第4話 〜燃えてきた!〜
ーー放課後ーー
「勇人君、一緒に帰ろうよ?」
「黙れ」
「別にいいじゃん一緒に帰るぐらい」
勇人の流れるような否定に、少し仲良くなっていたと思っていた藍は不貞腐れたように下向く。
「じゃあ、橘さん! 一緒に帰りませんか!?」
日佐人は2人の会話に間が空いた時、今こそ好機だと察し2人の会話に入り込む。
また、勇人も今が好機だと察し、そそくさと教室を立ち上がり教室を出た。
その早さは誰もが目を疑うほどの早さだった。現に藍も勇人に待って! と声をかける前に勇人は教室から出ていたのだから。
「あっ……えっ?」
勇人のあまりにもの早すぎる行動と日佐人のいきなりの申し出に気を取られ頭が混乱し、丁度、5秒間フリーズする。
「あ、ごめんなさい。私、勇人君と帰りたいから」
やっと、思考が追いついたと思ったら普通に日佐人の申し出を断り、勇人同様そそくさと教室の扉の前に着く。
「じゃあ、また明日」
藍は日、日佐人の方に振り返り手を振る。
「…………」
風のように日佐人の申し出を断り、風のように去っていく藍を見ていた日佐人は不思議な感覚になる。
初めて好きな異性に申し出を断られ、しかも、少し迷惑そうな顔をしていた藍を更に好きになっているのが日佐人には分かっていた。
「なんだ、この感覚……これが恋!? しかも、勇人の事を考えるとなんだか燃えてくる! これが恋のライバルって奴か!?」
勇人を選んだ藍への憎しみも、勇人に負けた劣等感も、全ての感情が恋になる。それが、恋愛だ。
それは、勇人には果てしなく遠いものだった。
勇人はいつも通り学校から帰る時は学校に行く時同様、イヤホンを付けている。学校の帰りは魔法少女シリーズのエンディング曲を聴いている。
この曲も何千回と聞いた。魔法少女シリーズの曲は全て歌えるほどだ。
「だーれだ?」
勇人の目が何かに覆われた。突然の暗転に勇人は歩みを止める。
またかよと思いながら勇人は、両手を使って誰かの手を退ける。後ろを向くと案の定、藍が居た。
「ちぇー、答えてから後ろ向いてよ。楽しくないのって、先に行かないで一緒に帰ろうよ」
————コツコツコツコツ
2人の足音が重なる。勇人は後ろから付いてくる藍に気づいていたが余計な事は言わない。
その状態が続き、勇人が住んでいるアパートに着く。勇人が住んでいる部屋は2階にある。
階段を上り始めると藍も一緒に上ってくる。
勇人が自分の部屋の扉の前に着いた時、勇人が部屋の扉を開けようとすると左の方からガチャという音が聞こえた。
左を見ると、最近誰かが引っ越してきた勇人の部屋の隣部屋を藍が鍵を使って開けているのだ。
「は?」
勇人は間抜けな声を出していた。それはそうだろう。何故、藍が自分の隣の部屋を開けているのか?
誰も予想しなかった事だ。
藍は勇人の間抜けな声を聞き、勇人の空いた口を見て、「ああ」と言う。
「あれ? 今日言ってなかったっけ? 私、勇人君の隣に引っ越してきたって」
「は?」
「あ、そうだ。せっかく隣同士なんだし今日一緒にご飯食べようよ」
————気持ち悪い
心が嘆いた。