第1話 〜なんで生きてるんだよ.......!〜
高校2年の春。始業式が終わった次の日。中川勇人は朝、ベッドから起きると直ぐにやる事がある。
「…………」
勇人は寝たまま眠たい目を大きくし、両手の指を動かし、腕を動かす。そして、心音を聞くために心臓当たりに手を置く。自分が生きていることを確認して……
「まだ……生きてるのか」
勇人は言葉を零し、自然と涙を流す。昔あったことを思い出し、涙が流れる。これはあの時からずっとおこなっている事だ。
涙なんて枯れるそう思っていた。だが、涙は枯れない。
あの時のことを思い出すだけで涙が出る。それが勇人を縛り付けている原因であって、勇人が生きている本当の理由。
「飯……食うか」
勇人は1DKの部屋に住んでいて、一人暮らしだ。家事も食事も全て勇人が全てやっている。部屋は片付いているが、埃っぽく、家具は必要最低限の物しかない。机、ベット、棚、ほぼそれだけだ。
勇人はベットから下り、立ち上がる。
そのまま洗面所に行き顔を洗う。そして、鏡を見て思う。
なんて酷い顔だと。その顔は顔面蒼白。体調不良だと思う程の顔色だ。
体もひょろひょろで、運動は絶対に不得意だと分かるほどだ。今にも倒れそうな体を動かし、机の上にある食べ物のが入っている袋を開ける。
その食べ物こそ勇人の主食だ。その主食が勇人の具合が悪そうな顔になっている一番の理由となるもの……
「甘い……」
勇人が毎日食べているのは牛乳パンだ。
牛乳パンを毎日3食、2個は食べている。
勇人は甘いのは基本的に嫌いだ。なのに牛乳パンを食べているのは勇人を縛り付けている呪縛のせいだ。
体に絶対に悪い食事を終え、勇人は小日向高校の制服に着替え家を出る。
勇人はイヤホンを耳に付け、歩き出す。イヤホンから流れる曲は魔法少女シリーズのオープニング曲だ。
勇人の趣向と全く違う音楽。それも、呪縛だ。
魔法少女の音楽を聴き歩いていると、歩道の端の方に携帯をいじっている女の子が見えた。女の子は、勇人と同じ学校の制服を着ている。
女の子は勇人が居ることを横目で確認し、携帯をポケット中にしまう。
「勇人君だよね? 私、橘藍ってい————」
「黙れ……!」
あたかも自然のように勇人は暴言を吐いて、藍の隣を素通りする。あまりにもの自然に暴言を吐かれ、自然に通り過ぎた勇人に藍は目が点になる。
勇人が通り過ぎて、数秒後。やっと藍が状況を理解する。
「えっ? ちょっと、待ってよ!」
藍は小走りで勇人の後を追うが、勇人は藍の声が聞こえているのにも関わらず無言で歩き続ける。
藍が勇人を追い越し勇人と十分に距離が空いた時、藍は勇人の方に振り返る。
これで勇人が話してくれるだろうと勇人の目を見て、勇人が話すのを待つ。だが、勇人は藍の姿すら見ずに藍の横を素通りする。
「だから、待っ————」
藍は勇人の肩を軽く掴んだ。勇人は立ち止まり、藍の言葉を待たずに、勇人は藍の手を腕を振り上げて無理やり離す。
「触るな……!」
その声色は、その言葉は冷気のような冷たい冷たい声だった。誰もが聞いたら立ち止まり、耳を疑い自分の今を確認する。
ここは夢じゃなく、現実なのかと?
勇人の暴言は誰もが聞いた事ない上質過ぎる、その為に今、この瞬間が夢ではないかと錯覚する程だ。そして、その後には背筋が凍るような悪寒。
これを初めて聞く藍は呆然とする。勇人はもう慣れたように藍から離れ学校へ歩いた。