第2話 魔王、学校へ行く
こうして、僕は人間の身体を手に入れた。
光の粒からいくつか説明があった。僕の身体は16歳前後の男の人間になっているらしい。魔王である僕の年齢は既に1000歳を超えているが人間に換算するとそのくらいになるそうだ。そして僕は人間の学校へ行くらしい。人間の子供は学校へ行かなければならない決まりがあるそうだ。
僕は小さく頷いた。
「私も共に行きましょう。仮にも魔王であるあなたを、人の世で野放しには出来ませんから。」
光の粒は輝きを増す。光の粒が集まりそれは次第に人の形へと変化した。僕の目の前に、透ける様な白く長い髪の小柄な少女が現れた。少女は満面の笑みを浮かべて言った。
「私の名は、光。さぁ魔王よ、共に行こうじゃないか。人の世へ!」
キーンコーン……
チャイムの音が鳴り響く。同じ服似たような人間の子供たちが一つの大きな建物へと向かって歩いていく。僕はその流れの中に居た。似たような服は光が用意してくれた。
僕の隣を歩く彼女も、女性用の似た服を着用している。
「魔王、どうだい。人になった気分は。」
「…人は、やはり弱いのだな。こうやって同じ格好をして群れをなして生活しなければ生きられないのであろう。」
「君が生きてきた世界とは違う。ここには命の危険はない。皆、平和な毎日を過ごしているよ。」
「平和な、世界。」
光と話すたわいもない会話。突然何かの気配を感じた。何かが頭上からこちらへ向かって落下してくる。頭上を飛び交う黒い鴉。それらから発射された何か。身体の奥底が疼き出す。
〝熱源感知。落下速度30km。重量10g。対象との距離5m。衝突まで、4.3.2…〟
僕は頭上に手をかざす。激しい爆風とともに、落下物は消失した。周りにいた人間達は突然吹き荒れた風に何が起きたのか分からず戸惑っている。強風で吹き飛ばされた者も数名居るようだ。
「熱源消失。危なかった。光、人の世も油断出来ないな。」
「…魔王よ、たかが鳥の糞で魔力を発動しないでくれ…」
僕はそのままざわめく校庭を後にした。人の世も色々な危険があるようだ。気をつけなければならない。
学校へ着くと教室とやらに案内される。教室の中は机と椅子が並べられ皆が同じように僕の方を注目している。その光景は王座の間にて家来達が整列した様子にとても良く似ていた。
「えー、転入生を紹介する。2人とも自己紹介をしなさい。」
「はい、神谷光です、食べる事が大好きです!よろしくお願いします!」
なんだその自己紹介とやらは。可愛いだのなんだの言っている人間を眺めていると光に目配せされた。僕も見様見真似で自己紹介とやらをやってみる事にする。
「魔王です。世界征服とかやってました。よろしくお願いします。」
「先生ー、何言ってるのか分かりませーん。」
「転入生ー、真面目にやりなさい。」
僕は至って真面目である。
「魔王です。魔法全般使えます。暗黒魔法が得意です。」
「先生ー、よく分かりませーん。」
「えー、転入生のマオくんだそうだ。マオくんはマジックが得意だそうでーす。皆仲良くするように。」
僕は窓際の1番後ろの席、光はその前の席へ行くように支持を受けた。席に着くと、横の席に座っている男が声をかけてきた。
「お前、今朝校庭で騒ぎ起こしてた奴だろ?俺は石田透、よろしくな。」
「魔王だ、よろしく。」
「はは、面白いなお前!仲良くしようぜ!困った事があったら何でも聞いてくれ。」
「うむ。」
「静かにしろー、授業を始めるぞー」
教師の声で教室は静まり返った。先程話しかけてきた人間も大人しくそれに従っている。僕はそれからしばらく、黙々と話を始めた教師の言葉に耳を傾けた。




