第9話 デパートガール登場(イラストあり)
サブタイトルのとおり、彼女たちがいよいよ再登場します。どこがデパコレなんだという話が続きましたが、ようやくタイトル回収です。
第32話と齟齬が発生しましたので、この回に登場するデパガを代えました。確認不足でした。お話自体に変更はありません。
市民生活は兵にとって禁忌だ。
わしはそう教育されてきた。
軍関係者以外の人間を見るのも初めてじゃった。
「街じゃー!街じゃー!」
市場の賑わいを前に、ついはしゃいでしまうのも仕方がない。
てか、なんだかなんかわし幼稚になってないか?
このよぉじょのオツムが小さいせいかもしれん。
元のわしの三分の1もないサイズだ。
オツムだけではないが。
昨日は通り抜けただけだったが、今日は店の中まで見て回る。
馬車はレオナールとともに駐馬場でしばらく待っている。
学校のように馬繋設備はないので、御者が乗っていないと停められない。
「ヒルダ様、この先に有名な洋品店があるのです。服、帽子、靴カバンを主に扱っていますです」
「そういや着替えを買うとか言っておったの」
「はい、ヒルダ様の服が全く足りませんです」
「そうなのか。最初に着ていた貫頭衣と今着てる通学服とパジャマで充分のような気がするが」
「なにをおっしゃているのです!それじゃ着せ替えの楽しみがないのです!」
着せ替えの楽しみってなんじゃ?
時折わからんことを言うなこいつ。
フレイアは店に入ると店員に命じてわしにサイズの合いそうな服を大量に並べさせた。
そしてわしをフッティングに放り込むと片っ端から試着させる。
てかわしは立ったままでフレイアが着せてるのだが。
一着着終わると近づいたり離れたりして前後左右からわしを眺める。
う~~んとかまあかわいいとかいいながら。
これが着せ替えの楽しみなのだろうか?
わからぬ。
しかし目が回る。
結局何着買ったのかはわからんかったが、店員3人が馬車まで荷物を運んで行ったので結構な数になったようだ。
帽子や靴やハンドバッグやらリュックサックやらも買っていたような。
購入費用はどこから出ているのだろう?
一応王国の勇者だから、税金から支給されているのかな?
「武器防具も見たいのじゃが」
「なのです~、ヒルダ様には武器は必要ないと思いますですが、参考になるかもしれませんのです。街中で不埒者がいないとも限りませんしなのです」
「治安はあまりよくないのか?」
「王都は近衛もいますので比較的安全です。でも犯罪はゼロではありませんのです」
「そうか。市民生活は大変だな」
基地は犯罪とは無縁だったからな。軍規は絶対だ。
そのようにわしらは精神調整されて生産されているから、規律を守ることに疑問をはさむ者はいない。
自由意思のある世界は、ある意味わしらの世界よりも物騒で殺伐としているのかもしれん。
武器屋は、予想通りだったが剣や鎚、弓の類ばかりがずらりと並んでいて今のわしの身体では取り回しが難しかった。
炸薬はあるので銃があるかと思ったが、人が手で持つサイズのものはないらしい。
剣も鉄製が中心で鋼が珍しいくらいだから精錬技術の関係で銃身の小型化が難しいのだろう。
まあ逆に言えば街中で銃に襲われる心配はないということだ。
「クナイとか手裏剣はないのか?」
「投擲武器ならスローイングダガーとか円月輪がありますよ。でもお嬢様なら魔法札の方が使いやすいかと。
魔法を帯びているので速度、到達距離、命中精度がかなり高いです。スタン付与とかポイズン付与とかのカードが護身用によくお買い求めいただきます」
武器屋の店主が丁寧に教えてくれる。
「ふむ、見せてくれるか?」
店主が奥から木箱を持ち出してきてくれた。
ガチャリと大きなカギを開けると、中身をカウンターに並べる。
確かにカードだ。
「王立アルド魔法工房謹製のバンシィカーズ一揃いです。12枚完全セットは今はなかなか見当たらないものですよ」
アルド魔法工房が何かよくわからんが、カードは思ったよりもシンプルな物だった。
マルや三角の幾何学模様が描かれているが、魔方陣ほど複雑なものではない。
「省略術式です。投げるだけで詠唱不要で発動するよう最適化されているのです」
フレイアが横から説明してくれる。
「火の壁、水の壁、土の壁、風の壁、麻痺化、毒化、|気絶《シ
ョック》、閃光、隷属、魔法解除、追跡、回収…
最後の二つは何です?」
フレイアがカードの省略術式を読みながら店主に尋ねる。
「追跡はしばらくの間相手の位置がわかります。回収は投げたカードを回収するときに使います。使ったすべてのカードが手元に戻ってきます」
カードは使い捨てではないのか。
「あ、でも一度使うと魔力が充填するまで使えません。カードの右上に青い点がありますね。使うと赤くなります。その後黄色から緑、青に戻ったら再度使えます」
「どのくらいで再充填できるのじゃ?」
「モノによります。ウォールシリーズは単純魔法なので半日程度ですが、隷属や魔法解除は3、4日かかりますね」
いずれにせよ連続使用は無理ということか。
だが、なかなかに面白い代物だ。
「どういたしますです?ヒルダ様」
「気に入った。買ってもよいか?フレイア」
「もちろんなのです、ヒルダ様」
店主に使い方を詳しく教えてもらい、わしはご機嫌で武器屋を後にした。
レア武器ゲットだぜ!
