第1話 魔王→石ころ→?
ご指摘頂きありがとうございます!段落ごとに空白をいれてみました!
もしも、空を飛べたなら。何にも縛られず自由気ままに大空を飛び回るのに。
もしも、魔法が使えたなら。箒に乗って、夜空を駆け抜け、月でのんびりお茶でも飲もうか。
もしも、人になれたなら、胸を張って君の所へいけるのに。
僕は道端に転がった石ころだ。
どこにでもある何の変哲もない石ころだ。1人では動く事も出来ない。痛みも感じない暑さも寒さも感じない。苦しみも悲しみも嬉しさも楽しさも知らないし、涙を流すことも怒ることも笑う事もない。その必要さえない。
ただ一つ、僕が他の石ころと違うところ。僕には前世の記憶があった。僕の前世は、魔王だった。
とても大きな身体で、恐ろしく強大な力を持ち、あらゆるものを焼き払い蹂躙し喰らい尽くした。逆らう者は皆殺し。
泣いて許しを乞う者もいた。まだ幼い子供もいた。老若男女問わず、全て殺した。
そうして僕はついに一人になった。もう誰も僕に逆らう者は居なかった。一人になって数百年の月日が流れた頃、僕の元を小さな光の粒が訪れた。
「魔王よ、お前の願いを叶えてやろう」
光の粒がそう言った。僕は少し考えてから答えた。
「石ころになりたい」
僕は泣いていた。強さを求め全てを壊し全てを消し去った。その結果、僕は強さと引き換えに全てを失ったのだ。
もう一人は嫌だった。悲しみも苦しみも怒りも憎しみも、何もかも消してしまおう。嬉しさも楽しさも忘れてしまおう。数百年孤独な毎日を過ごした僕の心は壊れていた。
「いいでしょう。あなたを石ころにしてあげましょう。」
光の粒がそう言うと、僕は本当にただの石ころになった。僕はほっとした。これでいい、これがいい。
「魔王、私はもう一度だけあなたの願いを叶えてあげる事ができます。これからあなたを別の次元へ飛ばします。願いが決まったら私を呼びなさい。」
そう言って光の粒は消えた。僕はゆっくり目を閉じる。暖かい光に包まれて、石ころの僕は旅立つ。
飛ばされて落ちた場所は何処にでもある普通の河原だった。周りは僕と同じような石ころが沢山転がっている。僕もその一部だ。
石ころになった毎日はとても退屈だった。しかしとても穏やかだ。そうやって幾日も過ごしたある日、一人の人間が河原にやってきた。人間は特に何をする様子もなく、河原に座りただぼんやりと空を眺めている。そんな日がしばらく続いた。今日も人間は一人でやって来た。じっと空を見つめている。でも、今日の人間は泣いていた。声も出さず表情もなくただ涙だけが流れている。
その日から、僕はその人間が気になって仕方がなかった。僕はあんな泣き方を見たことがなかったから。
翌日、人間はまたやってきた。今日の人間はとても楽しそうだ。幸せそうな顔で空を眺めている。僕は不思議だった。泣いたり笑ったり、人間とは実に興味深い。もっと人間について知りたいと思った。
だから、僕は光の粒に最後の願いをすることにした。
「僕を、人間にしてください。」
僕は知りたい。人間を。君を。