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第2話 〜偽善者が! 〜

 教室に入った勇人は自分の席に座る。勇人の席は教室の一番左側の列の、1個右の列。その、一番後に座っている。

 この教室では勇人の席は1番端っこだ。人混みに慣れない、人が居たならば喉から手が出る程、居座りたい位置。


 それは勇人が教室の生徒達に嫌われ、先生が仕方なくその席にしたのだ。

 勇人が隣の席にだったのなら、あの鳥肌が立つ程の暴言を毎日浴びさられるのだ。誰が勇人の周りの席を好んで座ろうか?


 そんな者は誰もいない。


 そんな悲しい存在の勇人はいつもの教室に、生徒に安心する。先程会ったあの身勝手な女。あの女と会った時から何故か勇人の心がざわついていた。

 だから、いつも通りの景色に安堵を覚えたのだ。


 だが、日常は少しの疑問から少しづつ正解にいき、非日常になることを勇人は知っていた。その1つの疑問が先程の女。そして、2つ目は目の前にある。勇人の左側は席もなくいつも空いていた、なのに今日は生徒が座る用の椅子と机がある。

 何故、ここに席があるのか? 勇人は疑問に思う。


 あの女から会った時からの胸騒ぎと、この疑問。嫌な予感がする。


 そこから数分後、担任の先生が教室に入ってきた。


「静かにしろー」


 明らかに体育会系の担任の教師、山田健(やまだたける)が手を叩き、騒がしい教師を静かにする。

 教卓の後ろに行き教卓に手を置く山田先生。山田先生は、教室を見渡し最後に勇人を見る。その時に勇人と目が合う。これが3つ目の疑問。


「この教室に転校生が急遽入ることになった」


 その山田先生の言葉に教室はザワつく。

 それで全てが繋がった。俺の隣の席に転校生が来る。だから、今も山田先生は俺を見たと。

 疑問の正解が出た。人なら大丈夫だ。また、暴言を吐けばいい。それが、俺の唯一出来る正解だからだ。


「入っていいぞ、橘」


 山田先生の承諾を受け、教室に入ってくる一輪の花。

 いいやそれは花ではない人だ。だが、花を連想させる程の美しい肩で伸びている青色の髪。

 そして、その目に見られたら皆が恋に落ちるような綺麗な色でひまわりをひまわりを連想させるかのような黄色の瞳。


 そして、その全てを超えるほどの美貌とスタイル。

 胸もそれ以上大きくしたら全てが崩れる。ウエストがそれ以上大きければその完璧さが全て崩れる。

 そう、全てが完璧なのだ。


 それはまさしく、本当にとても愛おしい一輪の花。その言葉が似合う程の女の子が教室に入ってきた。


 それを見た教室の女子、男子の人達は唾を飲む。

 それほど美しい花に皆が声を失う。

 さっきまで、喧騒で埋め尽くされていた教室が彼女だけを見つめる。


 彼女だけのステージが整った時、彼女は喋る。


「どうも、はちゅめまして、橘藍(たちばなあい)でしゅ! よ、よろしくお願いしますっ!?」


 その声は可愛らしかった。声までも完璧全員が思ったが、その完璧さを無くすと言わんばかりの噛み具合に教室に居る全員が笑う。


 噛んだことに笑われ、気恥しそうに顔を赤くする藍。


「は、恥ずかしい」


 教室に居る全員が藍に魅了された。その顔に、その性格に、その美しさに。

 その可愛さにまた教室が喧騒に包まれる。

 だが、それにも例外がいる。それは勇人だ。

 勇人は朝の女はこいつだと気づき絶望する。

 この疑問は、勇人の正解ではどうしようも出来ないほど、勇人を非日常に陥る者だと勇人は一瞬で理解する。


 いや、理解するのではない。心が叫んだのだ、逃げろと。


 勇人は席を立ち、教室を出ようとする。


 その行動に喧騒に包まれている教室の生徒達は気づはずがない。だが、それに気づくのは生徒全員を見ている山田先生と藍だ。

 無言で教室に出ようとする勇人を見て藍は大声で喋る。


「待って!」


 藍の凛とした声に思わず止まってしまった勇人。教室の出口のギリギリで止まってしまった。それを見て藍は小走りで勇人の近くに行く。それをクラスの全員が注目する。


「朝はごめんなさい。さっきは私が悪か————」


「俺に関わるなよ……! 偽善者が!」


 勇人は先程の暴言を超える、暴言を吐いた。聞き慣れた筈の教室の生徒達も藍も、体が固まる。


 これで大丈夫だと、思った勇人は教室を出ようとしたが……


「おいっ! その言い方はないだろ!? 橘さんに謝れよ!」


 もう、大丈夫だと安心したのも束の間……藍への暴言を聞いていたこの教室のリーダー的存在、云わばこの教室の陽キャの頂点の男、久野日佐人(くのひさと)がいつの間にか席を立ち上がり、勇人の近くに行っていた。そして、勇人の肩を掴み、勇人の暴言に負けず劣らずの心の通った声を出す。


「離せよ……!」


 それに対して勇人がやった行動は圧倒的な睨み。

 人を殺した人がやる睨みではない。恐怖を知っている人物が、恐怖を知らせるための睨みだ。


 暴言に続く、睨みに手を離し後ろに下がる日佐人。それを確認して勇人は教室を今度こそ出る


 その光景を見ていた、山田先生は溜息をつく。藍ですら勇人を変えられないと……


「橘さんごめんね、あいつ、まだ厨二病こじらせてるんだよ。だから、気にしなくていいよ」


「ううん、大丈夫。君の善意”は”嬉しかったよ」


 笑顔で返答する藍の笑顔は本当に美しく、本当に可愛らしい。その笑顔を見た日佐人は勿論、恋に落ちる。

 これは同年代だったら必然的な事だ。

 それが作り笑いであっても。


 その可愛さに日佐人は惚ける。藍の眼をずっと見つめる日佐人に藍は気まづくなり、目を背ける。


「おーい! 席に座れー!」


 一向に席座ろうとしない2人を見て、山田先生は手を叩きながら指示する。

 それを聞いて我を取り戻した日佐人。


「は、はい! すいません!」


 そして、藍はまた山田先生の横に行った。


「それで、藍の席は勇人の隣だ」


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