第8話 ランチパーティー
クラスの親交を深める話ですが、フミトくんは相変わらず不在です。
フレイアの弁当は旨かった。
そういえば、馬車を曳く馬はわしの知っている馬の姿と同じだったが、家畜も牛や豚や鳥あたりなんじゃろうか?
弁当の肉団子は牛と豚の合挽き肉のようだったが。
つけあわせの野菜もきゅうりやレタス、トマトに見えるが。
昨夜の夕食は覚えてないが、朝食はパンと目玉焼きだった。気にせずに食ったが、あれも味も見た目も鶏の卵だったな。
我が軍でも、知的生命体、つまりわしらの姿が恒星系をまたいでも大差がないということに各種の説があった。
平行進化説、銀河遺伝子伝播説、幾何学偏移制限説、虚空誘導条件説、p粒子収束説、ストレンジプログラム内蔵仮説…
最後の方は眉唾だが、観測された事実として知的生命体の姿は生物として同じと言っていいレベルに収まる。
それでも、系による進化途中の振幅は大きく、食用生物などは星によってかなり異なり、多彩な食文化を生み出している。
まあ、わしはもっぱら栄養優先で軍用食ばかり食べていたが。
あ、もしかしてイマジナリ?
「いえ、王都の普通の食べ物です。馬も牛も豚も鳥も、古くから飼われているのです。そりゃ昔に比べたら品種改良はしていると思いますです」
とフレイアは言う。
たまたま標準惑星と同じような進化の幅であったのか、あるいは星からの神々とやらが標準的な遺伝子を持ち込んだのか。
まあ、今までの常識の範囲内に収まるのは助かる。
重力や空気組成や太陽スペクトルも元の世界とほぼ同じだ。デカい月が2個あるくらい、些細な違いだ。
いや、モンスターがいたか。
あれを含めると、標準進化モデルでは説明できんレベルの振幅があるな。
あれも考えてみれば、生物兵器の一種かもしれんなあ。星からの神々とやらの。
てなことを考えながら、シドウの机をふと見ると奴のパートナーのリリエファがサンドウィッチやオードブルセットの大皿をどんどん並べていた。
さらにグラスにパープルの液体を注いでいる。
あれはワインかっ。
「シドウ、お前はどんだけ食べるんじゃ!?しかも昼からアルコールだと!」
「そうかい?普通だよ。ってかこれは皆さんにも食べていただきたく。うちでランチと言えばこんな感じなんだよ。みんなでワイガヤしつつ摘まむのさ」
ぐぬぬ、彼の軍恐るべし。
「えー、おいしそう。でも太っちゃうかな?」
パヴァ、貴様それを気にするような体形じゃないぞ。
「わたくしのグリルチキンもご提供いたします」とパヴァのパートナーのウミュカも皿を出して並べる。
どこから出したんだ?収納魔法かな?
「じゃあせっかくなので皆さん持ち寄りでランチパーティーにしましょうか」
フレイアもダムドのパートナーのサザロイも負けじと大皿を並べる。
貴様らも、一体どこにそんな大量の料理を隠し持っていたんじゃ?
準備が良すぎるじゃろ。
というわけで、なし崩し的に机を囲んでの即席立食パーティーがはじまった。
「飯がうまいのはいいな!この世界はそれだけで価値があるな」
「ヒルダちゃんもうちょっと話し方おしとやかにならない?」
「貴様の話し方も見た目にあわんぞダムド」
「そう?まっちょがオネエ言葉なのは結構デフォだと思うんだけど」
「パヴァ、何を言っとるのかわからんぞ」
「ワインもなかなかだね。生ハムによくあってる」
しれっと馴染んでるな。シドウとは今だけの共闘。明日は寝首をかく間だ。きゃつのペースに巻き込まれてはならんな。
話題を変えるか。
「邪神どもについてどう思う?シドウ」
「情報が少なすぎるね。今までのデータだと人工物のように思えるけど。案外イマジナリの一種かもしれないけどね」
「倒せると思うか?」
「どうだろう。イマジナリの力はあなどれない。それは僕らにとって有利だが、邪神もイマジナリなら条件は互角になる」
「活動限界があるというのはわしらとはちょっと違うな」
「それもわからないよ。少なくとも僕はイマジナリ化してから30分以上も全力で戦ったことはないからね。僕らもエネルギー切れを起こさないという保証はない」
「むう。やってみるか?」
「今日はおいしいワイン頂いているからね。それにどうせ明日以降午後は実技タイムだよ」
時間割というやつだな。わし知らんぞ。
と、フレイアが下敷きを指さしてる。うん、下敷きの中に、升目で区切られた紙がはさんであるな。
あっ、これが時間割か!
「昨日の晩渡しましたのです。夕食前にです」
すまん、昨日の記憶はあまりないのだ…。
しかし、明日からは体を動かせるのじゃな!ふふふっ見せてやろう「百光年の暴竜」の真の姿を!
「フミトきゅんあのまま帰っちゃったみたいだね」とパヴァ。
「早退か。そんなんでこの先やっていけるのかのう?」
「あなたが言う?」
ダムドに怒られたが、なんで怒られたのか分からん。
「アリューナがフォローしてると思うよ。そのためのパートナーだろ?」
「ええ、そのとおりですシドウ様」
リリエファがシドウの片手を抱くようにして相槌を入れる。
なんか見てて恥ずかしいな。というかシドウそんなに女に密着されてよく平気だな。
「彼の軍は男女が一緒にいるのか?」
「あたりまえじゃないか?なに?ヒルダのところは男と女が別々なの?」
「わしはここに来るまで女に会ったことがなかった…」
「これはびっくりだね!それで自分は幼女になってるの!?そりゃ大変だね、いやお気の毒に」
シドウは笑いをこらえながらそういうが、わしはなんで笑われているのかわからんかった。
やがてランチタイムはお開きになり、わしとフレイアは御者のレオナールの案内で城下町観光としゃれこんだ。
天気もいいからな!まだ昼過ぎだし。
次回は市場で買い物です。そしてついに「彼女」たちが登場します!