第16話 〜ありえんてぃー〜
ーー放課後ーー
「勇人君は……居ないか」
お昼休み同様、喋りたがりの女子達はまた藍の机の周りに集まっていた。女子達の対応に追われていた藍は女子達との会話が終わり、隣の席を見ると勇人は居なかった。
それはそうだ、藍の事なんて知ったこっちゃない勇人は帰るのは当たり前だ。
「藍さん! お話終わりましたか!?」
勇人のいない席を見ていた藍は、突然前から聞こえた声に反応して前を見る。
前を見ると日佐人が右手にビニール袋を持って立っていた。
「あ、日佐人君。終わったけど、勇人君が先帰っちゃったみたい」
日佐人は誰もいない勇人の席を見て、少し落ち込む。
「勇人帰ったのか……。じゃあ、一緒に付いてっていいですか? 勇人に、これあげたいんで」
日佐人はビニール袋揺らし、勇人にあげたいものを行動表現する。藍はビニール袋に何が入っているか、ビニール袋の空いている隙間を見てみると、ビニール袋にはコーヒー牛乳パンが幾つも入っていた。
日佐人が持っているものを見て藍は本当の笑顔になりながら日佐人に喋りかける。
「日佐人君、変わったね」
「そうですかね……。いいや、まぁ変わりましたね」
日佐人は最近、確実に自分が変わったと思っていた。
自分の代わり映えに自分自身驚いているほどだ。昔は見ている物が少なかった、だけど、今は見たい物が増えた。
だから、視野が広くなって皆が笑い始めた。今まで日佐人に対して作り笑いだった藍も本当の笑顔になった。
日佐人は自分の成長は藍のお陰とは思っていない。全部、勇人のお陰だと思っていた。
「行きましょうか」
「うん、そうだね」
「はぁ〜、あーしの言いたいこと分かる?」
無視。
「あーし、普通にあいつの事が邪魔な訳。だから……ねぇ? あーしの言葉、聞いてる?」
無視。
「ねぇ、なんで滝ちゃんのこと無視してんの? マジでありえんてぃーなんですけどー」
無視。
勇人は絶賛、女子達に絡まれていた。
勇人はお昼休みの時の暴力がこもっていた視線に逃げるように学校を出ようとしたが、普通に女子に捕まってしまった。
5人のギャル達に腕を引っ張られ体育館裏まで来てしまった勇人。
「単刀直出で聞くんだけどあんたってさ、クソクソクソクソクソクソ、ビッチと付き合ってんの?」
見るからにこの5人の女子グループのリーダーぽい人に聞かれる質問。単刀直入すら言えないほど程度が低い女子に笑いを堪え、勇人はまたもや無視をする。
無視というより、無言を貫き通している勇人は考える。クソクソクソビッチというのは藍の事かと。いや、勇人と接点があるのは日佐人、藍、松下先生だ。松下先生は絶対にないとして、多分藍の事を言っていると勇人は予想する。
「はぁ!? また無視!? マジでありえんてぃーなんですけど!」
本格的に怒りだしてきた、女5人組。
だが、その中の白髪の女の子はずっと勇人の目を見ている。
怒りだしてきている女達を無視して勇人はこいつらありえんてぃーしか言ってなくねと思う。
「真彩やっちゃってよ」
白髪の女が急に前に出てきて、何をされるか身構えた途端、勇人に襲うめまい。そして、次にくるのはお腹の痛み。
「ッッッッッッッッーーーーー!?」
勇人はお腹の激痛の後に俺は蹴られたと理解する。
女の蹴りは腹の溝に入り、臓器が裏返ったような気分にさせる。勇人は地面に蹲り、お腹を抑える。
それと同時に勇人はその激痛に耐えきれず思わず吐瀉物が口の中を埋めつくした。
だが、勇人は不屈の精神で吐くことを抑える。
「えっ、すご」
思わず声を出す5人組の誰か。
「普通だよ」
白髪の女は何も戸惑わないで答える。
人がこれほどまでに苦しんでいるのに女子グループのリーダー坂本滝は勇人が苦しいんでいる姿を見つめ、勇人に強すぎる蹴りをした山本真彩は勇人の情けない姿にクスッと笑う。
滝はあまりにもの痛さに地面に蹲りながら転がってる勇人の傍に行き、人を蔑む目をして喋る。
「まず1つ、クソクソビッチの秘密を教えること。2つクソクソクソビッチを日佐人君から遠ざけること、この2つのどっちかが出来なかったら毎日虐めるから」
日佐人の名前が出てきて勇人はやっと思い出す。こいつは、日佐人を好きな奴だと。
それで全てが繋がった。全ては愛が悪いんだと。
————ああ、だから愛って奴は嫌いなんだよ
愛は人を狂わせ、それは周りの人間も巻き込む。
そんな愛に勇人は反吐が出た。
マジでありえんてぃーってなんだよ。今のギャル怖ーよ