である。

たまたま帰りそびれてしまい、同行することになったのだ。


大学の校舎は月明かりに照らされ、山を背景に暗くそびえ立っていた。

深夜の校舎は、ひと気もなく静まりかえっている。

窓の向こう、誰もいない廊下は、非常灯の青い明かりでうすく照らされていた。


夜更け。深夜に近い。

終バスの時刻はとうに過ぎてしまっていた。

終電はまだあるが、最寄りの駅に歩いてゆくだけで一時間はかかってしまうので、もう間に合わない。


校庭から校舎の反対側をみると、下り坂の周辺には暗い果樹園や小山がつづいていた。さらにずいぶん下ったところに小さな住宅街があり、その向こうには橋があった。駅はその少し向こうにあるはずだった。


——向こうにゆこう。たしか、泊まれるはずだ。


僕は二人に声をかけ、歩き出した。

校庭の先にはクラブハウス棟があった。校舎のすぐ脇に建てられた、小さな二階建てのコンクリート造りの建造物である。


詰所部屋の鍵をあけて中に入ると、古いマットレスのかび臭い匂いがした。

畳敷きの部屋だった。誰もいない。


無断で入り込んでしまったので、電灯を点けることはできない。

だが窓からほのかに外光が室内を照らしているので、なんとかなりそうだった。

そのまま、始発の時間までやりすごせばよい。

疲れがたまっていた。僕たちは川の字になって眠ることにした。

しかし、布団は二揃いしかなかった。


———わたしはケットだけで大丈夫。あなたたちは布団使うといいわ。


片方の女性はそう言って、真ん中に寝ることになった。

布団は、やはり、少しすえた匂いがした。


夜になって、冷えてきた。

真ん中に寝ていた女性が、くしゃみをする。

仕方がないので、二つの布団を寄せて、三人で使うことになった。


寄り合って横になり布団をかぶると、互いの体温が感じられた。

真ん中の女性はTシャツを着ていたが、布団の中でこちらを向いた時に、ブラジャーを着けていないのがわかった。

女性は自分でもそれに気がついたようで、すぐに寝返りをうって僕に背中を向けた。


気まずかったのだろう。僕も気づかなかったふりをした。

特に性的な感情を感じることもなかった。それ以上に、疲れていて眠りたかった。


しばらくして靴音が近づいてきた。


夜警の見回りだった。

鍵を開ける音がして、部屋の扉が開く。

懐中電灯のあかりが部屋をひとまわりして、室内を確認している。


見つかってはいけない。

動かなければ、僕ら三人が寝ていることは分からないだろう。

ただの布団の山にしかみえないはずだ。


僕たちは布団の中で動かず、じっと息を潜めた。


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