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第13話 〜ありがと〜

 

 藍の突然の告白に間抜けな声が出た。それはそうだろう。あんなにも完璧な演技が素人にできるはずがない。

 それなのにあれが演技だとしたら絶対女優になるべくして生まれた存在、誰もがそれを頭に浮かべる。


 現に今の勇人だってそうだ。才能の無駄遣い、本当の馬鹿そう思った。


「信じてくれるんだ」


 笑いながら喋る藍になにこいつなに変なことを言ってんだと思う勇人。


 ————信じるもなにも信じるだろ


 勇人は心の中で答えた。

 それを口に出す勇気はない。


「風邪をひいて、勇人君が家に来てくれて物凄く嬉しかったんだ。だったらもっと仲良くなりたいなって思って純粋無垢な私を演じてみたけど、どうだった?」


「マジで気持ち悪いんだよ。自己中野郎が」


 藍に向かって暴言だけは言える勇人。だが、これは本心だ。

 勇人は藍を本当にに気持ち悪いと思っている。

 自分が風邪をひいているのに、自分が苦しい時に勇人と仲良くなりたいからって自分を苦しめるなんて馬鹿みたいだ。


「本当だよね。馬鹿だよね。だけど、今日の勇人君の恥ずかしがってる顔、ものすごーーーく可愛かったよ」


「ッッッッッーーーーー!? 気持ち悪いんだよ!?」


「照れる勇人君って可愛いね」


「くっ……!」


 勇人は普通に藍の手玉に取られる。そのせいで勇人の調子が狂い、藍を可愛いと思ってしまっている勇人がいる。

 だか、勇人は自分の心で思ってることが分からない。いいや、可愛いと思ってしまったこと自体久しぶりすぎて可愛いという感情が分からないのだ。


 自分の気持ちすら分からなくなった勇人は、これは藍へ憤りだと感じた。

 勇人はいち早くこの空間から抜け出したいと思い、この部屋から出ようと決める。

 勇人は鞄を取り立ち上がる。


「待って!」


 勇人が歩きだそうとした瞬間、また藍に手を掴まわれる。

 さっきの反省を活かして勇人は反射的に重心を体の前へと向ける。

藍は自分の方に手を引かない。

 数秒間静寂が続き勇人は気になって藍の方を見る。

 勇人が藍の方向を見たことによって藍は勇人の顔を見て喋る。


「私、寂しいの。だから……一緒に居て欲しいな」


 ————やめろ


 ————その囁きボイスで俺を誘うな


 今日、3回目の葛藤。藍のこの声を聴いた時、勇人は唾を飲み込んだ。


「ダメ……かな……?」


 ————本当に止めろ


 ————その声は、その声色は、その甘え方は、俺を惑わす


 藍からの絶え間ない声撃。昨日の一件から藍が話すと蕾ちゃんの顔が頭に過ぎる。そのせいで藍が勇人を惑わすと、全て蕾ちゃんが言っているのではと錯覚を起こす。

その錯覚は勇人を惑わすには十分すぎた。


「お願い、勇人君」


 ————だから、止めてくれ俺を惑わすなと言っているだろ


 勇人は藍の手を振りほどき、また床に座る。今回の戦争は勇人の負けだ。

 本当に藍に対して物凄く弱くなった。


「ありがと、勇人君」


 藍の本当の気持ちの感謝の言葉に顔を背ける勇人。


「今度は手、繋いで欲しいな」


 藍が勇人の方に手を差し伸べてきた。流石に手は絶対に繋がないと決意する。何があっても折れない。絶対に折れないと心に決めた。


 ーー数分後ーー


「クソが」


 小さい声で暴言で嘆いた勇人。

 さっきと殆ど同じ事が行われ、結局藍の手を握ってしまった。さっき、あれほどまでに心に言い聞かせたのに。一瞬で折れてしまった自分に憤りを感じていた。


 勇人の心と裏腹に藍は勇人の手の温もりに安心して寝てしまった。先程まで寝ていた時より息が荒くなく、苦しそうな顔もしてなかった。


 一般思春期男性なら藍の顔を見ていたら可愛すぎて悶え苦しみ、この小さい部屋で2人切りなので襲ってしまいそうな程、藍の寝顔は可愛かった。


 なのに、勇人は藍に対して呪文を唱える。


「馬鹿、ドジ、間抜け、変な奴、気持ち悪い奴、ブサイク、豚声」


 藍が何も言わないことをいい事に、この2週間で溜まっていた苛立ちを全て藍にむけて言葉を放つ。


 もうそれは呪文のようだった。噛みもせず、同じ言葉を言わないで約1時間も藍への不満を言い続けた。


 なのに心のモヤモヤは晴れない。


 気持ちが悪い、気色が悪い、気分が悪い、心が最悪の状況だ。なのに、なのに、こんなに心が変な気持ちになったのは初めてだ。心地いいのに、気持ち悪い。

だが、その気持ち悪さは昨日のような気持ち悪さじゃない。


心が穏やかになる気持ち悪さだ。


「マジで、お前うざいんだよ。本当に本当にうざったい」


 ーー朝ーー


 ————チュン チュン チュン


 どこからか小鳥のさえずりが聞こえた。その心地よい音によって藍は目を覚ます。

 目を開けた藍は、熱が下がったことを一瞬で理解する。

 そして、次に理解するのは左手の温もりだ。


「ずっと繋いでてくれたんだ」


 左を向くと目を瞑って器用に座りながら寝ている勇人の姿が見えた。


「ありがと、勇人君」

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