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第3話 魔王、ハンバーガーを食べる

 授業とやらが終わり静まり返った教室がまた騒がしくなった。僕と光の周りに人間達が集まってきた。


「光ちゃん、前はどこに住んでたの?」

「彼氏とかいる?」


 人間は新しいものが好きなのだろうか。光は質問攻めにあっている。僕の周りにも数人男がやって来た。


「マオ、だっけ?苗字はなんて言うの?」

「魔王だ。苗字とは何だ。」

「何それあだ名?ギャグ?面白いなお前。」

「じゃあ俺ら魔王って呼ぶから!いいよな!」

「よし、今日帰りに魔王連れてハンバーガーでも食いに行こうぜ。歓迎会しようや。」

「いいなそれ!魔王、忘れんなよ!」


 またクラスにチャイムがなる。集まっていた人間達はそれぞれに散らばって行った。何とも騒がしい者達だ。

 先程まで質問攻めにあっていた光が振り返り意味深な笑いを浮かべている。


「楽しそうじゃないか、魔王。」

「わからぬ。だが、あのように話しかけられるのも笑いかけられるのも、僕は初めてだ。人間とはよく分からぬな。」


 不思議な事に、嫌な感じはしない。

 全ての授業が終わると、僕の所へ2人の男が近付いてきた。隣の席の人間も立ち上がる。


「よし、行こうぜ魔王。」

「うむ、わかった。」

「あ、私も一緒に行ってもいいかな?」


 光が振り返り笑顔で手を挙げている。


「まじ?!可愛い転校生も一緒?!やった!よし皆で行こうぜ!」

「わーい、ありがとう!」

「俺は山野賢一(ヤマノケンイチ)、こっちが川嶋大悟(カワシマダイゴ)!よろしくな!」


 眼鏡のヒョロいのが山野、小柄で短髪なのが川嶋だそうだ。

 僕も立ち上がり、丁度よく横にある窓を開け足をかけた。

 風が心地好い。カーテンが大きくたなびいた。


「では行こうか、ハンバーガーとやらに。」

「え、ちょ、魔王何やってんの。」

「行こうとしているのだ、ハンバーガーに。」

「は?!ここ2階だから!ハンバーガーそっちじゃねぇから!」


 引き止める声を無視して、僕は窓から外へ出た。何やら後ろから悲鳴が聞こえるが気にしない。危なげなく着地し、僕は何事も無かったように何食わぬ顔で校門へと歩き始めた。

 教室の窓から、呆然とした顔で生徒達が顔を出している。

 いつの間に現れたのか並行して横を歩く光が僕を覗き込む。


「…魔王、今あなたは人間なのですよ?自覚あります?」

「外見は人間だが魔力はそのままなのだから、このくらい造作ない。」


 教室に取り残された3人は暫く呆然と2人の背中を眺めるしかなかった。


「何なんだ、あいつら…」


 視線に気付いた魔王が振り返り3人を見上げる。


「お前達、何をしている。僕を待たせるなんていい度胸しているな。」

「お、おい!待てよ魔王!俺らも行くぞ!」

「あ、あぁ…」


 3人は普通に下駄箱へ急いだ。息を荒らげようやく2人に追いつくと、魔王が口を開いた。


「ところで、ハンバーガーとは何だ。」

「え、魔王…食ったことないの?!」

「冗談だよな?!」

「料理長が生きていた頃は色々な食事を食べていたが、死んでしまってもう数百年はまともに食事をとった記憶が無いな。」

「わかったわかった、頑なに魔王設定でいくんだな。よし、魔王初めてのハンバーガー俺が奢ってやるよ!光ちゃんの分もな!」

「「あざす!透!」」

「誰がてめぇらの分まで買うっていったよ!ふざけんな!」


 ぞろぞろと歩いていくと、真っ赤な建物が見えてきた。迷わずそこへ入る。席で待っているように言われ、僕は光と2人で人間達を待った。しばらくすると3人は山盛りの食事を手に戻ってきた。


「わりー、待たせて!」

「ポテト揚げたてだぜー」

「これ光ちゃんね!」

「ありがとう!」

「魔王はこれな!」


 渡された紙包みを開くと良い匂いのするパンが入っていた。これがハンバーガーという物か。人間の食べ物を口にするのは初めてだ。恐る恐る口に運ぶ。


「…悪くないな。」

「ん?それ新作のハンバーガーだけど、いまいち?」

「いや…こうやって、皆で食事をとるのも、悪くないものだな。」

「「「……。」」」


 顔を見合わせる3人。光はまた嫌な笑みを浮かべているようだった。気にせず僕がもうひと口ハンバーガーを頬張ると、3人が何だか楽しそうに笑っている。


「どうした魔王!寂しがり屋か!」

「よしよし、明日から昼飯も一緒に食おうな!」

「今日から俺らもう友達なんだから、飯くらい何時でも一緒に食べようぜ!」

「私も一緒にいいかしら?」

「勿論!!!」


 やはり人間はよく分からない。でも、あの日河原で見かけた君も彼等のように良く笑い、日毎に表情を変えていたのだ。

 とても不思議で不可解で、けれどとても心が暖かくなるような、そんな何かを僕は少しだけ感じていた。




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