ん?
肉屋や魚屋など食材関係の店が数軒並んでいる前に、この世界に似合わない洋服を着ている一団がいた。
若い女ばかりだが、同じ服を着ている者もいる。
制服…?
「あいつらも召喚された勇者か?」
「いえ、彼女たちはたしかにイマジナリボディですが、勇者とは違うよう…です」
珍しくフレイアが歯切れが悪い。
フレイアが知らないとなると、巫女でもない。
勇者でも巫女でもない、別のイマジナリボディ。
興味深いが、若い女ばかりというのがちょっとためらうな。話しかけにくい。
ここはひとつフレイアに行かせるか。
そんなことを考えながら近寄ると、彼女らの会話が聞こえてきた。
「鮮度はよいですね。これならここでの生活も安心です」
「転移門物流が発達していますからね」
「…でも、肉の掃除はいまひとつ。技術不足。もったいない」
「愛想がいいのはいいけれど、アプローチとニーズチェックは出来てませんでしたね」
「はい、押し付け販売気味でした。たぶん仕入れすぎたんでしょう」
「品物は悪くないのだから、店員教育に力を入れれば売上ももっと上がるでしょうに…あら?」
向こうがこっちに気づいてわらわらとやってきた。
おいちょっと。そんな急に。
わしはドギマギしてフレイアの陰に隠れた。
よぉじょや虎女ならともかく、若い普通の女はまだ慣れん。
「こんにちは、勇者と巫女様とお見受けしました。私たちはデパートガール。フミトくんをマスターとするカードです」
「勇者ミズシマ・フミト様ですね。私はフレイア、こちらが勇者ヒルダ様です」
「かわいい勇者様ですね。はじめまして、私はヤイト・シイサです」
先頭の青い制服の女が挨拶した。
「サイユ・ベルです」
「…フクシマ・ミカゲ」
「キタノザカ・トアです」
「時計売場のおねえさんです」
最後のは名前なのか?
てか囲まれたぞ。女たちに。
それでまたかわいいって言われたな。なんなのじゃ?
で、カードってなんだ?さっき買ったマジックカード的ななにかか?
あああ、近い、近いぞ。心臓バクバクする。
「ミズシマ・フミト様とヒルダ様は勇者学校のご学友なのです」
「それはよかった。フミトくんと待ち合わせをしているのですが、一向に来られないので困っていました。メッセージに既読がつかないし、ダイレクトチャットも反応なしです。
学校まで様子を見に行こうかと相談しておりました。パートナーのアリューナが一緒なので大丈夫だとは思いますが、初日から居残りでもさせられているのかと。
フミトくんはどうしていましたか?」
「2時間目以後授業サボっていたぞ。帰ったとかなんとか聞いたが、ははあ、もしかしたらそれで怒られているのかもなあ」
「えええっ」
デパートガールたちが一斉に声を上げる。
ちなみにデパートガールはわしも知っておる。知識としてな。
「そ、そんなあのフミトくんが…」
「いつの間にそんな不良に」
「これはいけません、対策会議をただちに」
「全員で協議が必要です。すぐに屋敷へ」
「というわけでヒルダ様、フレイア様、私たちは失礼いたします。またお会いしましょう!」
デパートガールたちは風のように去って行った。
よかった。ほっとした。
しかしフミトめパートナーだけじゃなくてあんな女たちも従えているのか。
マスターと呼ばれていたし。
「彼女たちはミズシマ・フミト様が使役するある種の精霊…使い魔的な存在のようです」
フレイアが彼女らの去った方を見ながら言う。
「それはフミトのあの能力なのか」
「そうです。今、巫女ネットワークで検索しましたです。デパートガール・コレクション、という能力です」
「ふうん、それであいつらでどうやって戦うんじゃ?あまり強そうには思えんかったが」
「カードの組み合わせによりさまざまな能力を発揮するです。彼女たちはふだんはカードの姿で、デッキにセットすることで実体化するのです」
「組み合わせということは、ほかにもいるのか?」
「そうです。20人以上はいるのです」
「なんと!」
20人以上の女を使役するよぉじょみたいな男、ミズシマ・フミト。
たいしたやつじゃ。
奴を見くびっておったな。
その後もネックレスやらブローチやら傘やらなにやら買い足して、そのたんびにフレイアに着せ替えさせられうんざりした。
ケーキやおかしやらを買うときはなぜか胸がときめいたが。なんでじゃろう?
反対に酒にはときめかんかったな。カロリー制限があるから基地では週1回しか飲酒は許可が下りず、ここでは飲み放題だというのに。
この体のせいなのか?ううむ。
そんなこんなで、屋敷に戻った頃にはすでに陽が沈みかけていた。